第27話 兄貴、襲来





「おー、ただいま」


「あにき〜!」


「夏樹、久しぶりだなぁ」


 玄関から現れたのは俺たちの兄、冬哉だった。現在は大学の寮で生活している兄だが、必要最低限の荷物を持って帰って来たらしい。


「急だね、どうしたの?」


「ん、最近噂のドーンってお前だろ?」


「うぇ?」


「なにそれ?」


 兄貴は、夏樹に俺が動画投稿をしており、それなりにバズってると言う事を説明した。


「え、そうなの!?」


「まあ、はい……」


「でだ。そろそろ収益化の話が出るだろうと思ってな。書類の提出やら何やらが必要になるんじゃないかって事で来た」


 そう言って兄貴はソファに深く腰掛けた。テレビのリモコンを手に持ったかと思えば、チャンネルを変え、ニュース番組が画面に映る。


「な、なんで知ってるの?」


「お前の学校、バイトする時に申告しなくちゃダメなんだろ? なんだ、ナイショでやろうとしてたのか?」


「それはないけど……」


「部活動やってる奴はバイト出来ないし、なら同好会ってのに入ったんだなと仮定した」


「せ、正解……」


「引くなよ。一緒に説明会行ったから分かるんだよ」


 兄貴は後ろからこっそり近づいて来ていた夏樹の頭を抑えて立ち上がる。


「で、収益化するのか? しないのか?」


「する! プリント持ってくるから待ってて!」


…………

………

……


 今日熊谷先生に貰ったプリントを渡し、兄貴の隣に座る。夏樹はその間にお風呂に入らせた。


「なんだ印鑑で良いのか。口座の登録は家族のやつで登録するとして、印鑑取ってこい」


「りょうかい!」


 夏樹以外の家族が家にいるのが懐かしい。兄貴が寮に行く前は家事全般ほとんどやってくれていたっけ。


 印鑑を取り、兄貴に手渡すと、なんの迷いもなくプリントに押し当てた。これでバイトの許可もおりるはず。


「ありがとうお兄ちゃん!」


「兄貴な。夏樹まで真似してお兄ちゃんって呼び出すと混乱するんだよ」


 照れたようにそう言って、プリントを渡してくれた。


「両親には俺から言っとく。どうせオッケーだろうけどな」


「今度はいつ帰ってくるかな」


「……夏休みには帰ってくるだろ」


 兄貴はそう言って立ち上がると、荷物を持ってリビングから出ていく。自分の部屋に持って来た着替えなどを置いてくるのだろう。


「ばぁ!」


「服着ろバカ」


 扉の向こうから夏樹と兄貴の掛け合いが聞こえてくる。俺がまだ中学生だった頃は、これが日常だったんだけどな。


 多めに食材買って来てて良かった。三人で作る“ピッツァ”もまた美味であろう。


「なあ春馬?」


「なに?」


 冷蔵庫から食材を取り出していると、リビングに戻って来た兄貴が話しかけてくる。横からパジャマに着替えた夏樹が俺の手伝いをしに来てくれた。


「俺が聞いてたらR2Oは街からスタートするんだけど、何があった?」


「落とされたんだよね」


「ゲームが落ちたのか?」


「あ、違う。女神さんに落とされた」


 すごい、このやり取り三回目じゃない?


「そんな急に落とされるわけないだろ?」


「うーん、スタート地点悩んでたら落とされたんだよなぁ」


 夏樹が冷蔵庫からパイナップル缶を取り出そうとしたので、すぐに戻す。それは最後だ。


「悩んでたって、何分……?」


「え、1時間とか」


「じゃあそれだろ」


「そんな悩んでたの!?」


 兄貴は顔を覆い、夏樹は大笑いしながらピザの生地に今日買ってきた具材たちを並べている。


「確かに1時間も悩まれたら怒っちゃうかもなぁ〜。お兄ちゃん、ファミレスとかスーパーでは即決なのにね」


「リアルとゲームは違うだろ、一緒にするな。俺が呆れてるのはゲーム内で1時間も悩んでたとこだ。ゲームの前に決めとけ」


「いざ説明を聞くとまた悩んじゃうの」


「お前が無駄にした1時間も、VR機は起動し続け、電力をくってんだ。そういうのの積み重ねで電気代が跳ね上がるんだよ」


「それはごめんなさい」


「怒られてる〜」


「パイナップル抜きにするぞ」


「ごめんなさ〜い」


 兄貴に叱られるのも久しぶりだけど、やっぱ怖いな。


「……まあでも、俺も少し気になるし試してみようかな」


「1時間悩んだふりするの?」


「ああ。ちょうど友達に誘われて始めようと思ってたからな」


「じゃあ俺たちはピザ作ってるから、終わったらリビング来てよ」


「あいよ。春馬のVR機借りるぞ」


「おっけ〜」


 そう言って兄貴はリビングから出て行った。残された俺たちはピザを作るのだが、夏樹、勝手にパイナップル缶開けようとするのやめろ、それは最後だ。


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