第16話 【 一旦帰宅 】


「ところで、つかさ、午後からどうするの。家帰る?」

私は、午後の予定と娘に会うかどうかを決めて、チェックアウトするのか予定通り連泊するのかを決めなければならなかった。昨日、偶然にも一日目でつかさに逢えたが、もし逢えなければ、今夜も捜すつもりで、二泊の予約を一応入れておいたのだ。

「うん、友だちのところにも行きたいし、帰る。こうじさんは?」

「ああ、今夜もここ予約してるんだけど、午後から、外資系の会社で社長している従兄弟のところに顔だそうかなと思ってる。恵比寿に会社があるらしい。それから、娘が大丈夫なら夕ご飯でも一緒に食べようかなと。もう二年以上会ってない。つかさがまた泊まってくれるなら早めに帰ってくるけど。泊まる? 今日はバイトないんでしょ?」

「ううん、やっぱり帰る。娘さんとゆっくりして。私は、友だちのところやめて、もう一回、帰って寝る」

「あはは、やっぱり、俺のイビキやかましかった?」

「ううん、全然大丈夫だけど、眠い」

「じゃ、ちょっと横になって行ったら。家までは遠いんでしょう。12時になったら起こしてやるよ」

「うん」と言って、つかさはそのままベットに横になった。私は、またその無防備な姿を見て唾を飲んだ。そして、しばらくその姿を眺めて、小説の続きを書いた。



「つかさ、つかさ」

肩を少し叩いて起こしてみた。つかさは、今度は直ぐに起きたし、声かけだけでも大丈夫だっただろうが、つかさに触れてみたくて肩を叩いてしまった。私たちは、新宿まで、つかさリードで移動し、一緒に軽食をとってから別れた。つかさは町田へ、私は、従兄弟の会社がある恵比寿へと向かった。夜は、娘と食事をし、久しぶりに話をした。娘より更に10歳もつかさは年下なんだと考えると、罪深さを感じると共に、恋愛対象にはならないという歳の差だという安心感も湧いてくるようで、不思議な食事会になった。

翌朝、私は成田空港から佐賀へと帰った。飛行機の中で、一昨日からの出来事を書いた小説の下書きを読みながら残りの部分を継ぎ足した。



東京から帰り、先ず、嫁さんに娘の様子を伝えるみあげ話をした私は、早速、次の日、パスポートを取る準備をして、県庁まで出かけた。地元の市役所で申請も出来たが、即日交付の県庁まで行ったのである。パスポートを先ず取得してからメキシコ行きを嫁さんに相談しようと思ったのだ。つかさがあっさり承諾した今では、こちらの許可を取る方が、よっぽど難しいことは分かっていた。しかし、ここはなんとしてでも、つかさのためにも、自分の作家にかける僅かな可能性のためにも、説得する必要があった。

私は、一年半前のつかさに出逢った時からのことを包み隠さず話した。会社を辞めてでも、執筆に集中しようとしている熱意を汲んでくれたのか、嫁さんは、意外とあっさり承諾してくれた。その代わり、別の海外へ嫁さんを連れて行くよう約束させられた。その費用はしょうがない。退職金を切り崩すとする。これは嫁さんがじっくりプランを練ることになった。

どうしてもつかさをメキシコへ連れて行かなければと、何か前世からの叫びのような、なんとも言えないものを感じていた私は、ひとまずホッとして、翌日、旅行社を訪ねて、プランを組んでもらった。オアハカ死者の日ツアーの前に日程を延長する形で前日にグアナファト観光を入れてもらった。私は、早速、そのスケジュールをつかさに連絡し、パスポートの取得状況を尋ねた。お母さんの許可も取れて、一週間程度でパスポートも取れるという事であった。ビザは、日本国籍で、180日以内の滞在なら必要ないという事が分かった。つかさが日本人じゃないということはないだろう。


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