放置田の草刈りをすることになったのだが、なぜかダンジョン攻略することになった

大介丸

第1話

「(・・・一体俺は何をさせられるのだろうか)」

 彼は聞き間違えかと思いながら、トラックから草刈り機ではなく鎌でもなく――

 ラノベやアニメ RPGゲームで登場するような長剣を取り出していた

 その表情は、ただただ困惑していただけだった……


 ―――――――――

 今日彼は、今年から米作りを辞めて放置田化している父親の

 手伝いに来ていた

 放置田とは 読んで字のごとく、田畑を放っておいて荒れ果てた状態に

 なっている事だ

 放置田化すると、収穫量が減るだけでなく、害虫の発生源になったりするので

 農家にとっては 害悪である

 しかし、放っておくわけにもいかないため定期的に見回りに行く必要があるのだ

 そして今回も例によって父親が一人で行こうとしていたのだが、それを聞いた

 彼が自分も行くと名乗り出たのだ

 彼は今までこういったことをしたことがないのだが、何故か

 今回は手伝う気になったようだ

 ちなみに父親は、昔剣道をやっていたらしく今でもたまに

 手合わせをしているらしい

「父さん、聞き間違いと思うけど・・・今『ダンジョン』って聞こえたんだが」

 彼は、放置田に到着するなりに父親へ質問を投げかけた

「ん?あぁ、放置田化すると『ダンジョン』ができるんだわ」


 彼の父親は、さぞ当たり前のように答えた

 そう言う彼も、そんな事は聞いたことも見たこともない

 放置田化についてはわかるが、テレビゲームもラノベもあまり嗜む事が無い

 父親の口から「ダンジョン」という言葉を耳にするとは思わなかったからだ

 彼は少し混乱したが、とりあえず目の前にある現実を受け入れることにした

(まぁ、別に死ぬわけじゃないだろう)

 彼は、半ば諦めの境地に達しつつも作業を始めようとした時、父親の舌打ちが

 聞こえてきた

「 『ダンジョン』出来ていたかー・・・」

 彼はその言葉を聞いて振り返ると、放置田の真ん中に巨大な

 穴ができているのが見えた

 それはまるで隕石でも落ちたかのようなクレーターができていて、その周りに

 雑草などが生えていない状態だった

 そして、そこには洞窟のようなものが出来上がっていた

 大きさ的には、直径5mほどの円形の穴だった そこにできたばかりの

 ダンジョンの入り口が あるという感じだ

 それを目にして、彼は絶句してしまった


「ナニコレ?」

 思わず声に出てしまった

「何これと言われてもな・・・ダンジョンだろ?」

 父親は至極当然といった顔つきで返答してきた

「いやいやいや!」

 彼は思わず突っ込んでしまった それも仕方ないと言えるだろう

 なぜなら、放置田の草刈りをするはずがダンジョンが出来ていたという

 訳のわからない状況に置かれているのだから



「このまま放置していたら、向かい側の五年以上放置されている

 放置田みたいに魔物が出てくるかもしれないからな。

 そうなったら困るし」

 父親がそう言いながら、随分前から放置田化している放置田の方を見やった

 彼も釣られてそちらに視線を向けた

 そちらには、随分放置田化したせいなのか草木が伸び放題になっており、そこだけ

 見れば森と言ってもいいぐらいになっていた

 しかも、放置田の中心部分まで侵食しているほどなのだから相当なものだ

 あれではもう収穫はできないだろう

 彼が良く視線を向けていると、何かが動いているように

 見えなくもない気がしないでも ないような・・・



 少し眼を細めると、伸び放題の草木の間をRPGゲームでは中盤以降に

 出現するような モンスター達が 彷徨いているようでもあった

 身長3mほどのトロール、緑の鱗に覆われたドラゴンのような生物、

 二足歩行で 歩く牛などがいた

 それらは皆一様にどういう訳か、放置田の外から飛び出している

 様子は無く、威嚇するように雄叫びを上げつつ彷徨いていた

 その姿はまさに地獄絵図であった

 それを見た主人公は、顔を青ざめさせたまま固まってしまっていた

 そして、彼は思った

(これは夢ではないのか?)

 これが夢であればどれだけ良かったことだろうか。



 しかし、残念なことに頬っぺたを引っ張っても痛みを感じるだけで

 目が覚めないのだ

「あれほど進んだら手が付けられなくなる前にどうにかしないとな

 こっちの「ダンジョン」は、まだ三層までしか深化してないはずだから、

 お父さんは 三層と二層辺りを中心に刈っていくよ。

 お前も手伝ってくれ」

 と、言ってきた

「えっ?!」

 彼は異次元化している向かいの放置田から、視線を父親に戻した

「一層ならゴブリン コボルト オーク、スライム程度しか出現しないと思う

 二層と三層ぐらいにしかオーガやトロールはいないと思うんだが、もし

 出てきたとしても

 トラックに載せてきた魔法剣で斬れば倒せると思う」

 父親は、そう言って腰に差していた長剣を抜き放った



 それは、銀色に輝く刀身を持つ両刃の大振りな西洋風のロングソードだった

 その見た目は、まさにアニメや漫画に出てくる主人公が持つ武器そのもので、

 とてもではないが 素人である主人公が扱える代物ではなかった

「魔法剣って・・・」

 彼はもはや父親の言葉を信じるしかなかった

 目の前に広がる光景を受け入れなければならないからだ

「確か『闇夜と炎の剣』とか言って喜んで買っていたじゃないか?

 あまりゆっくりしていたら夕方までかかるから、お父さんは先に潜ってるぞ」

 父親はそう言うとトラックに載せていたリュックサックを背負って、「ダンジョン」へと

 入って行ってしまった

 残された彼は、しばらく呆然と立ち尽くしたまま動けなかった

 軽く息を吐くと、彼は自分がしなければならない事を頭の中で整理し始めた

 しかたがないので、彼は停車しているトラックの荷台の方へと向かった

(とりあえず魔法剣とか言っていたけど・・・そんなの買った覚えすらない)

 彼はそう思いながら荷台に視線を向けると、草刈り機や鍬と一緒に

 確かに長剣らしきものも放り込まれていた

 それを手に取り、まじまじと見つめた

 その剣は、長さ1mほどの片刃の直刀であり、柄の部分にも鞘部分も

 白銀に輝いており、鍔部分には

 紫色をした宝石のようなものが埋め込まれているものだった



 彼は、鞘から身を抜くと漆黒の刀身に紅い焔のような揺らめきが見て取れた

(うわぁ~なんか厨二病心をくすぐるデザインだなぁ)

 彼はそれを眺めながら、何とも言えない気分になっていた

「この厨二病心くすぐるデザインの剣を持って「ダンジョン」潜れと?

 ネット小説でも読んだことがないぞ・・・というか、俺はどんな世界線に転移したんだが・・・・

 放置田で草刈りしていたはずなのに、気が付いたら放置田の

 真ん中に穴ができててダンジョン化・・・

 そんなタイトルでネット投稿しても読まれねぇ」


 彼は呟きつつ、おそるおそる「ダンジョン」へと足を踏み入れた

 そこは、薄暗い洞窟のような場所だった 天井には鍾乳洞のように

 石柱が何本も垂れ下がっており、 壁には発光性の苔のような

 植物があるのか仄かに光っているようだった

 光源はそれだけしかないため、かなり視界が悪い


「なんで放置田に、ガチガチのRPGゲームの「ダンジョン」が出来るんだよ!?」

 脚を止めた彼は、思わず叫んでいた

 しかし、すぐに我に返ると慌てて周囲を見回してみた

 すると、彼の前方と後方に道が続いているのが確認できた

 前方に伸びているのが、おそらく先程父親が言っていた三層までの通路だろう

 彼の後方には地上?に続く道のようなものがある

 どちらに進むべきか迷ったが、結局は父親に言われた通り進むことにした

「ダンジョン」内は見渡す限り広く、また複雑に入り組んでいるようであった

 そのため、彼は慎重に進んでいく

「というか、草狩りじゃなくてモンスター狩りするのか?」

 彼は困惑した表情で呟いていると、前方の曲がり角の向こう側から何かの

 気配を感じ取った

 咄嵯に、近くの岩陰に身を隠した彼は、息を殺して様子を伺っていた

 そして、ゆっくりと曲がった先に視線を向けた

 そこには、緑色の肌を持ち身長130cmほどの醜悪な小鬼がいた

 それは、RPGゲームでは序盤から中盤にかけて出現する「ゴブリン」と

 呼ばれる存在だった

 しかし、それはゲームのようにデフォルメされた姿ではなく、リアルな姿で

 そこに存在していたのだ

 しかも、その数は十匹以上はいるように思えた


 彼はゴブリン達の様子を観察していたが、ゴブリン達は彼の存在には

 気づいてもいない様子だった

(うわぁ・・・マジかよ・・・)

 彼は、ゴブリン達がこちらに背を向けて去って行くのを確認してから

 安堵のため息をつくと、 その場に座り込んだ

(あれを狩るのか? 本当に俺はどんな世界線に転移させられたんだ?

 いや、そもそも俺が異世界転生とかしたわけじゃないよな?

 だって、あんなゴブリンはラノベやゲームでしか読んだ事も見た事しかないし、

 それに、この剣はお父さんは魔法剣とか言ってたけど、魔法なんて使った

 事ないぞ?!)




 彼は、手にしている魔法剣を見ながらこれからの事を考えていた

 父親はすでに二層と三層へと向かっているため、ここにいるのは

 彼だけだ

(どうしよう・・・)

 彼が悩んでいると、ふと父親の言葉を思い出していた

(確か、お父さんはオーガとかトロールとかがいるとか言ってたな・・・

 オーガはともかく、トロールって あのトロルだよな・・・

 一層はゴブリンやコボルトしか出ないとか言ってたけど・・・

 とりあえず、この剣の使い方を覚えないと)

 彼はそう思いながら立ち上がり、周囲を警戒しながら岩陰からゆっくりと出た

 辺りを警戒しつつ、持って来ていた「闇夜と炎の剣』という魔法剣を鞘から

 抜いて構えた

 剣の刀身は漆黒に染まっており、その刃は揺らめく紅い焔のような

 揺らめきがあった

 その剣は、まるで闇夜に浮かぶ炎のように妖しく煌めいていた



「しっかし、これ本当に厨二病心くすぐるなぁ」

 彼はそう呟きながら魔法剣を前方に突き出すと、剣先から

 バスケットボールぐらいの黒玉がまるで彗星の尾のように飛び出した

 その黒い球体は、前方へと飛んでゆくと蜃気楼の様に消えていった

「ナニコレ」

 彼は本日二回目の言葉を呟いていた

 しかし、すぐに我に返ると慌てて周囲を見回してみたが、今の所、先ほどの

 ゴブリン以外には見当たらないようであった

 彼は気を取り直して、今度は魔法剣を振ってみた

 すると、刀身の揺らめきがまるで剣閃を描くように動き、漆黒の刀身から広範囲に

 紅い焔が飛び散るように現れた

 しかし、その焔もやがて闇夜に溶け込むように消失していった


「えぇ・・・・」

 彼は困惑しながら、この魔法剣の扱い方に悩んでいた

 しばらくすると、またも前方の曲がり角の向こう側から何かの気配を感じた

 彼は、咄嵯に近くの岩陰に身を隠そうとしたが間に合わなかった

 前方の視界から姿を現したのは、再び「ゴブリン」と呼ばれる存在が十匹以上いた

 しかし、今度のゴブリンは少しだけ様子が違っていた

 なんと、ゴブリン達の手にはボロボロではあるが、錆びてはおらず

 手入れされている短剣が握られていたのだ

 さらに、その後ろには棍棒を持ったゴブリンが一匹いた


「何あれ怖い」

 彼は、思わず本音を呟いていた

 また今更だが、清潔という概念がないのかゴブリン達の身体から

 嫌な臭いが漂ってくる

 その臭いに彼は顔をしかめていたが、そんな事を気にしている

 場合ではなかった

 どうやら彼を獲物と認識しているようでジリジリと距離を

 詰めてきているのだ

 奇声を叫びながらジリジリと距離を詰めてきているのだ

 その様子からは、殺意のようなものを感じ取れた

(え?マジで?)

 彼は恐怖を感じていた



 しかし、このままではやられるのは目に見えている

 だからといって、戦えるかと言われると自信がなかった

 しかし、彼は意を決して剣を構えるが、恐怖のためか身体が震えていた

 彼はゴブリン達を睨みつけているが、明らかに腰が引けていた

 すると、その中のリーダー格なのか先頭にいるゴブリンより一回りほど

 大きいゴブリンが 雄たけびを上げながら突進してきた

 それに釣られて他のゴブリン達も突っ込んでくる

「ウソだろぉおおお!!!」

 彼は、絶叫をあげながら手にしている魔法剣を必死になって振り回した

 すると、刀身から放たれた紅い焔がゴブリン達を襲う

 轟音と共に火炎壁がゴブリン達を襲った その焔は、まるで荒れ狂う竜のように

 ゴブリン達を飲み込み焼き尽くした

 染め上げる赤い焔は、異様な状況でも美しい光景のように思えた

 数秒後、焔が消えるとそこには炭化したゴブリンの亡骸が転がっていた

 それを確認してから、彼は安堵のため息をついた


「死ぬかと思った・・・」

 そう呟くとその場に座り込んだ

 しかし、その表情は決して明るくはなかった

「ネット小説やラノベの転移系主人公は、こんなヤバい事を平然とやって

 のけるんだなぁ・・・

 すごいなぁ・・・俺は無理だよ」

 彼の言葉に反応するように、その背後から物音が聞こえてきた

 彼はビクッと驚きながらも恐る恐る振り返る

 そこには、瞳を赤く輝かせた一回りほど大きな体格のゴブリンが棍棒を

 片手に立っていた

 その目は、真っ直ぐに彼を捉えており殺気を放っているのが見て取れる

 その迫力に彼は思わず後ずさってしまう

 しかし、すぐに気を取り直して剣を構えようとするが、緊張のせいか手が

 小刻みに震えていて 思うように動かなかった

 そんな彼にお構いなしにゴブリンは、雄たけびを上げると走り出した

「ヒィイ!」

 彼は情けない悲鳴を上げて剣を突き出すように向けると、剣先から黒い球体が

 彗星の尾のように飛び出ていった

 その黒き彗星は、真っ直ぐにゴブリンへと向かい直撃し、その身体を一瞬で

 粉々に粉砕した

「マジかよ・・・」

 驚愕のあまり、彼は声を上げた



 手に持っている魔法剣があまりにもチートじみた性能だったため、呆気に

 取られていた

 しかし、それも束の間だった

 なぜなら、周囲から次々とゴブリンと思われる個体が姿を現したからだ

「あぁああ!もう!!

 ちくしょう!!!  やってやらぁ!!」

 彼はそう叫びながら、手にしていた魔法剣を構えた

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