閑話:その頃/ side other
Side;冒険者
「ちょっ!おい!」
「ちっ。逃げたか」
突然視界から消えた2人にアンディが追おうとするが、ルーカスとラルクは追跡不可能を瞬時に理解する。何らかのスキルだろう。視覚どころか気配も掴めないうえ、あの紫黒の死神が相手ではスピードに劣る。
それ以前に、今優先すべきは受注しているクエストだ。
きょろきょろと周囲を見渡す残された子供たちに、近寄った。
警戒する子供に、ラルクがなるべく刺激しないように屈んで改めてあいさつした。
「あらためて、僕らはA級パーティー 【グランツ】だ。君が、マーシャちゃんでいいのかな?お父さんから救出・・・悪いやつらから助け出してほしいって頼まれて来たんだ。帰ろう?」
マーシャに向かって差し出した手に、マーシャはほっとした顔をした後、その手を取ろうとしてリーナ達を見て、その手を見つめて不安そうにリーナの服を握った。
「・・・おねえちゃんたちも?」
「それは・・・うん、そうだね。みんな街に戻ろう。悪いやつらは、あれだけかな?」
ラルクは、内心嘆息して、ポーカーフェースの笑みを崩さず頷いた。
「おい」
「ま、そうなるわな。特別依頼扱いになるだろうし、報酬置いてかれちまったしな」
ルーカスの不満の声に、アンディは拾った金貨を指で弾いてキャッチした。
「ところで、一味はあれで全部か?」
アンディは木の上を指して男の子組に問う。
「・・・あぁ。そう言ってた」
「そっか。どうする?」
「取り敢えず、戻って報告しかないでしょう。連れて行けないし」
「あのまま?」
「町で死刑になるか、ここで死ぬかの違いでしょ。それよりも、紫黒の死神の行方の方が問題だよね。どうする、ルーク」
「・・・そっちも俺たちにはもう関係ないだろ。放っておけ」
「だね。それにしても、楽な仕事になったな」
ラルクは肩をすくめて、子供たちに向き直る。
「ところで、あの子は元からの知り合いかな?」
「「「「・・・」」」」
子供たちは顔を見合い、答えていいものか口をもごもごと動かす。
「・・・知らね」
「昨日連れてこられた子だよ」
今は余計なことは言わないでおこうと、ウォルフとマルチダが言葉少なに答える。
「そっか。なんであのおじさんたちはあぁなったのかな?」
「知らない。起きたら、外に出られて」
「あの竜人の主人は、あの子でいいのか?」
警戒して口が重くなる子供に、アンディも質問に加わるが、子供たちはそれも首を傾げるだけで済ませた。
「取り敢えず、街に戻るぞ。親いねぇと話さねぇっぽいだろ」
「だね」
子供たちからの聞き取りにめぼしい回答は得られず、少し離れてルーカスとラルクは方針を決めたその時、子供が一人突然走り出した。
「なっ!ちょ、待って」
「待てって、危ないぞ」
一人だけいた獣人の子供は、ずっと警戒を解こうとしていなかったのは感じていたが、いきなり魔物のいる森で逃げるとは思わず、反射で追いそうになったアンディをルーカスが止めに入る。
「やめとけ。足が速ぇ。それに、連れてってもあれは多分孤児だ。獣人じゃ、この国ではどっちにしろ酷だろ」
「そりゃ、そうだろうけど・・・このまま見捨てんのも」
「多分、死神とあの女の子追っていったんだと思うよ。追いつかないかもだけど。好きにさせてあげなよ。冷たいようだけど、僕らは彼の人生を背負えないんだし」
「・・・そう、だな。つか、あの女の子も大丈夫かね」
「調査、捜索対象にはなるだろうけど、色々狙われそうな子だったね。可哀そうだけど、力がありすぎるのも考えものかな」
「貴族の子供ではなさそうだったな」
「だが、俺らに厄介事押し付けて自分だけ消えるあたり、あれは相当図太そうだった。しかも、死神憑きならうまく立ち回れば生き延びるだろ」
死神憑き――黒髪、アメジスの目から紫黒の死神と言われる竜人戦闘奴隷。その強さから剣を交えれば生きている者がいないと言うことが二つ名の所以でもあるが、もう一つ彼(か)の奴隷の所有者は誰一人として生きてはいないことからも死神と呼ばれる理由にあった。戦闘奴隷としての価値もさることながら見目の良さも最上級であり、一度は王族も所有していたが周辺国に負け一族郎党が絶え、貴族同士の奪い合いや山賊・盗賊の強襲、ダンジョン踏破の欲に駆られた冒険者たち。主人が死ぬたびに主を替える故に、畏怖と皮肉交じりに死神と呼ばれる奴隷だ。その名にふさわしく、今回も…
そんな曰く付きの死神は、新たなる主人を得たらしい。ルーカスは、幼児にしか見えないくせに言動が伴っていない生意気な面構えを思い出し、面白そうに笑みを作る。
「ま、その内噂になるよ。あぁいう異端な存在は。ヒューマンじゃないのかも」
「ハーフリンクか?だが、耳も顔だちもヒューマンぽかったぞ?」
そんな会話をしながら、残った子供たちを連れて移動を開始した。
◆◇◆
Side;マルチダ
「いいかお前ら。あいつのことは、秘密にしろよ。親にも話すな」
「どうして?」
僕たちから話を聞くのを諦めたっぽい冒険者のお兄さんたちが少し離れたすきに、ウォルフ君がそう言った。不思議そうに返すルックに、ウォルフ君は小声で説明してくれる。
「じゃないと、あいつが他の悪いやつらにまた狙われることになるんだからな。恩返ししたいんなら、俺らはあいつのことを誰にも何も話さないこと」
「分かった。そうだよね。やっぱり」
「でも、魔法使いなら王宮でだって働ける、偉い人になれるんじゃないんかな」
「あいつが、偉い人になりたいようなヒューマンに見えたのか?」
「「…見えない」」
僕とリーナちゃんがそろって首を振れるくらいには、あんまり知り合えなかったけどカエデちゃんの反応は予想できた。
「あと、俺はお前たちとは行けない」
やっぱりなって僕とリーナちゃんは頷いたけど、ルックとマーシャちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「俺は、獣人だからな。…だから、ダメって言われたけど俺はあいつに付いてく。付いてけるところまで」
「そっか」
「おねえちゃんのとこ行くの?」
「そうだ」
「なら、ありがとうってつたえてね」
「私も」
「僕からも」
「私からも。でも、追いつけるの?」
「俺、足には自信あんだぜ?無理でも、追いかける。まだ間に合うと思うから、俺は行く。じゃあな」
リーナちゃんの心配そうな質問に、ウォルフ君は笑って頷いた。だから、大丈夫だって思いたい。
「行っちゃったね」
「うん」
「みんな、あの子のことはひみつな」
「「「うん」」」
いつか、直接会ってありがとうが言いたいなと思いながら、僕たちは街に辿り着いた。結局、持たされた宝石は両替することのないまま、冒険者ギルドの人たちの計らいで僕たちはそれぞれの家に戻れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます