第21話

 自分の前に立つ一人の女性。

 自分の姉であり、僕の一族を皆殺しにした張本人であるドール。

 雪のように白い美しい髪にサファイアのように輝く蒼い瞳を持ったショートカットの高身長抜群スタイルの彼女は身に着けている数多くのピアスにブレスレットやネックレスの擦れる音を上げながら僕へと近づいてくる。


「随分と大きく……なったわね?」


「そこは首をかしげなくて良いんだよ。お姉ちゃん……逆にお姉ちゃんはデカくなりすぎでしょ」


 身長のあまり伸びない僕とめちゃくちゃ身長が伸びているお姉ちゃん。

 いつの間にか僕とお姉ちゃんの身長差はとんでもないことになっていた。


「にしても立派な武器を使っているのね」

 

 僕の目の前に立ったお姉ちゃんは迷いなく僕の手から大鎌を奪い取り、それを掲げる。


「……ッ」

 

 大鎌を握ったお姉ちゃんの手は破裂し、自由となった大鎌は僕の手元へと帰ってくる。


「お姉ちゃんはもてないよ?既にノーネームじゃないもん」


「もー、ひどいわ。私はちょっと一族を愛する弟を残して皆殺しにしただけなのに」


「あまりにも十分すぎる重罪だと思うよ?」

 

 僕はお姉ちゃんの言葉に対して冷静なツッコミを入れる。


「……っと、ドール。汝は十戒が一つ『敬仰』に反した」

 

 戻ってきた大鎌を握る僕は淡々といつもの口上を上げる。


「正義を執行する」

 

 僕は迷いない足取りでお姉ちゃんへと近づき、鎌を一振り。


「あら、怖い……まったく、久しぶりの再開なのにあんまりね?もっと雑談に花を咲かせましょう?」


「時間の無駄」


「もう、ひどいわ。私はリンクを食べちゃいたいくらい愛しているというのに」


 既に捨てた僕の名を呼ぶお姉ちゃんを容赦なく攻め立てていく。


「神威級魔法『神炎』」


 黄金に輝く神の炎。

 万物を焼き、万物を浄化し、万物の概念するも無きものとする神々の炎がお姉ちゃんへと迫る。


「全く軽々しく神の領域に到達しないでくれるかしら?超位級魔法『交錯覆う機懺の円環』」


 それに対してお姉ちゃんは一瞬で最高位の結界魔法である『交錯覆う機懺の円環』を展開し、僕の炎から逃げるための時間を稼ごうと奮起する。


「『黒潤』」

 

 そんなお姉ちゃんの結界を一瞬で黒く染め上げ、消し去ってしまう。


「……ふぅー」

 

 それでもなおお姉ちゃんは余裕の表情を崩すことはなく後退。

 僕の神炎を自分の腕で打ち払う。


「……ッ」


「こっちからも行くわよ!」


 僕へと振り下ろされたお姉ちゃんの剣を自身の持つ大鎌でいともたやすく打ち払い、お姉ちゃんの武器を切断す……切れない?

 いや、違う。僕が切ったそばから再生しているのか。 


 面倒な。

 僕はお姉ちゃんの持つ武具の数々の評価を上昇させながらお姉ちゃんとの打ち合いを続ける。

 

 二度、三度、互いの武器をぶつけ合う。

 僕が破壊し、お姉ちゃんが再生する。

 ただそれだけをひたすらに繰り返す。

 

 地力は僕のほうが圧倒的に高い。

 だが、準備不足であった。

 僕の持っているものと言えば断罪の大鎌だけ、それに対してお姉ちゃんは万全の準備を整えている。

 数多の魔道具でもって僕との実力差を埋め合わせていた。


「超位級魔法『英傑たちの宝物庫』」


「『黒潤』神級魔法『弥都波能売神』」

 

 僕はお姉ちゃんの発動する魔法を一瞬で無に帰し、返す形で自分も魔法を発動させるが、それも防がれてしまう。

 お姉ちゃんの持つ数多の魔道具が僕の魔法の威力を低下させ、お姉ちゃんでも対処可能なレベルにまで弱くさせられてしまうのだ。


「ふぅー」


 生半可な攻撃じゃ意味がない。

 お姉ちゃんのみを守る数々の魔道具に魔法の数々が全てを黒く染め上げ、一瞬で殺す。


「『死神デスサイズ』」


 僕がお姉ちゃんに向けて渾身の大鎌を叩き込む。

 だが、そのタイミングで僕の足が誰かに捕まれ僕は一瞬動きを止める、止めてしまう。


「……ッ!」


 たった一瞬。

 それでも神速の戦いを繰り広げている今、その一瞬は致命的だった。


「ふふっ」


 一瞬動きを止めてしまった代償は大きかった。

 中途半端に降ってしまった僕の渾身の一撃は容易く避けられ、逆に手痛いしっぺ返しを食らうことになる。

 お姉ちゃんが僕に向かって振るった剣をもろに食らってしまう。


「……ッ」

 

 お姉ちゃんの一刀は僕の腹を大きく切り裂き、血を溢れさせる。


「『黒潤』」


 怪我をしたという自分そのものを黒く染め上げ、怪我自体をなかったことにする僕の黒魔法。

 いつも通りそれを発動し、怪我を治そうとするが、黒く染め上げた端から元に戻されるため失敗に終わる。


「『燃えつきろ』」


 僕の足を掴んだのはさっき確実に殺したはずのお姉さん……殺したはずというか、爆発まだしているお姉さんだ。

 下半身は確実に吹き飛び、残っているのはボロボロの上半身のみ。

 

「……まさか、死者にまで」

 

 既に亡くなった生命への干渉など神の領域である。


「ふふっ。私のほうが有利になったわね」

 

 僕は一切の躊躇なく自分の傷を炎魔法で焼き、強引に出血して立ち上がる。


「この程度じゃ僕は止まらないよ?」


「まったく、怖いわぁ。でも、今日はこの辺りにさせてもらうわね」


「……ちっ」

 

 どうやら、僕が回復魔法に戸惑っている間にお姉ちゃんはここから逃げる準備を終えたようだった。

 最初から顔合わせ目的……逃亡を防ぐのは僕の黒魔法でも無理だな。


「また会いに来るわ……必ず、私の手元で私だけのリンクとして飼ってあげるから。楽しみにしててね?」


「こっちのセリフでもある。背教者を逃すつもりなんてないから」


「ふふっ、凄んでいるリンクも可愛い。じゃあね、また会おうね」

 

 お姉ちゃんはどうやってもその足取りを辿れぬよう工夫した状態にし、一瞬で僕の元から去って行った。

 

 

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