11.「まさかこんなことになるとはね……」

 我ながら、いい仕事をしたなと思っていた。

 羽衣ちゃんたちはこの後打ち上げだというので、私とサナはフルーツスタンドの生ジュースで乾杯した。私はブラッドオレンジ、サナは安定のいちご。

「サナ、いちご好きだね~」

「なんかつい選んじゃうんだもん。真っ赤でかわいいじゃん。ハートみたいで」


 最近サナは有馬くんと図書館デートを楽しんでいるらしい。時間を決めて図書館で気になる本を探し、お互いが読んだ本のおすすめポイントを語るという、なんとも文学的なデートだ。


 手紙の代筆だけど、さすがに今回の件で終わると思っていたのだ。

 ところがどっこい、次の週、話を聞きつけたほかの吹部の子や、そのまた友達を名乗る人たちが押し寄せた。


「ねーバスケ部の高村くんってわかる? どういう感じが好きかな~? おねがい、なんでもいいから書いて~」という他力本願タイプや、

「英文の古川先生に書いてほしいんだけど……」という、禁断の恋タイプなど、さまざまだった。

 いつもクラスのはしっこでお弁当をつついていた私たちは、またたく間に人気者になってしまった。

 そしてそれを上手くさばいてくれたのはサナだった。


「ミーハーはお断りね。じゃ、この紙に志望動機と書いてほしい内容、連絡先を記入して私まで! 人数多いから全員とは限らないのでご承知おきを~」

 彼女の実家は商売をやっているから、かなり手慣れた様子だった。

「サナ、ありがとう、助かった。こんなに来るなんてびっくりしちゃったね」

「いえいえ、まあ私がでかい声で言ったのが原因だしね」

 彼女もさすがに責任を感じているようだ。

「まさかこんなことになるとはね……」


 サナにアドバイスをもらいながら、ラブレターを代筆するにあたっての約束事を決めた。

 物知り顔で「最近はこういうのうるさくてさ~」と言いながら、色ペンをくるくる回しているサナは、さながら未来の女社長、みたいな風格すら感じた。


 一、想いを伝える手助けをします! でも、恋の成就を約束するものではありません。

 二、手紙の内容は第三者へ絶対にお見せしません。

 三、ネットにアップしないこと。悪用は禁止です。


 手紙を書いてほしい人には最初にこの規約をみてもらい、それでも大丈夫という人のみ受け付けすることにした。

 なかには「え~そこまでするの?」と嫌そうな顔をする人もいたけれど、そのぶん真剣な想いを抱える人だけが残ったのでかえって良かった。


 ちなみに責任を感じていたのはサナだけでなく、羽衣ちゃんも同じで、その後めちゃくちゃ謝りに来た。

 私は全然悪いとも思っていなかったし、むしろ三人で一緒に依頼書の仕分けをしている時間は結構好きだった。

(余談だけど、やるならちゃんとやろうと思って、代筆について調べてみた。そしたら、文章自体を代わりに書いてあげることだと知って、とりあえずは今の清書パターンでいいよね、とひっそり思ったりした)


 人の数だけ、想いの形があって、手紙もさまざまだった。まさに十人十色。

 私は、まだ自分の気持ちを手紙にできないと思う。

 でも、前よりは少しだけ、手紙っていいじゃんと思い始めていた。


 でも、この代筆のことは隼人には言えていない。いずれ、知られるかもしれない。

 そしたら、どんな顔をするだろうか。

 とにかく、この時の私はそんなことよりも、恋を成就させる手助けをこなすことでいっぱいだった。

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