ビルの屋上から

「今日の仕事は、アレか」


 散ったばかりの欠片カケラを見付け、

 男は気怠けだるそうに つぶやいた。


 淡く光を放つ、それ。


 いくら欠片を集めても、輪郭りんかくはぼやけたままで。


 それでもいいさ

 と、

 男は思う。


 空にかえることができるなら。


 来るべき時が来て還る魂なら、

 男がわざわざ迎えに行くこともない。


 かえる場所もわからずに、

 地にい 彷徨さまよい 続けることのないよう

 男が 迎えにいくのだから。


け」

 淡い光は ふわふわとして

 男の言葉を 受け入れ かえる。


 空へ かえる。


 今宵、新月。

 月が ぶのは 終えた 光か。


 かえる 生命の 多き 夜。


 男は、

 そっと ビルに降り立つ。


 ビルの屋上は、冷たくて 淋しくて

 無機質な地に、男は手を伸ばした。


 拾い上げた小瓶。


 中に 何か 入っている。


 男は 気紛きまぐれに それを 取り出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る