夜の帳が降りる頃に

KaoLi

序章

天の戯れ

〝天帝〟は、「退屈」という言葉を、最も嫌う存在であった。



 天帝と呼ばれる、かの存在は世界の創造神であり、すべてにおいての祖である。

 世界に塵すらも存在しない頃。退屈しのぎに天帝はまず手始めに、自らの命を削り〝夜〟を生み出した。

 夜は感情の無い男であったが、天帝はそのつまらなさに面白さを見つけた。

 夜は宵闇を作ることしかできない童であった。


 幾らかして天帝は再び退屈になり、次は〝日〟を生み出した。

 日は夜とは違い感情の激しい男であった。煌々と輝く日の光は、夜のもたらす宵闇を打ち消してしまうほどの力を持っていた。それはそれはおかしなくらいに。

 これからもう少しのとき退屈をしないで済みそうだと、天帝は日に興味を移し始めた。いつしか天帝は日を可愛がるようになり、夜は見向きもされなくなってしまった。


 夜は感情の無い者ではあったものの、天帝と日と共に過ごしていく中で少しずつ〝心〟というものが彼に育ち始めていた。天帝が日にばかり構えば、それでは夜の生まれた意味が失われてしまうと、焦った夜は日にひとつ提案を持ち掛けた。


「日殿は陽光を、私は宵闇を、それぞれ交互に世界へと齎さないか」


 日はその提案に乗り、彼らはその日を境に交互に世界へ陽光と宵闇を齎し始めた。


 彼らが自らの意志を持ち何かを成し遂げるその光景を退屈に思った天帝は、次に〝月〟を生み出した。

 月は感情こそ乏しいものの、日にも夜にも劣らない存在感を有していた。

 宵闇に浮かぶひとつの光。それは日の齎す陽光とは違う、美しさを持っていた。



 夜は世界に宵闇を齎し、日は世界に陽光を齎し、月は双方の世界に浮かび、彼らを照らす幻想を齎した。

 意志を持ち行動をし始めた彼らを、天帝は次第に面白がった。しかし勝手に行動されることは面白くなかったため、ではお前たちの世界に意味を与えてやろう、と天帝は彼らを世界の歯車とした。


 日が昇り、夜が目覚めれば宵の世界が訪れる。宵が訪れればそこに一点のかげりもない月光が現れ世界を照らすのだ。


 しかし、いつしか彼らは世界の部品であることを忘れ、存在する意義を放棄した。


 そのことに気付いた天帝は、これを良しとせず、中でも最も使命を怠った月に対して怒り、天罰を下した。



 彼らにとって最も残酷であろう方法で。

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