施餓鬼

 もう、後数日でここも壊される。

 この御盆休みが終わると解体作業が始まる。


 僕は、何をしていたのだろう。


 冷房が切れても暫くは涼しい館内を閉館点検する。

 ここも、もう殆どのテナントは無くなり、大きな抜け殻になってしまった。


 僕みたいに。


 ふと、吹き抜けの向こうの大きな天窓を見上げる。

 月が、奇麗だった。


 涙が頬を伝った。


 僕は、何もできないのか——

 ゆかり——

 ごめん——


 その時、館内に風が吹いた。


——大丈夫だよ——


 何かが、流れるに任せるにしていた涙を拭いてくれた。

 あのハンカチで。


 驚いて、そちらを見る。


 何も、無かった。


 でも、僕には笑顔が見えた。


 何かは、僕の手を包み、そのハンカチを僕に握らせた。

 とても、心地よかった。


——ありがとうね——


 その笑顔は、更に微笑んでそう言ってくれた。


 バァン。


 僕が呆然としていると、突然一発だけ、花火が上がった。


 今年の花火大会は中止じゃなかったっか——?


 それは、とても奇麗で、暖かで——

 涙を止められなかった——


 ありがとう——

 ゆかり——

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