1-4 岩永朝司

 朝司が話し終えても、咲那の眉間にできたシワは消えなかった。


「あの……小井塚さん、そんなに秋月のこと嫌いなの?」

「九重さんにとってのハッピーエンドは相談者と別れることだと思います。放っておくのが一番のハッピーエンドじゃありませんか?」

「だとしても、相談してきたのは秋月だしね」


 咲那はまだ納得がいっていないのか、腕を組んだまま黙り込んでしまう。


「他の相談じゃあダメですか? それに、相談者みたいなクズは私の小説の読者にとってもウケが悪い気がします」

「でも、実際の話なんだからリアリティーはあるだろ? それに、解決してくれたら君が好きそうな相談を教えてもいい」

「……手伝わなかったら?」

「君と俺の契約は終了ってところかな?」


 咲那は盛大なため息をつきながら「わかりました」と言い、更に続ける。


「話を聞いてて疑問に思ったことがあります」

「なにが?」

「つきあいはじめたのはいつですか?」

「二、三ヶ月前だって言ってたね」

「九重さんは性格のいい美人さんです。女子ウケもよく友達も多い方です。顔がいいだけの人とつきあうかな……」


 朝司の知る秋月は優しい奴だった。困っている人がいると率先して助けていたし、バカな男子が女子を容姿の件でイジメていると「そういうの、マジでダサいからやめろ」と止めたりしていた。


「たしかにあいつは恋愛に関してはひどくだらしがない。でも、根は真面目で正義感の強い奴なんだ……ほんと、欠点といえば、告白されたら誰とでもつきあってしまうという一点だけなんだよ」

「致命的な欠点ですよ、それ」

「そんなあいつが生まれて初めて自分から告白してつきあったのが九重さんらしい」


 咲那はまだ疑念があるようで「うーん」と眉間のシワを更に深くしていた。


「今さら感が強いんですよね……」

「どういうこと?」

「つきあう前に相談者のクズな噂のことを九重さんは知ってたと思うんですよ。あと、周りも止めたと思いますし。それが、今になって、というなら、理由があると思います。その辺、何か言ってませんでしたか?」

「いや、特には……」

「相談者がなにか隠し事をしている可能性が高いですね。例えばモラハラしてるとか。DVクソ野郎だとか」

「そういうことしないと思うけどな……なんやかんやで女子には優しいんだよ」

「浮気のための優しさなら、無いほうがマシですけどね」


 咲那は呆れたように言ってから「わかりました」と続ける。


「私のほうでもいろいろ調べてみます。岩永さんには見せなかった顔があるかもしれませんし」

「頼むよ」

「岩永さんも岩永さんでできることをしてください」

「ああ、できることをする」

「もし、相談者がモラハラかますDVクソ野郎だったら、私は全力で九重さんの側につきますからね」

「ああ、それでいいよ」

「それと、どちらにせよ、問題を解決したら、もっと胸キュンするようなコイバナを聞かせてくださいね。こんな胸糞悪い相談者の登場しない系の話でお願いします」


 念押しされたので「当然だろ」と肩をすくめてみせる朝司だった。


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