第20話 お泊り会

 勉強漬けだった期末テストが終わると、学校は夏休みに入った。 

 夏休みといっても宿題はとてつもない量を出されて、毎日かなりの時間を勉強さかないと終わらない。

 それに、夏休み明けには模試が控えている。夏休みといっても、休んでばかりはいられないようだ。


 まあ、夏休みどこに行くとか、誰かと遊びに行くとか予定はないので、毎日時間を持て余すよりは、やることがある方がいいとポジティブにとらえ宿題に取り組んでいた。


「夕貴、夕ご飯できたよ」


 母の呼ぶ声が聞こえてきた。ちょうど区切りのいいところだったので、勉強を止めリビングへと向かった。


「夕貴、今度の土日、お父さんとお母さん出かけるけど、一人でお留守番できるよね」


 夕飯のレバニラを食べているとき、母親が申し訳なさそうに言った。


「いいけど、どこ行くの?親戚の法事?」

「いや、上園電工の部長さんたちと旅行も兼ねて泊りで県外に接待ゴルフに行くことになった。男はゴルフで、嫁さんたちは観光って感じ。泊りだと一日中気を遣うから嫌だけど、付き合いだから仕方ない」


 そんなことを言いながらも父は嬉しそうにしている。ここ数年は旅行に行く余裕なんてなかったから、久しぶりの旅行に母も楽しみにしている表情をみせている。


「一日ぐらいどうにかなるから、行っておいでよ」

「ありがとう。日曜日は夕方ごろ帰ってくるからね。火のもとには気を付けてね」

「わかってるって、父さんたちも久しぶりの旅行楽しんでおいで」


 こうして今週の土日は一人で過ごすことになったが、まあご飯はコンビニもあるし、簡単な料理は自分でも作れるし、とくに困ることはないだろう。


 そして迎えた土曜日、朝嬉しそうに出発する両親を見送ると、勉強して息抜きにテレビを見たり、スマホをいじったりして、昼ご飯は素麵をゆでて食べた。


「今日はこのぐらいでいいかな?」


 大きな伸びをしながら時計を見ると3時を過ぎたところだ。

 家に誰もいない静かさを無意識に嫌がっているのか、両親がいなくなってから独り言が多くなってしまった。


「夕ご飯何しようかな?」


 夕飯はコンビニやスーパーに弁当でも買いなさいとお小遣いをもらったので、買い物に行ってもよかったがまだ昼の暑さの残る外には行きたくない気分だ。


―—ピンポーン♪


 玄関のチャイムが鳴った。宅配便でも届いたのかなと思い、1階に降りて玄関を開けると、葵が立っていた。黒のキャミソールワンピースに白のカットソーという夏らしいスタイルに、デパートのロゴの入った紙袋を両手で持ち、リュックサックを背負っていた。


「あっ、葵、何か用?」

「夕貴のご両親、今晩いないでしょ。寂しいと思って、泊りに来たの。私って優しいでしょ。ほら、ボーっとしてないで荷物持ちなさいよ」


 葵が差し出してきた紙袋を受け取った。


「泊まるって、いいのかよ」

「女の子同士お泊りするぐらい普通よ」


 僕が葵に力づくで何かをする訳がない。もし、そんなことしたら一家全員悲惨な目に逢うことは簡単に想像がつく。

 葵が泊りに来てくれて嬉しい半面、葵に手出しできないもどかしさが僕の心を苦しめる。


「じゃ、上がるわね」


 僕の同意を待たずに、葵は2階へと上がっていった。

 僕も葵の後をおって階段を上がった。

 紙袋の中には、お弁当が二つ入っていた。どうやらデパ地下で買ってきたようだ。


「夕食用にと思って買ってきたの」

「そうなんだ、夕食作る前で良かった」


 冷蔵庫にお弁当を入れながら答えた。


「私が来なかったら、どうするつもりだったの?」

「冷蔵庫にあるもので適当に作って食べるつもりだった」

「そしたら、夕ご飯作ってよ。あのお弁当だけじゃ、足りないでしょ?」

「確かにそうだけど、簡単なものしかできないぞ」


 たしかに葵が買ってきたお弁当は美味しそうだけど小ぶりで、ちょっとボリュームが足りなさそうだった。

 冷蔵庫にあるものを思い出しながら、それで作れるレシピを考える。


「生姜焼きでいいか?」

「生姜焼き?ポークジンジャーのこと?夕貴が作ってくれるのなら、何でもいいけど」


 一人と思われた今日の夜が、思いもかけず葵と一緒に過ごせることになった。イヤらしいことはできなくても、一緒に時間を過ごせるだけで嬉しい。

 夕ご飯までは時間があるので、ひとまず僕の部屋へと葵を案内した。


「どうぞ」

「ちゃんと、家でも気を抜かずにスカート履いているようね。下着もピンクでかわいい」


 僕が部屋のドアを開けると同時に、葵は僕の着ている白のミニ丈のボックススカートの中に手を入れめくりあげた。完全に油断していた僕は抵抗する余裕もなく、葵に下着を見られてしまった。

 葵はいたずらが成功した子供のような笑みを浮かべている。


「夕ご飯まで何しようか?」

「そうだね、ゲームでもする?」

「いいよ、何のゲームがあるの?」


 葵がゲームをするなんて意外だった。手持ちのソフトを見せると、葵は「これがいい」と同じ色を4つ繋げると消える落ちものパズルのソフトを選んだ。


「ただ遊ぶのも面白くないから、負けた方が一枚ずつ脱いでいくのなんてどう?」


 葵は自信がありそうだが、このゲームは手持ちのゲームの中でも一番やりこんだゲームで僕も自信がある。


「最近やっていないけど、まあいいよ」


 葵には今まで下着を見られてばかりだったが、葵の下着が見られると思うと胸が躍る。

 でも、あまり自信があるそぶりを見せると別のゲームにされそうなので、自信があることを悟られないようにそっけなく答えた。


―——十数分後


 あっという間に3連敗して、トップス、スカート、キャミソールを脱がされ、パンツとブラジャーだけにされてしまった。

 葵は僕より圧倒的に速くて上手い。僕が3連鎖作る間に5連鎖を作り、僕が5連鎖を仕込んでいる間に、3連鎖を2回繰り返しお邪魔石を送り込んで仕込みを邪魔してくる。


「どうする?まだ続ける?つぎは、ブラじゃななくてパンツの方脱いでもらうけど」

「ごめんなさい、ご勘弁を」


 勝ち目がない僕は土下座しながら許しを請い、服を着ることにした。

 葵には、何をやっても敵わない。

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