第7話 試練という名の拷問


「試練て何をすればいいんですか?」


「簡単じゃ、毎日毎日我にあらゆる方法で"殺される"事じゃ」


 ん?━━━今なんて言った?


「もう一回お願いします。Pardon me?」


「マイニチマイニチオマエコロス! って我にそんなノリで言わせるな!」


 神より上の存在がプンプン怒ってて一瞬可愛く見えたが言ってる事はとても恐ろしい事実に変わりはない


「冗談ですよね?」


「いや本気。説明は後じゃ」


 パチンッ!

 

 ルキさんが指を鳴らすと大量の矢が空中に浮かび上がり鏃の指す方向が僕に向けられる


「まずは1日目」


 言葉と同時に向けられた矢はとてつもない速度で放たれ僕の体を紙のように簡単に貫通した。

 無数の篦から伝う血が地面に落ちる


「うぅっ...ゲホ...ゲホ...なん...で」


 矢の一部が喉を貫通し上手く喋れない。

 それど同時に冷や汗も出ないくらいの悪寒がして身体中を激痛が走る


「毎日殺すと言ったじゃろ。とりあえず今日は優しく殺してやる。後5秒でお前は意識を失う...5...4...」


 彼女が数え終わる前に床を舐めた━━━



*      *      *



「...きろ...起きろ」


「んん...僕は...! 矢が体に!」


 下に柔らかい感触がありベッドの上に寝ていることを悟ったが飛び起きて体を弄る。

 しかし刺された矢どころか傷口すら跡形も無く完全に消えていた


「全くいつまで寝ておるんじゃ。傷はとっくに無くなっておるのに...精神力の弱いやつじゃ」


「初手で殺されて精神力もへったくれもないですよ...本当にこれを毎日ですか?」


「ああそうじゃありとあらゆる方法でお前を殺す。我の力を得るためにはそれなりの代償と精神力が必要なんじゃ」


「そんな...僕に耐えられない......」


 さっきの痛みを思い出すと気が狂いそうになる。

 この痛みを毎日...それを40年も━━━


「お前の覚悟はその程度か? お前を陥れた奴ら対する復讐心とやらはどこへ行った? 思い出せ! 今まで自分がやられた事を。そして憎んで憎んで憎み続けろ。そうすればこんなモノ40年ぽっち耐えることなど容易いわ」


 叱責されてあの3人のことを思い出す。

 確かに死ぬより辛く悔しい思いをした、何度も殺してやろうと思った。コレに耐えてアイツらをめちゃくちゃにしてられるなら何だって耐えてやる...!


「弱気になってました。耐えて耐えてアイツらをめちゃくちゃにしてやる...この毎日の恐怖や痛みを全部力に変えてやる━━━!」


「そうそうその意気じゃ。そして只無意味に我に殺されるだけではなく回避して戦ったり対処法を見つけてやり返してこい。我から生き残る時間を少しでも長くするんじゃ」


「分かりました。明日もよろしくお願いします」


「ま、もうその明日なんじゃがな」


「えっ...」


 さっきまで寝ていたベッドは直角の椅子へと変わり

 手足な皮の手錠で拘束されて一切身動きが取れなくなった


「ル...ルキさん? コレじゃ回避も戦うも何もできないですよ...」


「はて? 我そんなこと言ったか? さぁ始めようまずは手始めにコレじゃな」


 ルキさんが空間に生み出したのは鉄のペンチだった。

 何に使うかはすぐ想像できる...


「今コレで何をされるか考察したな? ではその通りのことをしてやろう」


「やめ...やめろ...やめて..」


 ペンチは僕の爪を挟みゆっくりゆっくり上へ引っ張っていく。

 やがて皮から爪が剥がれ始め激痛が僕を襲う


「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


「おいおいまだ始まったばかりではないか、そんな調子じゃ爪だけじゃ無くありとあらゆるモノを剥がしてやるぞ」


 爪を一枚一枚剥がされるたびに意識が飛びそうになるが勇者たちのことを思い出して意識を保つ。

 そして足の小指に残った最後の一枚が剥がされ拷問は終わったかのように見えた


「た、耐えましたよ...今日はもう終わりですか?」


「何を言ってるんじゃ? これからじゃよ、とりあえずコレを持て」


 先程まで縛っていた手足の拘束は解かれ、目の前に刀が浮かび上がる


「お前に貸してやる。我に一太刀浴びせる事が出来たら今日はおしまいにしてやろう。しかし浴びせれなかったらさっきの続きじゃ」


 おいおい勘弁してくれ...こっちは手足全部の爪を剥がされて力が入らないんだ。

 それに神より上の存在に一太刀浴びせるなんて出来っこない━━━


「お前はまた諦めているな?」


 ルキさんは見透かしたように言葉を浴びせる


「いえ、やります...」


 痛みで震える手で柄を握り締めやっとの思いで椅子から立ち上がる。

 剥がされた痛みで足にも力が入らないがやるしかない


「手加減はしてやる。では行くぞ」


 その瞬間ルキさんは消える。

 その直後に鈍く骨が割れる音が脳を揺さぶり後頭部に激痛が走る。

 僕は感覚で頭蓋骨が割れたと悟り眩暈がした


「おいもう始まっておるのだぞ? いつまでそこに立っておる」


 頭が文字通り割れるように痛いがこれ以上食らう訳にはいかない。負けたらどんな拷問が待ってるかわからない。

 次は歯を抜かれるかも━━━

 目を抉り出されるかも━━━

 そう思うと痛みに動揺している訳にはいかなかった。


「すみません...切り替えます。はぁぁぁっ!」


 すぐさま右足を軸に振り向き構えるがそこにはもう姿がなかった。

 

 まずい...どこに行った? さっきまでいたはずだぞ!?


「遅すぎる...」


 左からとてつもないドス黒オーラを発したルキさんは既に刀を振り下ろし終わっており、遅れて左腕に激痛が走った


「それが真剣なら腕無くなっておるぞ」


 痛む腕を見ると今まで見た事ない方向に左腕が曲がりグシャグシャになっていた

 普通ならもう2度と何も持つことは出来ないと思われるくらいに━━━

 

「コレなら切られた方がマシだったかも...」


「利き腕は死んだな。じゃがまだもう片方ある、立ち向かってみせよ」


 ルキさんは改めて僕に刀を構える。


 僕だって大型のデッドハウンドやいろんな魔獣を倒してきたんだ!

 神より上の存在とは言え見た目は女性なんだ、一太刀くらい浴びせてやる!


「焦るお前に一つヒントをくれてやる。我を気配で察する事は神でも不可能。だからお前が今1番攻撃されたら嫌だと思うところに技を放ってやる。それをどこか考えるんじゃな」


 1番やられて嫌なところ━━━割られた頭蓋骨か?

 それとも剥がされた爪か? 

 グシャグシャになった左腕か?

 恐らくどれも不正解だ。正解は恐らく━━━


「こっちだっ......!」


 体勢を変えて先程とは反対の方向へ向き刀を構える。

 

「ほう...正解じゃ」


 ルキさんは僕の右側で宙に舞って刀を構えていた


「自分が今1番やられたら嫌なところ。それはもう一つの腕ですよね? コレが無くなったら確実に一太刀浴びせられなくなり僕はまた拷問される...」


「そうじゃ、よくわかったな」


 ルキさんは地面に立ち頭を僕の方に差し出す


「ほれ、我に一太刀浴びせるんじゃ」


「それは出来ません。あのヒントがなければ僕は確実にやられていたので」


 その言葉に反し僕は刀を仕舞った


「素直なやつじゃな...まあ良い。瞬間移動出来る我の動きにヒントを与えたとは言え、手負いの状態でついてこようとした努力に免じて今日のところはおしまいじゃ」


 ルキさんは刀を消して僕の腕に触れ、傷が一瞬のうちに全て元に戻った


「ありがとうございます!」


「じゃあ今日はもう寝ろ。人間は寝ないと力を発揮できないからな」


 先程の椅子はベッドに代わり僕はそこに倒れ込んだ。


 その様子を見ていたルキさんは目をぱっちり見開いて思い出したように呟く


「そうじゃった! お前に少しずつ我のもう一つの力を与えなければいけなかったのじゃ」


「それって具体的に何をするんですか?」


「それはな━━━我とまぐわう事じゃ」


「はい!?」


 この人は一体何を言ってるんだ!?


「神様より上の存在と出来わけないですよ! それに僕は...」


「なんじゃ? ははぁ〜んお前初物じゃな? そんな事気にするな、初めてが我なんて光栄じゃぞ」


「いやそういう問題じゃなくて毎日殺してくる相手とそんなこと出来ませんよ!」


「お前強くなりたいんじゃろ? それにお前が初夜を迎えようとしてた相手は恐らく勇者のモノになっておるぞ」


 そうだ、母さんもリーゼも結局はあの勇者と━━━。

 思い出すたびに心に憎悪が増していく

 強くなるためにはやるしかないんだ━━━!


「分かりました。よろしくお願いします」


「そうじゃそうじゃ、それにこの経験はお前が向こうの世界に戻った時に役に立つ時が必ず来る」


 ルキさんが服を脱ぎ生まれたまんまの姿を見た瞬間まるで女神のような神々しさに思わず見惚れてしまった。


「お、おい...そんなにこっちをまじまじと見るな」


 アレ? 神より上なのになんかちょっと照れてる?


「なんか照れてません?」


「て、照れてなどおらぬ! さっさと始めてチカラを分け与えるぞ」


 僕とルキさんは同じベッドで次の拷問を迎えるまで一緒に過ごした

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