第37話 邂逅

 

 俺達は領主の手配した馬車で王都に到着した━━━


「国王への面通しを済ませたから後は頼んだよ。それから...君には四天王や魔神を倒す以外に目的があるようだが、達成出来る事を願うよ。たまにはウチの土地に遊びに来てくれ」


 領主は優しい顔で俺を激励してくれた


「ありがとうございます。今度遊び行く時は国王や勇者の暴露話をBAN処刑される覚悟で持ち込みますよ」


「ははは...私まで処刑され兼ねないから遠慮しとくよ。さあ城内で国王様がお待ちだ」


「そうそう、冗談はいいから早く行くよ」


 俺達は馬車を降りて場内に足を踏み入れた。

 パトラの格好は今朝領主の専属メイドによって選ばれた体にピッタリな真紅のドレス、メイクやヘアスタイルは整えられその姿はまるで貴族の王女のように高貴な雰囲気を醸し出していた。

 一方の俺もいつもの服と違い領主のようなコートにワイシャツ、靴にはブーツといった格好をしている


「服を変えるだけで全然雰囲気違うね、外見だけ見るとめちゃくちゃカッコいいイケメン貴族って感じ...」


 パトラは少しうっとりした顔でこっちを見る


「ありがと、パトラも似合ってるよ」


「えっ...ありがと...///」


「この間俺とベッドを争奪していたワガママ女とは思えないギャップだよな」


「コイツ...うるさっ...!」


「それより、この先にはパトラの本当の仇 《大賢者モロン》が居るけど平静を装えるのか?」


「大丈夫。仕事だと思って私はポーカーフェイスをするよ。ジュノこそ大丈夫? あなたは勇者に恨みが...」


「問題ないさ、俺は怒りが込み上げるとニヤニヤするタイプなんだ」


「いや心配しか無いんだけど...何故そんなに勇者を殺したがってるの?」


「前にも話したろ? あの甘いマスクを見てるとヤスリで顔面をすり潰したくなるんだよ」


「またそうやって茶化す...いつか本当のことを話してよね。私はどんな事があってもジュノの味方だから...」


 彼女にはとてもじゃないが話せないな...

 勇者一行の中に俺を捨てた母親と寝取られた元恋人が居るなんて━━━


「そんな重い顔するなよ。これから俺達は偉そうになれる勲章を貰えるんだぞ? 見せびらかせば貴族の男なんて選び放題遊び放題だ」


「まーた始まった...国王の前で変な事言わないでね?」


「それフリ?」



 *      *      *



 俺達は番兵に誘導され王宮の廊下を歩き続けた。


 王の間へ到着すると奥の椅子には国王が鎮座しており、その姿はまさに国王と呼ぶに相応しい威厳のある出立ちをしていた。

 その王の近くまで来た俺達は敷かれたカーペット上に跪いた━━━


「2人とも表を上げよ」


「お前達がドラヴィロスを討伐した者か、今回の件誠に感謝する。名前を申してみよ」


「はっ、私の名前はパトラと申します」


「ジュノと申します」


「そうか...パトラにジュノ、ご苦労であった。しかし領主カインの手紙にはもう1人いたと書いてあるが...」


 国王はフェルについて言及してきた


「その事については私から...彼はドラヴィロス討伐に苦戦していた時に手を貸してくれました。無事討伐が成功した後、彼はシャイなのか姿が見えなくなり探しても見つかりませんでした。なので名前だけは領主様に告げて手紙に記載した所存です」


「そういう事か...彼からは剣神の首と剣神の不祥事を書いた手紙が送られてきた事があり気になったのだ。まぁその話は後にして君たち2人には四天王討伐の勲章を授ける」


 俺達は王の前に立ち胸に白銀に輝くバッジをつけられた。

 黄金じゃなくて白銀なのがケチくさいな...

 まぁこんなものになんの価値もないが勇者に近づくためだ仕方ない


「ありがとうございます。では私たちはこれで...」


「ちょっと待て、実は...今勇者が四天王の1人 《マレフィクト》討伐に向かっているのだがどうやら苦戦しているらしい...2人で手助けをしてくれないか?」


 ━━━は? どういう事だ?

 勇者一行がほぼ揃ってるのに苦戦してるだと?


「え?...しかし初対面の私たちがいても逆に足手纏いでは?」


「それが...今大賢者モロンが重症を負って戦況が変わってきているとのことだ。今はとにかく人員が欲しい...」


 パトラの仇の1人が死にかけてるのか...パトラが復讐する前に死なれちゃ困るからな━━━


 俺はパトラにテレパシーで問いかけた


『パトラ...お前は賛成か?』


『大賛成よ。奴が四天王に殺されたら名誉の死となってしまうからね』


『OK、じゃあ行こうか━━━』




「わかりました。すぐに向かいます」


「助かる。ではすぐにメディウムへ転移する準備を!」


 俺達は再び転移魔法の陣がある部屋まで案内され、正装からいつもの装備に着替えた後すぐにメディウムへと旅立った━━━



*      *      *



 メディウム内勇者拠点施設にて━━━



「到着したわね、勇者達はもう居ないみたいだけど...とりあえずどこに行ったか部屋の中で手掛かりを探しましょう」


 俺達が転移されてきた場所は勇者の部屋のようだった。

 グシャグシャになったベッドシーツ、壁には剣や盾などの武器が掛けてありベッドの隣にはクローゼットと隅には壺が何個か置いてあった


「ああ...ていうかこの部屋なんかイカ臭いな...」


「えっ? あ、ホントだ何でかな...?」


「はぁ...これだからオボコ女は。とりあえずクローゼットの引き出し全部開けて壺割るわ」


 俺は部屋の隅にあった壺を一つ一つ丁寧に割っていく


「ちょっと! 何やってるの!?」


「いや...これは冒険者の恒例行事だから。パトラはタンスの引き出し全部開けて」


「は?」


「いいから! 勇者の下着の裏に手掛かりがあるかもしれないだろ?」


「そんなものある訳ないでしょ!? もし何か移ったら責任とってよね!?」


「確かに股間に加護は受けてなさそうだもんな...パンツに縮れた4分休符しぶきゅうふが挟まってそうだし...」


「音楽の記号を汚いことに使わないでよ。あ...メモあったよ」


 どうやら勇者は誰かと先に向かい後から来たメンバーに伝わるように書き置きしていたらしい。


 内容を見るとこの街の外れの草原にある祠に四天王が居るとの事だった。


「草原か...洞窟と違って辛気臭く無さそうだし良いな。それと剣神のスキルは使っても良いよ。奴らには俺の得意な口八丁でそれっぽく説明するから」


「分かった。ジュノの瞬間移動で行ける?」


「ああ、窓から街の外見て把握したから行ける」


 俺達は勇者達が戦っている祠へ向かった━━━



*      *      *



 街外れの草原にて、紫のローブを羽織り宙を漂う人型の魔物 《マレフィクト》と勇者一行は激戦を繰り広げていた。


「...闇魔法...《ズローヴァスヴェート》」


 マレフィクトが掲げた右手から黒い光が球状に溜まり勇者目掛けて放たれる


「うぉぁっ...!」


 息も絶え絶えで足元がふらついた勇者はその黒い光をもろに喰らって跪いた


「クソッ! あれだけ魂を吸収して力を得てきたのに大したダメージが通ってないなんて...ぬぉっ...!」


「勇者様!」


 マレフィクトの攻撃は防御力を無視しているのか先程受けた攻撃で着ていた純白の鎧が一発で粉々になる


「そんな...俺の聖なる鎧が...!」


「奴の攻撃は鎧の耐久を無視しているのかもしれません。今《ヒール》をかけますのでこっちに避難しましょう! リーゼ、攻撃対象を勇者様から逸らさせて!」


 《大聖女エレナ》は勇者の肩を抱き草原の小さな木陰に逃げ込み直ちに回復魔法で勇者を治療を開始する


「分かった! 奴を引き寄せる!《ライトニングアロー》!」


 《上級弓術師リーゼ》はマレフィクトに向け天から無数の光の矢を放ち勇者から目を逸らさせる


「......効かぬ」


 しかしマレフィクトに刺さった矢は奴の体内に沈み込み吸収されるかのように消えた


「そんな...私の弓が...!」


 マレフィクトは体内から先ほど喰らった矢をリーゼに向かって放つ


「くっ...! まさかカウンターをしてくるなんて!」


 間一髪でリーゼは攻撃を避けるが同じ攻撃を返された事に動揺していた

 

「すまない...! 僕が油断したばかりに...」


 《大賢者モロン》が脇腹から血を流してエレナ達と同じく木陰に身を潜めていた


「勇者様の回復が出来次第すぐに手当をしますのでモロンは少し待ってください」


 そして勇者一行以外にも王都から派遣された兵士が約100人程居るが皆傷を負い治療に回る者が多く、戦力は確実に疲弊していた━━━


「終わりだ...四天王の1人がこんなにも強いとは...」


「攻撃が効かないなんて反則だろ...」


 兵士たちは四天王の前に手も足も出ず悔しさを滲ませる。

 そして勇者もこの戦況にイラついていた━━━


「全く...コイツら兵士も役にたたないし...モロンもモロンだ! 油断して攻撃を喰らいやがって...」


「申し訳ない...ですが僕は勇者様のために!」


「そうですモロン! 貴方が不甲斐ないせいで連携が乱れたのですよ!」


「そうよ! アンタ大賢者のくせに何前に出て攻撃喰らってるのよ! アンタは黙って勇者様のために魂を集めてくるだけで良かったのよ!」


「そんな...」


 傷を負ったモロンを更にエレナとリーゼは責め立て精神にも傷を負わせる。

 勇者パーティのチームワークはモロンの負傷という小さな楔が入っただけでボロボロになりつつあった。


「クソッ...こんなんじゃまだ戦わず力を蓄えておくべきだった...」


「もう終わりだ...我々は皆全滅する...」



 兵士たちは勇者一行の苦戦に加え自分達兵士がいとも簡単に蹂躙された事実に絶望の雰囲気が漂っていた━━━


















 創...堕天使の業火アバドインフェルノ━━━



「....っ!」








 ズドォォォン...!



 マレフィクトに向けて放たれた漆黒の炎の一撃はマレフィクトの胴体に巨大な穴を空けた━━━







「何だ...あれは...!」













「おや、みんなで元気にピクニックか。レジャーシートを持ってきてないんだが参加可能かい?」



「誰だ...お前達は...!」



「......俺達はアンタらの公式サポーターだ」

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