幕間

 その後、ユキノがアイザック達を連れて戻ってくる。


 どうやら、あちらでも戦闘があったらしい。


 二手に分かれて正解だったな。


「兄貴っ! よくご無事で!」


「アイザックもな。よく後ろを守ってくれた」


「へいっ! そして……アレが魔石っすね」


「ああ、ただ鉱山というほどではない。だが、これで不足分くらいは補えるだろう。その間に、鉱山を探す方向で行く」


 先に調べたが、洞窟の奥で魔石が埋まっていた。

 その数は大したものだったが、流石に何年も保つのは無理だ。

 清々、数ヶ月といったところだろう。


「そうっすね。ここを拠点にして、あちこち調べてもいいんじゃないっすか?」


「確かに拠点は必要だな。そのためには腕利きも何人か用意しないと……よし、次は住人を強化訓練でもするか」


「それもいいっすね。どちらにしろ、ここで生きていくなら必要ですし」


「ふむ……食料や魔石を渡す報酬として、若者達を鍛錬に着かせるのはいいかもしれん。家族のいる者ならやる気も違うだろう。戦えないものは、他の仕事で補ってもらう」


「へへっ、なんか領主っぽいですな」


「……建前上はな」


 だが、確かにアイザックの言う通りだな。

 別に望んでなったわけではないが……これまでの人生で、人に頼られたり褒められたりすることはなかった。

 だから、もしかしたら……そういうのが嬉しいのかもしれない。



 ◇



 持てるだけの魔石を持ったら、森の中を歩いていく。


 道中に印をつけつつ、夜を明かし……三日かけて領地に戻ってくる。


 合計、一週間くらいかかってしまった。


 そして、帰ってきた俺を住民が謎の呼び名で歓迎する。


「魔王殿!」


「魔王様! お帰りなさいませ!」


「魔王様が帰還したぞ!」


 なんで、魔王が定着してんの?

 確か、ニールには好きに呼べとは言ったが。

 この一週間の間に何があった?


「……はい? なんで魔王なんだ? ニール? お前が広めたのか?」


「ふえっ!? わ、わたしは知りませんよぉ〜!」


「いや、だがこうして広まって……まあ、いいか」


 すると、向こうからフーコが駆けてくる。

 俺が膝をつくと、その胸に飛び込んでくる。


「コンッ!」


「おおっ、フーコ! いい子にしてたか?」


「コーン!」


「そうかそうか、よしよし」


「ククーン……」


 ふふふ、可愛いやつよ。

 やはりもふもふは正義だな。

 フーコを抱いたまま、ドワーフのダインの元に向かう。


「むっ、無事に帰ってきたわい。それで、目的の物は手に入れたのか?」


「ああ、魔石はこの通りにな。ついでに鉄も手に入った」


「なに? 鉄じゃと? 鉱山でも見つけたか?」


「いや、そういうわけじゃない。ひとまず、これが使えるか確認してくれ」


 ハリグマから取った針を、ダインに見てもらう。


「 どうだ?これで武器や防具を作れるか?」


「おそらく、問題あるまい。これを一度溶かしてから成形すれば……」


「よし! これで兵士達にまともな武器を持たすことができるな。では、すまんがその仕事も頼む」


「うむ、任せるがいい。それこそが、ドワーフ族の本懐よ」


 よしよし、これで戦える者が増えてくれば俺の仕事は減る。


 あとは専門の者が、各々を鍛えていけばいい。


 魔石も手に入ったし、それがあれば民も寒い季節を超えられるだろう。


 ……ククク、これでスローライフに近づいたぞ!



 ◇


 疲れからご主人様が寝静まった後……こっそりと会談を行います。


 そう、私がここにきてからやってきた秘密の仕事ですね。


 メンバーは初期からいる、カリオンさん、ダインさん、リースさん。


 新規メンバーであるアイザックさん、エミリアさん、ニールさんが参加です。


「さて皆さん、お集まりですね?」


「こ、これはなんですの?」


「わわっ、 お部屋が暗いですぅ〜」


「静かにお願いします、ご主人様にバレたら面倒なので」


 私の言葉に、初期メンバーが静かに頷く。

 あのアイザックさんですから、静かにしている。

 この会議の重大さをわかっているということですね。

 ご主人様を崇める会を……いえ、ご主人様をもう一度頂点に立たせるために。


「これはどういう集まりですの?」


「ご主人様をこの地を治める王になって頂く、秘密の会ですね。この魔素で荒れた土地を再生し、この地に住まう人々を救うという……魔王という存在に」


 ニールさんが名付けたあだ名ですけど、これは便利なので使うことにしました。

 それを一部の住民達にお知らせしておいて、今回帰ってきたら呼んであげて欲しいと。

 これで、他の方々も呼ぶようになるでしょう。


「それ自体は素敵なことですわ。なぜ、アルスには内緒なのですか?」


「ご主人様は嫌がるでしょうから。皆のために自ら望んで、表舞台から去っていくような自己犠牲の強い方です。エミリアさんも、今ならわかるでしょう?」


「……ええ、悔しいけどわかってるわ。アルスが、敢えて私達に負けたってことは。この地での行動や発言、戦う姿を見てたら一目瞭然だもの」


「ええ、私はそれを知ってました。だからこそ……悔しいんです。皆、ご主人様を責めて……なのに、彼の方はなにも言わない」


 私は知っている、ご主人様がふと悲しそうな表情をするのを。

 当たり前の話で、家族や国の者達から進んで嫌われるようなことをして……心が痛まないはずがない。

 彼らと争いながら、私はずっと側で見てきた。


「ユキノ……」


「だから、私がご主人様の名誉を回復します。この地を救って、この地を治める王として君臨するために」


「……それは私達にも責任があるわね。わかったわ、それは結果的に人々を救うことに繋がるでしょうし。ユキノ、私達も協力しましょう。ニールもいいわね?」


「わたしはお嬢様がいいならいいです!」


「お二人共、ありがとうございます」


 よし、王国側の二人が味方についてくれたことは大きい。

 これで、下手な情報は流さないと思うし。


「あ、貴女にお礼を言われるなんて……私に会うたびに、射殺しそうな視線を向けてたのに」


「えへへ、私だって言いますよー。それに、それって昔の話じゃないですか。ただ、それはそれこれはこれ……ご主人様の取り合いは負けませんからね?」


「な、なっ!? わ、私はそんなつもりは……」


「そうなのですか? なら私が立候補してもいい?」


 そこで、思わぬ伏兵が現れた。

 無表情ながらも、しっかりと意思表示をした……リースさんだ。

 エルフ族特有の儚い美少女感、そして守ってあげたくなる感じ。

 これは強力なライバルの予感がします!


「へぇー、そうだったんですね?」


「貴女がいるからいいかなって思ったけど……席が空いてるならもらう」


「ま、待ちなさい! そ、その、私だって……あぅ」


 むむむ……こっちはこっちで強力なライバルです。

 ご主人様が特別視してるのは知ってますし、抜群のスタイルと美貌を持っています。

 何より、このギャップは卑怯ですね。

 ふと隣を見ると、男達三人で酒盛りをしていました。


「かははっ、アルス様も大変だな」


「兄貴はモテモテだからなぁ」


「無理もない、主人は良き男だ」


 ……ご主人様、わかってますか?


 今は、こんなにも味方がいることを。


 本当なら、私一人で独占したいし叶えたかった。


 でも、それじゃあ……ご主人様は寂しいまま。


 だから、これでいいんです。


 もし勝手なことをしたと……あとで、ご主人様に罵られようが見捨てられようが。


 貴方が好きにしろって言ったんですからね?






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