第27話 沈黙は金


 私たちはディオルグさんに連れられて、次の目的地へと向かう。街並みが少し変わって、金属を打ち合う音があちこちから聞こえ、武装した人間が目立つ区画に入る。

 途中、フィーネさんの契約に触れない範囲の質問攻めが続いた――好きな女性のタイプとか、食べ物とか、どんな料理が好きだとか。私は寧ろ、どんな料理があるのかが気になる。――が、その悉くをグランは黙殺した。最終的にディオルグさんの密命を帯びたらしきアリアさんに回収されていった。


「ヴァンガードのじぃさん、居るか?」

「おう、何だおめぇら。揃ってお出ましたぁ珍しいな」

「あぁ。修繕頼みたい」

「僕も、矢を使いすぎまして。補填を」


 ディオルグさんたちも、谷での任務で武器を破損したらしく、ちょうど用があったらしい。案内される途中で、近くまた谷に巣の駆逐に向かわないといけなくなるだろうと話していたから、今日はその準備兼骨休めだとも溢していた。

 ディオルグさんとアドルフさんは大剣を預けると、私たちを指差す。


「あと、客連れてきた」

「あ?」


 背の低いずんぐりむっくりしたいかにも職人と言う佇まいの店主は、グランとウォルフ、そして私を見て、グランの腰に下げている剣に目を向ける。


「見たとこ、上等な剣だな。ダンジョン産か?」


 グランの剣は山賊から慰謝料として徴収したものだ。なんでも、その剣のせいで呪われたらしい。


「今日は、こっちの子の武器を見たかったのと、ちょっと買い取りの相談できました」

「あ?」


 一番眼中になかった私から声がかかり店主は私を見る。

 グランの腕を叩いて降りると、ウォルフとそう変わらない背丈のおじいさん見て挨拶をした。


「カエデって言います。ちょっと旅してて、ウォルフに持たせる武器がなくて。見てっていいですか?」

「冷やかしじゃねんならな。そのガキが持つんなら、あっちの樽のにしろ。役不足だ」


 まぁ、そうだろう。まだ鍛えていないウォルフに、剣は早い気はしてる。体もまだ出来上がってないし、ナイフも勧めてみたが、ガンとして剣がいいらしい。ま、男の子が憧れる王道武器だものな。戦隊ヒーローの赤に憧れそうなタイプだもんな、ウォルフ。

 店主に指で示された出入り口に置かれている樽には、結構古い剣が何本も刺さっていた。


「ウォルフ、ちょっと持ってみ」

「おう」

「店内だから振らないようにね。グラン、見てあげて」

「俺はカエデの傍にいる」

「いや、ウォルフだけじゃ分かんないって。素人なんだから」

「あー、なら俺が見てやろう」


 アドルフさんの申し出に、ありがたくお願いした。

 本当は大人のグランに進めて欲しいけど、そう言う習慣がなかったからか付き添うしかしないグランに任せると日が暮れる。


「すみません。旅の途中で仕留めた魔物の牙とか魔石売れたら売りたいんですけど」

「あ?そりゃ、ギルド通せ」

「やっぱ無理ですか。分かりました」


 グランを見てそう言うヴァンガードさんに、私は大人しく引き下がる。まだ特にお金に困ってはいないし、スーパー経営者が卸業者通さずに持込み農作物買うようなもんだろう。色々迷惑をかけかねない。無理なら無理でいい。


「いいのか?」

「特に無理通そうって程じゃないんで。買ってもらえたらラッキーくらいだったから」


 ディオルグさんは、あっさり引き下がった私に尋ねるが、買ってもらえないなら仕方ないんだよ。人生諦めが肝心だ。私はこんなところ(店先)で駄々こねて寝転がったりしない。


「ギルドに登録してねぇのか、おめぇさん」

「あぁ」


 何かを察したヴァンガードさんは、グランに尋ねる。


「訳ありか。ディルの坊の紹介なら変な手合いじゃねぇだろうが、儂ゃ質の悪いもんは買わん。どうしても捌きてぇってんなら、ディル坊たちに代理でギルドに買い取らせりゃいいだろ」

「それも考えたんですけどね。すでに解体してある状態なんで、冒険者ギルドには持ち込みずらいし、色々あるんです。商人でもないですし、欲しいって人が見つかった時でいいですよ」

「お嬢ちゃん、随分マセてんなぁ」


 しげしげと私を見下ろし、推し量るようにじっと見つめてくる。相手も遠慮がないので、私も遠慮なく目の前の亜人を見る。


■ヴァンガード (250) Lv.90 男 ドワーフ

HP510/510 MP 400/478 SPEED 43

ジョブ:鍛冶師

魔法属性:火属性

補足:黒髪、こげ茶目。ラッカス出身。得意武器 斧。


 得意なのは使う方か、作る方か分からない書き方だ。亜人の人って、総じてステータス高いよな。でも、今んとこグランが飛び抜け過ぎてて、凄いのか凄くないのか分かんねぇ。


「…因みに、ものはなんだ?」

「そうですねぇ。ブラックサーペントの牙とか、B+の魔石とか。サーベルタイガーの牙もありますね」

「見せてみろ」


 万能保管庫にアップグレードして、有限になったのもあり売り捌こうと幾つかマジックバックに移した素材の内、良さそうなものを上げれば、何か興味を引いた品があったのか、奥に案内してくれた。気が変わられる前にとウォルフをアドルフさんに任せ、私はグランと何も言わずに後に続く。何故かディオルグさんたちも付いて来た。

 作業場らしい場所の比較的片付いた一角に着くと、荷物係(グラン)に物を出すように目配せする。


「こりゃいい。誰が解体したんだ?」

「この世に、いない人です(スキルだから)」

「…そうか。悪いこと聞ぃちまったな。これを解体(バラ)したヤツの腕は、相当だぜ。儂は200年生きてきてるが、これほど綺麗な素材を見たことがねぇ。皮はあるか?」

「狼系なら。フォレストかロックで」


 脈アリで手堅い手合いと見て、私はそっと爆弾を混ぜてみた。

 途中、谷で出会った群れを作らない系の大型狼。普通に売ったら騒がれるだろうなとは思いつつ、綺麗な白だったから、一応収納しておいたそれ。


「見せてみろ」


 グランが取り出した瞬間、ディオルグさんたちも反応した。


「おい、これ。特殊(ユニーク)じゃねぇのか?」

「こりゃすげぇ。皮の処理が完璧だ。見たことねぇくらい綺麗に鞣してあるな。これも売ってくれねぇか」

「幾らかによります」

「ちょっと待ってろ」


 ヴァンガードさんが作業台を離れたのを見計らい、ディオルグさんたちが声を掛ける。


「あれ、谷で狩ったやつか?」

「あれは違います。谷で狩ったんなら鞣せませんし(私は)。あれは人からの貰い物です。金に困ったら売れと」


 私はしれっと嘘を吐く。じゃないと理屈が通らないから。谷で倒して、解体して、鞣し処理しましたってなってしまうと色々おかしいことになる。


「そうでしょうね。ロックウルフの白なんて」


 ロックウルフは白じゃないらしい。私はまだ普通種にお目にかかったことはないから知らん。あれ、地味にLv.A+って一番手強かったし。グランだけでもいけたけど、毛皮が駄目になりそうな魔法使おうとしてたから、私も手ぇ出して2人がかりで殺(や)った奴だ。あれ1体で2ランクアップしたし。

  ただ、続く言葉に首を傾げる。


「実在するとは思いませんでした」

「と言うと?」

「この辺りの伝承です。大昔–−まだこの山脈が魔物の住処であった時代、峡谷の主 ホワイトロックウルフと大森林の主 レッドドラゴンが始祖王と戦い、王は勝利しこの地を納めた。以来、その嘗ての主の子供たちはこの地にひっそりと生き、この地を見守っているのだと」


 よくやった私!なんかいい感じに主的伝説の象徴を狩ったとか、軽はずみに自首せずに済んだ。私は、そっと伝説に蓋をした。

 黙っていれば、それは伝説として人々に語り続けられるのだから。

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