12・ナツミ
コハルはそろそろ自転車で乗り続けることに慣れてきつつあるところだったので、止まって日陰の下でぼーっとしていると体がだるかった。
でも南から吹く風は、すこし湿り気があるようだったけれども気持ちよく、
むき出してはない、そでつきの服が汗で濡れ、塩分を残してじわじわと蒸発しているのが感じられた。
携帯端末のマップで、路上観察をしている場所は正確にどこだか分かるので、ミユキは撮った画像に日時と場所、植物や鉱物の情報を書き込んでいたら、画像の添付情報でそういうのは記録されてるはずなんだけど、と、アキラは教えた。
イエとガッコウ、それに近くのマチで撮るような画像は、アキラもさまざまなキカイの形を記録していて、すでに何百枚単位であるはずなんだけど、位置情報はマチの中ではそんなに意味はなかったのだった。
そこでミユキは音声入力でミユキの感想を記録した。
黄色い花が咲いていてきれい。
まあその程度のことである。
誰に対しても沸点の低めなナツミは、そんなんじゃ違う、と言った。
ここにこの花が咲いているということの意味はある、でももっと周りを見なくちゃいけないんだ。
つまり、どういうような環境のところだとどういう風に特定の植物が群生していて、それはどうしてなのかということも考える。
つまり大きく言えば、ひとつの花からセカイを考えるということだ。
確かにそれは非常に納得できる意見のような気もしてくるのだった。
えーと、それじゃおまかせします、とミユキは言い、それは言いかたによっては皮肉やいじわるのようにも受け取られるような言葉だったけど、ナツミは、まかせろ、と返したので、やっぱり、ふたりで考えながら記録つけるようにしませんか、と、ミユキは考えながら答えた。
*
ナツミは道の途中で、ちょっと待って、とわりと不規則に言う。
いい気分で、「カントリーロード」とか「果てしない道」みたいな、非常に孤独な自転車乗りには向いてそうな、そして複数の自転車乗りがコーラスしながら歌う曲が、進んでいるといくらでも思いつく。
そして、ナツミがそう言うと、そこはフフフーン、じゃなくてフフフフーンだよ、と適切な指摘をする。
そんなナツミに対しては、いちばんムカつきそうなのはアキラのような気がコハルにはしてたけれど、あ、そうか、と、言って、同じようなところを、ナツミが、よし、と言うまで繰り返す。
どうもナツミに対するアキラの感情は、いつもそんなに強いものではないらしい。
ときどき、コハルたちはナツミを甘やかしすぎているのではないか、とは思うけれど、ナツミがなにかを言い張るときには、たいていちゃんとした理由があるので、なぜか許してしまうのだった。
そしてナツミとミユキが、ちょっと止まって、というときは、歌ではなくて自転車を止めるときで、先頭を走っているアキラと、その次に続いているコハルは、道をUターンして数メートル戻ることになる。
ナツミとミユキは道の脇で、コハルたちには見えないようなものを見つけるのが上手かった。
ナツミが路肩からすこし離れたところで拾ってくるものは、たとえば泥だらけのゴム手袋だったり、塗装が落ちてしまっている昔のコーヒーの空き缶だったり、赤く錆びたバールのような棒だったりする。
つまり今のキカイには使う用にないもので、かつてコハルたちと同じヒトが住んでいた痕跡のようなものが、確かにあちこちで見つかる。
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