異世界転移したようだがもう駄目かもわからん

高久高久

気が付いたら山の中

「……ここが、地獄か」


 俺、永野栄太が呟いてペットボトルの麦茶を口にする。まだ冷たい液体が身体に染み渡る感覚に浸った――直後、熱気でそんなもんはどっかいった。

 刺すような熱気。太陽は優しくどころか殺意満々で俺達を照らしている。地面はアスファルトの筈が、太陽光のお陰せいで鉄板の上に居るのかというくらい熱い。

 暑いじゃないんだ。クソ熱いファッ●ンホットなんだ。

 だがここに居るのは俺一人ではない。何人もが、とある同じ目的でこの地獄を並んでいる。

 前を見ると、目的まであと少し。その目標がある限り、俺は――否、俺達は頑張れる。

 列が進み、何人かがまとめられて先へ進む。俺はギリギリ、その集団に入る事が出来た。誘導された先はまた列だが、今までの物と比べれば短い短い。

 やがて、俺の番が来た。


「新刊を1部――あ、2限? 2部下さい」


 汗だくになりながら野口を差出し、2冊の薄い本を受け取る。


「新刊無くなりましたー!」


 直後、響き渡るサークル主の声。後ろに並んで居た者達から悲鳴のような声が聞こえ――る事は無く、あっという間に解散し別の目的サークルへ。流石コミケに来る訓練された猛者達。面構えが違うという物だ。


 ――季節は夏。時期はお盆。ここ、某ビ●グサ●トは戦場と化していたコミケの真っ只中である

 人々は数多の千円コイン500円とか100円を握りしめ、薄い本を求め、日本各地――否、世界から集っている。

 人、人、人――ただでさえ夏だというのに熱気でこの地ビッ●サイ●は阿鼻叫喚の地獄と化している。

 台車で運ばれる熱中症患者を尻目に、壁サーの薄い本を手にした俺は達成感に浸る――間もなく次の目的地サークルを目指す。今なら、今ならまだ完売していないかもしれない、と淡い期待を抱きつつ。


「えーと、次は西か……お?」


 俺の目にある看板が目に入る。『西ホールはこちら』という文字と、矢印が書かれていた。

 人の流れとは逆方向で、看板の矢印の方へと向かう者は見当たらない。この看板に従うべきか、考えるがすぐにやめる。まともな思考が出来ない暑いし熱いでまともに物考えられない今、従うのは本能だ。

 この看板に従う。運営の看板なのだから、通っても問題は無い筈。

 俺はその看板の矢印に従った。建物の裏の方に出て、直射日光にさらされ体力を奪われる。

 一瞬くらり、と視界が揺れる。いや、ここで倒れるわけにはいかん。死ぬ倒れるのは帰ってから自宅でも十分だ。

 何とか俺は歩いた。歩いた、はずだった。


 朦朧とする意識の中、歩いた俺は気が付いたら――


「……ここ、どこ?」


――知らない、森の中に居た。

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