第39話 報告の齟齬

 

 転移魔法で王都に帰ってきた俺達は国王に四天王討伐を報告をしていた━━━


「マレフィクト討伐のサポート感謝する。では早速だがジュノ殿...討伐時の戦況と結果を報告してくれ」


 勇者には全員の手柄にしてくれって言われてたな...

 少し種を蒔いておくか━━━


「はい、僕達が到着した頃には勇者様はマレフィクトにより鎧を砕かれ負傷しエレナ様がその手当をしておりました。そして王都の兵も殆どがその場で動けなくなっており状況は最悪でした。

苦戦していた理由はマレフィクトの特性上不可視状態でないと攻撃が通らないためだと個人的に分析しました。そして我々が突入し回復した勇者様一行と王都の動ける兵士と共に力を合わせて注意を惹きつけ、最後はパトラが不可視状態で放った一撃で討伐を無事成功させました」


 兵士の事は少し盛ったが大方間違ってはいないはずだ。

 ただ最後の俺の言葉にパトラはこっち見て小声で反論する


「私!? 本当はジュノの...」


「いいんだよ今はこれで...」


 国王は俺の報告に満足したのか少し穏やかな顔になった


「そうか...御苦労であった。しかしパトラ殿は凄いのだな四天王相手に一撃で仕留めるなど普通出来るものではない。それにジュノ殿の分析も素晴らしい...モロン殿も傷を負いながらも諦めずよく戦ってくれた」


 国王の言葉にパトラとモロンは少し嬉しそうに頭を下げた


「お褒めの言葉ありがとうございます」


「ありがとうございます」



「それにしても...ジュノ殿はその装備で戦っていたのか? 四天王相手にその軽装でよく相手に出来たな」


 国王は少し怪訝な顔で俺の姿を凝視する。


「そんな見つめられると顔赤くなっちゃいますよ...僕は見た目通り軽い・・男ですから動きが鈍くなる重い鎧など不要です。そもそもあんなのつけてる奴は敵に日和ってるだけですからね」


「おい...それ鎧つけてる私の前でよく言えたね」


「...ジュノ殿...キミはなんと言うか...少し変な男だな」


「はい? 何か申されました?」


「いや、なんでもない...それと何故モロン殿は勇者殿とおらずジュノ殿といるのだ?」



 国王の質問にモロンはビクンと体を震わせて受け答えをする



「それは...僕は先程勇者殿にクビを言い渡されこれからはジュノさん達と行動する事になりました」


 モロンのクビ宣言に国王は思わず椅子から腰を浮かす


「何!? これまで活躍していたモロン殿を追放するなど彼は何を考えているのだ...しかしモロン殿はそれで大丈夫なのか?」


「はい...正直に申しますと僕は追放されて良かったと思います。それに勇者パーティでなくても活動自体は出来ますから」


「そうか...何も力になれずすまない。では皆の者報告御苦労であった。今日は3人ともゆっくり休むと良い...宿は我々の方で一流のものを手配する。部屋は各々分けた方がいいか?」


「はい、分け━━━」


「いえ、3人一緒の大きい部屋を希望します。今日は話す事もいっぱいありますし」


 パトラが神速で俺の言葉を遮り国王に返答をした

 

「嫌だ! 国王様! 僕は1人の時間が欲しいです! それが無理なら僕は不敬を承知で国王様と同じベッドで寝させて下さいお願いします!」


「ジュノ...さっきの件で私に借りがあるよね? 大丈夫です国王様、3人で一つの部屋希望します」


 コイツ弱み握ったらとことんつけ上がるタイプのやつか!

 やっぱ集会所の時に首切り落としっぱなしにしとけばよかったよ!


「わ...分かった。私もジュノ殿と同じベッドで寝るのは嫌だしな...手配の間街の中を自由に歩くでも好きな時間を過ごしてくれ」


 俺達は城を後にして城下町へと足を踏み入れた━━━



*       *      *



「ただいま戻りました国王様」


 回復魔法で身体は元通りになったが鎧を脱いだ状態で勇者は国王の前に跪き、エレナとリーゼも体に少し傷を負いながら同じように伏せていた


「勇者殿とその妻達よ御苦労であった。先程ジュノ殿から報告が届いているが君たちからも直接話を聞かせてくれ」


「今回のマレフィクト討伐につきまして、それぞれ怪我を負いながらも皆で力を合わせ討伐する事が出来ました。その代償として僕の鎧は粉々になりましたが魔神の戦力は削ぐ事が出来たと思います」


「そうか...他の2人からも話を聞こう」


「はい...私は今回サポートと回復に徹しました。先にモロンが負傷しましたがすぐ回復させその後負傷した勇者様の回復を...」


「私は勇者様が手当を受けている間2人から注意を逸らさせるために私の弓術で妨害しながら立ち回っておりました。兵士たちも戦ってくれておりましたがマレフィクトの一撃一撃があまりにも強く、多くの兵を失いました」


「なるほどさすがは四天王...やはり相当な相手だったようだな。ところで勇者殿、最終的にマレフィクトはどうやって倒す事が出来たのだ?」


 国王は少し眉を顰め勇者の発言に耳を傾ける


「それは...正面から正々堂々と聖剣をマレフィクトに突き刺し討伐しました」


「そうか...本当に正面から堂々と討伐したのだな? 他の者も勇者殿の意見に相違無いな?」


「はい。間違いありません」


 語彙を強め勇者と妻達をまっすぐに睨みつけるがそんな事にも気が付かず2人の妻は機械的に勇者の意見に同調する



「そうか...私が聞いた話と少し違うな?」





 勇者は少し焦った顔で国王の顔を見上げる





「それは...どう言う意味でしょうか...?」



「ジュノ殿から聞いていたのはマレフィクトは意識された攻撃ではダメージが通らない為、皆で気を逸らせ不可視の攻撃で倒したと言っていた。しかし君の話では正面から突き刺したと証言している...この矛盾はどう言う事だ?」


「それは...彼が適当なことを言ったのでしょう。彼は武器はおろか防具も装備していないにも関わらず傷一つ負っていなかった。まともに戦いをせず逃げ回り相棒の女性に丸投げしていた証拠です」


「それは激闘の状況で防具すら装備していないのにも関わらず冷静に敵を分析し、攻撃を受けず渡り合えていたとも取れないか? それに最終的に討伐をしたのはその相方の女性だとも聞いている。君達は私を馬鹿にして嘘を吐いているのか?」


「いえ...そんなつもりでは...しかし!」


「それとモロン殿を追放したそうだな? ただでさえ戦況は不利だったにも関わらず貴重な戦力を削いで君は一体何がしたいのだ?」


 国王は焦りを見せる勇者にさらに畳み掛けるがそれを遮るようにエレナが割って入ってきた


「その件は私から。彼女は前々から我々のチームワークを乱しており、これ以上の乱れはメンバー全員の命に関わると判断し彼女にはパーティから抜けてもらいました」


「ほう、そもそも話し合いを重ねれば大賢者なら全てを理解し解決出来たと思うが。まあ良い...彼女もジュノ殿の元にいれば残りの四天王討伐でも役に立ってくれるだろう。それからフェルと名乗る少年から届いた村の実験の件だが...」


「その件については私たちは全く把握しておりませんでした...全てサーシャ1人でやったことだと思われます。もしかしたら実験ともなると大賢者であるモロンも関わっていた可能性が...」


「うむ...まあどちらにせよ我々王都で早急に調査を進める。では御苦労であった、次の四天王討伐に向けてよろしく頼む。それと本日王宮の全清掃を行うので悪いが今日はホテルに泊まってくれ」


「承知しました。ご期待に添えられるよう尽力します、では失礼します」


 勇者は顔に悔しさを滲ませながら国王の元を後にした。

 勇者が去ったのを見届けた国王は想いに耽っていた






「ジュノか...飄々とした変な男だったがあの目...間違いない、本当の化け物はあの男だ━━━」



*      *      *



「クソッ! なんなんだあのジュノという銀髪は! 俺に恥をかかせてくれたよ...ああいうヤツには絶望の淵にこの世から消えてもらわないと気が収まらない!」


「ですが...今回あの者がいなければ我々は壊滅してました...」


「それはあの赤髪女が強いおかげだろう!? あの銀髪が何をしたって言うんだ!? とにかく...銀髪と赤髪女を分断させるしかないな。そうだリーゼ、お前のその美貌を駆使してアイツをなんとか出来ないか?」


「それは簡単だと思うけど...女の方はどうします?」


「...アイツには俺の人形になってもらうさ━━━」


「悪いお方ですこと...あの女が勇者様のモノになるは少しヤキモチしてしまいますが我慢しましょう。ねぇリーゼ」


「うん、あんな赤髪が勇者様に触られるのは気に入らないけどあの男を壊すためだもん仕方ないよね。銀髪のイケメンは私に任せて」


「ああ、リーゼのようないい女が銀髪に近づくのは少し気に入らないが...あの飄々とした顔を絶望の表情に染められると思うとワクワクしてくるよ...」


 勇者はジュノを潰す為の手筈を整えニヤリと笑みを浮かべた━━━

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