1―28 真実を、確かめに行きましょう
「理由を述べるために、先に私の、物に宿った感情を読み取る能力について説明します。
私は物に感情が宿っているかどうかはわかりますが、それがどのような感情か直接はわかりません。感情が宿っている物同士を比較して、定性的に、宿っている感情が同じかどうか区別できるだけです。
そのため、あらかじめ『このような感情が宿っているに違いない』と断定できる思い出の品から感情を読み取ることで、遺品に残された感情が何か判別できるようにします。表彰状と同じであれば喜びや満足感、壊れたオモチャと同じであれば悲しみという具合に。
そうして故人の思い出を正確に理解することで、最期の記憶や想いに近づく訳です。今回の場合、リュックサックに残された感情を判別できるようにするために、ご自宅で長時間にわたりヒアリングさせていただきました」
「なるほど」
「そして昨日リュックサックを手に取った時、
「つまり、振り出しに戻ったということですか」
「リュックサックの感情の正体を突き止める糸口はあります。そのために、質問させてください」彼は宝箱の中にあったというフィギュアの腕を手に取った。「これは何か、ご存じですか?」
こちらがあぐんでいるのを察してか、探偵が言い添える。
「思い出してください。このパーツには、リュックサックと同じ感情を、それもとても強く感じます。
あなたの記憶に、ヒントがあるはずです。
それを、
そんな代物が――
「父のかも知れません。父のコレクションしていた怪獣フィギュアで、腕が外れてなくなった物がありました」
「お父様は亡くなられていますよね。であれば、お父様のものでしょう。それを
自分は、父
疑問に思ったが
「多分、隠していたんだと思います。私の実家に遊びに行った時、
それで結局、父が『どこかに落ちて、掃除機で吸っちゃったのかも知れないから』って許しちゃったんですよ。俺が小さい頃、コレクションを触った時はぶん殴ったクセに、孫には甘いんだから」
亡き父に思いをはせると、自然とため息が出る。
「
それを契機に、おぼろげで断片的な記憶が、はかなくても確かに存在していた糸でつながっていく。
知らなかったことが――否、きっと瞬間的には察したり、もっと考えれば理解できたのに、忘れてしまったり、考えていなかった息子の感情が――『想い』が、見えた気がした。
父は、見えたものを、そのまま口にする。
「悔しかったのかも」
目の前の男性は何も言わない。
「
父は、ゆっくり呼吸する。
「こんな隠しごとは、悪いことです。けど、次こそは言おうなんて思って、やってしまった。
そして、次なんて、こなかった。俺の父が死んだのは、それからすぐのことでした。
パーツを返すタイミングを永遠に失った
苦しい思いを、1人で抱えていたんです。ずっと」
「そんな……」隣で
大きな目に涙を浮かべて、口元を手で押さえて、しかしそれ以外のことはできないまま、夫を見詰めていた。
「リュックサックに同じ感情があったのは、土曜日の散歩の時に、俺も
あの時、俺がいつまでもタバコなんて吸ってないで、ちゃんと相手してやれば、
「それとこれとは、関係ありません」
と、霊感探偵はハッとした顔になってから、うつむいて深呼吸した後、顔を上げる。
「このフィギュアの本体はありますか? それを触れば、感情も、記憶もわかると思います」
暗闇に光が差した気がした。
「だったら丁度、私の実家にあります。フィギュアはほとんど母が処分しちゃいましたが、腕のないやつだけ残しているんです。『万が一パーツが帰ってきた時に、届けてあげたい』とか言って」
「是非、確かめさせてください。
真実を、確かめに行きましょう」
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