35話 フーコ視点

 ……お兄ちゃんは強い人。


 独りぼっちだったわたしを救ってくれた人。


 それにあのままだったら、わたしは死んでいた。


 一度は死んだなら、掟とか決まりとか守らなくていいよね?


 だって、温もりを知ってしまったから……もう戻れない。


 ならせめて、あの日救ってくれたお兄ちゃんの役に立ちたい!





 ◇



 わたしは生まれてすぐに一人ぼっちになった。


 お母さんがいうには、それが銀狐族の使命なんだって。


 一人で強く生きて行く……寂しかったけど、お母さんはどっかに行ってしまったから仕方がない。


 あとは一人で生きて、強い雄を見つけなさいって言ってた。


 だから、頑張って生きてきたんだけど……。


「コーン……(失敗しちゃった)」


 数日振りの狩りに成功して、やってきたゴブリンの群れを倒したまでは良かった。

 でも、その後にやってきたオークに痛手を食らってしまった。


「コン……(お腹すいたし寒い)」


 わたしはこのまま、死んじゃうのかな?

 結局、同族には誰とも会わないし。

 すると、何やらいい匂いがしていた。


「コン?(なんだろ?)」


 意識が朦朧としていたわたしは、警戒も忘れ匂いの元に歩いて行く。

 すると、ニンゲンが魔獣を焼いていた。


「っ……! (ニンゲン!)」


 それは別れ際にお母さんに言われたこと。

 ニンゲンは危険な生き物で、わたし達の毛皮を剥いでお金?ってやつにするんだって。

 だから、近づいちゃだめって言ってた。


「……(でも、お腹すいたよぉ)」


 気がつくと、わたしはニンゲンの側まで来ていた。

 すると、そのニンゲンが肉を投げてきた。


「っ!(お肉!)」


 それを口に咥え、その場を離れる。

 そして、無我夢中で食べる。

 その美味しさは、初めてお母さんに獲ってもらったご飯の次に美味しかった。


「コーン(貰っちゃった)」


 ひとまず傷は痛いけど、お腹はいっぱいになった。

 ただ、お母さんは言ってた。

 銀狐族は誇り高い生き物だって……貰ってばかりじゃいけない気がする。

 そう思ったわたしは、どうにかウサギを仕留めることに成功した。

 そして、それをニンゲンにあげに行く。

 そこから、わたしの生活は一変した。


 ◇


 ……まさか、傷を治した上に連れてってくれるなんて。


 暖かい寝床に、美味しいご飯、優しい人たちとお兄ちゃん。


 すでに誇りを失った一族かもしれないけど、少しくらいは役に立たないと!


「コンッ!(いくよ!)」


「ああ、来るがいい。俺はこの場から動かん」


 まずはスピードで撹乱!

 お兄ちゃんの周りを縦横無尽に駆け回る!


「ほう? 視線で追いきれない早さか……流石は神速の魔獣か」


「コンッ!(お兄ちゃんの視線が外れた——今だっ!)」


「甘い」


「キャン!?」


 お兄ちゃんは、こっちも見ずにわたしの攻撃を受け流した!

 わたしの攻撃は外れ、勢い余って壁にぶつかる。


「速さはいいが、コントロールが甘いな。それに動きが単純すぎる。目で動きが追えなくても、音と気配で向かってくる方向はわかる。もっと静かに、そして気配を断て」


「コーン……(もっと静かに、気配を断て……)」


「お前は風の申し子なのだろう? ならば、それを使わずにどうする?」


「コン……(どうやるんだろう)」


 風の申し子……確かにお母さんが狩りをするときは、音もしなかったし獲物にも気づかれなかった。

 わたしが狩りをするときは、速さに任せて強引にやってたけど。

 あのとき、お母さんは何をしてたのかな?


「仕方ない、少し厳しく行くか……必死に避けろよ、出ないと食らうぞ?」


「ッ!? (来る!?)」


 次の瞬間、お兄ちゃんのてから火の玉が放たれる!

 わたしは咄嗟に横に躱して難を逃れる。


「悪くない動きだ。さあ、次々行くぞ?」


「コンッ!?(わわっ!?)」


 お兄ちゃんの火の玉を何とか避けて行く!

 でも、これだと避けるだけで精一杯になってしまう!

 それを打破するには……。


「コン(どうしたらいいんだろう)」


「余所見をしてる場合か? はっ!」


 その時、避けきれない速さで火の玉が迫る。

 危ない!と思った時——いつの間か、わたしはお兄ちゃんが撃った

 あれ? どうやって移動したの?


「なに? あの距離を一瞬で移動した?」


「コーン……(今、何かをまとったような気がした……そうか)」


「ふむ……まぐれかどうか見せてもらおう」


 さっきと同じ速さの火の玉が来る。

 わたしは

 そして、そのままお兄ちゃんの胸に飛び込む!


「コンッ!(お兄ちゃん!)」


「おっと……おいおい、俺に一撃を入れろって言ったろ? 何を頭をグリグリしてる?」


「コン(嫌だもん)」


 お兄ちゃんに一撃なんていれたくない。

 だったら、こうして抱っこしてもらう。


「やれやれ、甘やかしすぎたか。これが孤高の存在である銀狐だっていうんだから」


「コン?(だめ?)」


「明らかにだめっていう顔だな。まあ……別にいいか。それと試験は合格だ。あの動きがあれば、そうそう捕まることはないだろう」


「コーン!(ヤッタァ!)」


「だァァァ! ぺろぺろすんな!」


 わたしはお兄ちゃんが嫌がるのも気にせず、顔を舐め回す。


 だってそうすると……なんだか、幸せな気分になるから。







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