一方その頃①





「冬哉くんじゃないか、帰って来てたのかい?」


「はい、昨日帰って来ました。挨拶が遅れてごめんなさい」


「畏まらなくて良い。保仁は部活で出掛けてるけど、上がってくかい?」


 俺が実家に戻って来たのは春馬の事もそうだが、真藤さんの家に挨拶するのも、また目的の一つだった。


 真藤さんには幼少の頃から家が近いと言う事もあり、よくお世話になっていた。


 特に両親が仕事で家に帰らなくなった頃は、毎日のように夜ご飯を食べさせてもらっていた記憶がある。


「いえ、挨拶に伺っただけですので。こちらお土産です」


「お、これ大好きなんだよ! 良いじゃないかこれとお茶で少し話そう」


 そう言うと真藤さんは、俺を半ば強引に家に招き入れた。嫌ではないのだが、少しこの後の予定に狂いが出るかもな。


…………

………

……


「心理学だったかしら、どうなの?」


「楽しく学んでますよ」


 真藤夫婦と机を囲み、俺の持ってきた茶菓子と、用意してもらった紅茶でちょっとしたお茶会みたいだ。


 そこで俺の近況報告を少しした。


 真藤盛仁さんはアウトドアな人で、趣味は釣り。特に川での釣りが好きな人だ。


 真藤依子さんも活発な人で、話が絶えない賑やかな雰囲気。依子さんには家事全般を教えてもらった。


「いつ頃までこっちにいるんだ?」


「月曜の朝にはもう帰りますよ。次は、夏休みですかね。弟たちがちゃんと夏休みの課題をしてるから見ないと……」


「あはは、春馬くんも夏樹くんも心配要らないと思うけどなぁ」


 盛仁さんはそう言うと、紅茶を一口飲む。猫舌なので、少し冷ましてからじゃないと飲めないのは変わらないみたいだ。


「うちの保仁も見てあげてね。最近部活から帰って来たかと思えばすーぐゲームしちゃって。ほら、最近流行ってる、あーるつー? みたいな」


「R2Oですか? 春馬もやってますよ。ゲームは節度が大事、ですよね?」


「そうよ、家族で話す時間が減っちゃうんだから。私は寂しいわ」


「好きにやらせりゃ良いんだよ、好きにやらせりゃ」


「もう、ゲームばっかりじゃ一緒に釣りに行けないかもしれないわよ?」


「それは、困るなぁ……」


 真藤さん夫婦のこの掛け合いも、小さい頃から見て来たままだ。相変わらず仲が良い。


「ただいま〜って、冬哉くん!?」


「保仁、お邪魔してる」


「帰って来てたんだ、てっきりゴールデンウィークとかかと思ってた……」


「まあな」


「ほら保仁、先に手を洗いなさい」


 依子さんに言われて、そそくさと洗面所に向かっていく保仁。リビングから出ていく前に、聞きたかった事を思い出した。


「保仁、ちょっと良いか?」


「ん? なに?」


「熊谷って先生は、今日学校にいたか?」


「あー、職員室にいたかも。……うん、いたと思う。なんで?」


「ちょっと話をね」


 残った紅茶を飲み干し、俺はゆっくり立ち上がる。


「じゃあ俺はこれから用事があるので、失礼します」


 真藤さん夫婦は二人揃って残念がるのだが、さっさと靴を履き、見送ってもらう。外に出てしまえばこっちのものだ。


 時間にして約30分。もう少し話をしていたかったが、他にもやる事がそれなりにあるので今日はこれまでだ。


「ゲーム同好会。しっかり話を聞かせてもらいますよ」








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