第7話

 僕が食堂のおばちゃんからカレーうどんを貰い、サーシャを探す。


「あれ?いない?」


 ぱっと探してもサーシャらしき人影を見つけられることが出来なかった。


「あ、あれかな?」


 そんな中で、僕はようやくサーシャかもしれないのを見つける。

 そこにはサーシャの姿はなく、たくさんの男たちの姿が見えた。

 だが、その様子は誰かを囲んでいるようにも見え、男たちの中にアトラント伯爵家の次男であるサザンドラの姿もあった。

 確かサーシャと初めて会った日、サザンドラに平民だからと絡まれていたはずだ。

 僕がその集団に近づくと案の定サーシャの声が聞こえてきた。


「何してやがる!」


 僕は強引に男たちを押しのけ、サーシャの前に立つ。

 この男の前なら強気に行ったほうがいいだろう。


「また平民か。……おとなしく平民としての職務を果たしていればいいものを」


 サザンドラが僕の素型¥を見てため息をつく。


「あ?なんだよ?」


「悪いことは言わん。ここは平民が居るべきところではない。さっさと去るがいい」


「はっ!くだらねぇ。僕より弱い奴が何かほざいてら」


「戯言を」


「じゃあよ。こんなのはどうだ?今度の中間試験。俺とお前でテストの点数を比べると言うのは?もし僕に負けたらお前は俺に謝罪して、金輪際サーシャにも絡むなよ?」


「ん?クラス対抗ではなく個人でか?」

 

「当たり前だろうが。そんな勝負フェアじゃないだろう?ルール的に不利な相手を叩いたことでつまらないだろう?あなたは誇り高き貴族だ。アンフェアな戦いを望むわけがないよな?そして、平民ごときに叩きつけられた挑戦から逃げるわけないよな?」

 

 アトラント伯爵家は良くも悪くも貴族の家なのだ。

 自身が貴族であることに絶対の自信を持っている。

 ここで僕の勝負から逃げるはずがなかった。

 

「当然だ。つまらぬ幻想を抱き、調子に乗っている平民、しかもスラムのガキにこの世の真実を突きつけてやろう。俺が負けたときには素直に従おう。しかし、もしお前が負けたらお前たちには退学してもらう。それでいいな?」


「はっ!できるもんならやってみろ!いいぜ。負けたら退学でもなんでもしてあげるよ。いいよな?サーシャ」


「うん」


「言ったからな?」


「あぁ。じゃあ。行くぞ。サーシャ」


「う、うん」

 

 僕はサザンドラを押しのけ、歩き出した……ごめんね。サザンドラ。

 僕は心のなかでサザンドラに謝罪した。

 そもそも僕は貴族のようなものであり、血統で見れば最上位と言える

 なんか騙したみたいで申し訳ない。

 

「ノーン君。あんな感情的に喋れるんだね……私嬉しかったよ」

 

 僕に連れられる形となったきつねうどんを持つサーシャが僕に向かって嬉しそうに告げる。

 

「当然だよ。異端審問官として演技出来ないのとかありえないでしょう?」

 

「え?」

 

 異端審問官は時として潜入任務に従事することがある。

 演技は義務とも言えた。


「……そ、それにしても、あの人の口調とか諸々全然違ったね。なんでだろう?」

  

 僕の言葉を聞いてしばしの間沈黙していたサーシャが再び口を開く。

 

「ん?あぁ、それもそうだろう。取り巻きたちがいる前で粗暴な口調など使えないであろう。威厳たっぷりに話さなくては舐められるからね」


 むしろ、あそこでサザンドラが粗暴な口調を使っていたことが驚きなのだ。

 サザンドラは選民思想が強いだけで根は真面目だと聞いているからね。


「つまり、僕と同じように演じていただけだと思うよ」


「僕と同じように演じていただけ……」


 サーシャがぽつりとつぶやく。


「ん?どうしたの?」


「いや!なんでもない」


「なら、いいけど」


 どうしたんだろうか?

 僕はサーシャの態度に対して疑問を思いながら、食堂内を歩き、席の方へと向かう。

 

「ごめん。色々あって遅れた」

 僕は先に席に座って待っていてくれていたバースたちに謝罪の言葉を告げる。


「おう、別にいいぜ。そんなことよりさっさと食おうぜ」


「ん」


「そうですね」


 僕たちは席に座り、昼食を食べ始める。

 ん-。カレーうどん美味しい。

 今度、自分でカレー作ってみようかな。

 確か東の方の国のカレー美味しかったんだよな。

 たくさんのスパイスが使われていて。


「ノーン君のカレーうどん美味しそうですね。私に一口くれないでしょうか?」


「いいよ。はい、あーん」


 僕はカレーうどんを掴んだ箸をサーシャに向ける。

 ガイア姐さんから女の子に何か食べ物上げるときはこうやるといいと教えてもらったのだ。


「あ、ありがとう」


 サーシャは差し出されたカレーうどんを一口食べた後、か細い声でお礼を言ってくれる。


「僕にもサーシャの一口くれる?」


「う、うん!は、はい!あーん」


 サーシャが震える手で僕に箸を向けてくれる。


「ん。おいしい」


「……麺類でするものかしら?」


 なんて言ったんだ?

 僕はアリスのつぶやきを聞き逃してしまった……まさか僕が他者の言葉を聞き逃すとは、気を抜きすぎだな。


「そいや、色々あったって言ってたが、何があったんだ?」


 一心不乱に特盛のカツ丼を食べていたバースが思い出したかのように聞いてくる。


「ん?色々あってサザンドラに喧嘩売った」


「サザンドラにですの!?」


 サザンドラの名前を聞いたアリスが叫ぶ。


「何だ?そんなにやべぇ奴なのか?」

 

 それに対してバースが疑問の声を上げる……君が知らないの?

 

「当たり前ですの!アトラント伯爵家の麒麟児ですのよ!?私の家も同じ伯爵家なのでそこそこ交流がありますが、サザンドラの異常さはよくわかっていますの!」


「……」


「それはこいつよりやべぇのか?こいつはあれだぞ?」

 

 だが、そんなアリスの言葉に対して、バースが僕を指さして笑いながら言う。

 あれとはなんだあれとは。


「……そうでしたわね」


「……」


 アリスとリリスも同意しないでよ。

 まぁ、僕がサザンドラに負けるはずがないのは事実だけどさ。

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