第3話 会社の後輩小悪魔は無意識に元気を振りまく

「ちょ、ちょっと、そんなに泣いてどうしたんですか⁉︎」


「彼女のために自分を犠牲にして、交通事故で息を引き取ってしまう狐のペロの映画見た時だってそこまで泣いてなかったのに、なんでそんなにボロボロ涙を流して泣くんですか!」


「どこか痛いところでもあるんですか? そりゃ心はかなり痛んでるでしょうけど……」」


「え、私が優しすぎる?」


「いや、誰だって自分の彼氏が落ち込んでたり悩みを抱えてたら優しくしますって。私が特別優しいわけじゃないと思いますよ?」


「でもそうですよね。先輩の話聞いたら無関係の私でさえ腹が立つくらいなので、泣きたくなるくらい辛かったんだろうなっていうのは容易に想像がついちゃいます」


「しかもそれを誰にも理解してもらえなくて、相談することすらできなくて」


「そりゃ大変に決まってますよ」


「よしよし。いつもお仕事頑張っててすごいです」

//SE 頭を撫でる音


「毎日本当にお仕事お疲れ様です」

//耳元で囁くように


「それだけ嫌なことがあっても逃げ出さずに最後までやり遂げる責任感が強くて誰にでも優しくできる先輩が大好きです」


「だからこそ、先輩が仕事で辛い思いをしてるのは心配で仕方がないんですよね……」」


「あ、いいこと思いつきました私」


「いっそのこと先輩も私も一緒に会社を辞めて、他の会社に転職するっていうのはどうですか?」


「上司は選べない、って格言があるくらいですからね。選べないなら今の会社を辞めて別の会社に行くって手を取るしかないじゃないですか」


「まあそれだと転職先の上司も鈴木課長みたいに最悪な上司の可能性はありますし、そもそも先輩と私が同じ会社に転職できるのかっていうそもそもの問題もありますけど」


「あ、そうだ。私たち2人でカフェを経営しちゃうとかどうですか?」


「お金のことなら心配ありません。私結構お金貯めてるほうだと思うので」


「それに私、必要最低限の生活が送れればそれでいいと思ってるタイプなんで」


「贅沢とかしなくても、食べるものに困らないくらい稼いでいれば問題ありません」


「……?」


「難しい顔してどうしたんですか? 私と2人でカフェ経営するの嫌でした?」


「え、そういう話じゃない? じゃあどういう……」


「え? それってもう結婚する前提だよな?」


「そ、そそそそそそそそ、そういうわけじゃないですよ⁉︎」

//焦るように


「いや、そういうわけじゃないわけではないんですけど……」


「というかむしろ完全にそのつもりで話してはいましたけども……」


「と、とにかく前向いててください。スーツに涙付いちゃう前に拭いちゃいますから」

//SE ハンカチで涙を拭う音


「先輩は私と結婚したくないんですか……?」


「え、したいに決まってる?」


「へ、へぇ。そ、そうなんですね。ふーん。へぇ。ほーん……」


「じゃあ楽しみに待ってますね。先輩からのロマンチックなプロポーズ」

//耳元で囁くように


「もういつまで泣いてるんですか。そろそろ泣き止んでくださいよ。ハンカチびしょびしょになっちゃうじゃないですか」


「……」


「……ごめんなさい。私、彼女なんだからなんでも分かってるってえらそうなこと言っておきながら先輩がこここまで悩んでるとは思ってなかったです」 

//落ち込むように


「本来なら毎日一緒に生活してる私がいち早く先輩の異変に気付かないといけないのに……」


「私、彼女失格ですね」


「……え、毎日元気をもらってる?」


「私先輩に元気なんてあげられてません。むしろ私の方が先輩から元気をもらってます」


「だって私が本当に先輩に元気をあげられていたとしたら、先輩がここまで思い詰めて涙を流すことなんてなかったでしょ?」


「私がいたから大丈夫だった? どういうことですか? 先輩めっちゃ泣いてたじゃないですか。今更私の前で涙を流したことが恥ずかしくなってきて強がってるんですか?」


「え、私がいなかったら120%溜まってた不満が私のおかげで80%で止まってた?」


「なるほど、それなら貢献できてないわけでは……ない? んですね……」


「……いや、優しい先輩は私が責任を感じないようにそう言ってくれてるだけです。私からしたら、その80%をできるだけ減らしてあげたいし、0%にするのは無理だったとしても、限りなく0%には近づけてあげたいんです」


「そうじゃなきゃ、やっぱり先輩の彼女失格です……」


「仕事もできない、自分の彼氏が悩んでいることにも気付いてあげられない、挙げ句の果てには炊事洗濯さえままならない彼女なんて彼女である必要がないですよね……」


「--いや、ここで私が落ち込んでても先輩のことは癒してあげられませんよね!」


「自分が不甲斐ないことを認めてこれから先輩をどう癒してあげられるかだけに注力します」


「ってことでとりあえず肩でも揉んであげますね」

//SE 肩を掴む音


「なんで肩揉むんだよって、肩揉みしてあげれば先輩が溜め込んでる80%のストレスが78%くらいにはなるかと思いまして」


「別にいいって、遠慮しないでください。デスクワークなんて1番肩が凝る仕事なんですから」


「それじゃあ失礼しますね」


「先輩……見た目より結構いい体してますよね」


「まあ私は夜の先輩を知ってるので先輩が見た目より筋肉質なのは知ってますけど」


「よっ、ほっ、はっ」

//SE 肩を揉む音


「だいぶ凝ってますね。心だけじゃなくて体にも疲労が溜まってるみたいですね」


「まあ先輩が溜まってるのは疲労だけじゃなくて……こっちの方も溜まってそうですけど」

//SE 下半身を触る音


「ふふっ、そんな動揺しないでくださいよ〜。まさかこんなところでおっぱじめるわけなんてないんですから」


「ちょっとでも元気が出たみたいでよかったです」


「元気になってないって、体は正直みたいですけど……」


「あ、先輩怒った」


「もうからかわないので許してください。少しでもいいから先輩に明るくなって貰おうと思っての行動なんで」


「今はどれだけ暗くても、いつか絶対に明るくなる日がやってきますから」


「太陽と一緒です。太陽は毎日東に沈みますけど、次の日になればまた西から登ってきますからね」


「ちょっ、なんでそんなに笑うんですか⁉︎」


「え、太陽は東から登って西に沈む?」


「あれ、私がどこかで聞いたのは西から登って東に沈むって話だったんですけど……」


「ちょ、なんでそんな笑うんですか〜」


「え、いつの時代の間違いだよって?」


「先輩が何言ってるのか分かんないんですけど〜」


「でもようやく笑ってくれましたね」


「なんで笑ってるのかは分からないですけど、元気が出たみたいでよかったです」

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