第32話
(実に非現実的だ)
夜間に白装束を纏った屈強な武装警備隊員が、そんな歌を
口ずさんで進む 光景は異様としか言いようがない
だが、すでに半ば彼らはやる気というより、歌う気だ
「出発します――― お前ら、『おどりゃんせ』『ながれもの』
『ブリキノダンス 『クックロビン音頭』パターンで
行くぞ」
6人の中で1人が声を高らかにしてそう告げる
「それ一番すげえ激むずですよ?
ここは手固く、『とおりゃんせ』 『カランコロンの歌』
『お化けがいくぞ〜』パターンにしましょうよ? 」
6人の内、1人がそんなことを言い出す
「では、1人て行きと帰りをエンドレスで『アンパンマンマーチ』を
歌い続けるか?」
代表として聞いていた武装警備隊員がそう口を開く
「――そのパターンで」
その警備隊員はあっさりと前言を撤回した
『おどりゃんせ』 『ブリキノダンス』は、彼のいた『世界線』では
ボカロ系で人気を博した楽曲である
『アンパンマンマーチ』に至っては、国民的アニメ曲だ
『カランコロンの歌』 『お化けがいくぞ〜』も、これも
『通りゃんせ』は、日本の童謡だ
『ながれもの』は、
曲の一つだが・・・
6人が一斉にボカロの『おどりゃんせ』を口ずさみながら
ゾロゾロ歩いて待機所から出ていく
彼は反射的に耳を塞いだ
かなりの濁声になっているので聞き取りづらかったが、確かに
歌っている
「肚に力を入れて唄え! そんな程度だと妖怪にからかわれるぞ! 」
隊の先頭にいた武装警備員が振り返り、叱咤する
(何でだよ!?)
思わず彼が心の中でツッコんでしまう
「この歌ムズいんですよ!!
合間に手も叩いてリズム良く乗りながら
歌わなきゃいけないんですよ!?
1つでもリズム狂ったら『バフ』効果が掛からないし!」
武装警備員の1人が半ギレして言い返している
「集中して唄え! 」
隊の先頭にいた武装警備員がそう応えつつ、隊列を
組んだまま進んでいった
(マジか)
彼が驚くのも無理はない
隊列を崩さずにボカロの『おどりゃんせ』を濁声で
大合唱する6人の武装警備隊員達は、シュール極まりない光景だ
白装束の武装警備員達が出て行った待機所は、静寂が支配した
「あの6人は特殊作戦群の訓練にも耐え抜いた精鋭の
武装警備隊員達だ
筋力と精神力も鍛え上げられている」
嵩原が何事も無かったかのように説明を始めた
「それは安心して任せられますね(訓練されたのに何で
そんな事させられてるんだよ!?)」
彼はそう思わずにはいられなかったが、口から出たのは
違う言葉だった
「 お前さんも知っている通り、公には出来ないが海外『ダンジョン』にも
極秘に派遣されて実戦も数をこなしている精鋭だ
下手を打つような事は無いから、安心してキョンシー捕獲を任せられるだろ?」
嵩原が腕をくんだまま、そう説明を続ける
「そりゃもう(実戦経験って、何だよそれ)」
彼は愛想笑いをしながら、そう同意してみる事にした
「・・・もし『手野武装警備株式会社』が、キョンシー捕獲案件を断っていたら、
お前さんは在日米軍にでもひそかに協力を要請でもしたんじゃないのか?」
嵩原の言葉に、彼は愛想笑いを浮かべる
(この『世界線』の俺は、ラノベやアクション映画の主人公かっ!?)
思わずそう思ってしまう彼は、心の中で叫んだ
「あまり褒めた事ではないが、米軍の中には軍規を守らずに探索者で
食いつないでいる者もいる
お前さんの伝手を使って在日米軍から、そんな連中を金で雇う事も
不可能では無いだろう
・・・ま、これ以上詮索はせんがな」
嵩原のその言葉に、彼は愛想笑いを続けるしか無かった
(本当に勘弁してくれ!?)
彼は心の底からそう思うしかなかった
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