第11話



――八月三十日 22:09――


「虎太郎起きてるか」

「うん、まだ眠くない」

「明日から学校だろ。宿題は終わったか?」

「もう宿題の話はしないでよ」

「なんだよ、勉強もちゃんとしないとダメだっていつも言ってるだろ」

「そうだけど。兄ちゃんよくできるよね。バスケやりながら勉強もなんてさ」

「俺が勉強するのはバスケのためだからな。バスケしか出来ないバカな奴なんて思われたくないだろ? 特にプロになったら海外とか行って英語も話さなきゃならない」

「そっか、英語か」

「それにな、小さな子どもたちや虎太郎にカッコいいところ見せなきゃいけないしな」

「何それ」

「ん、子どもたちはプロの選手に憧れるだろ。そのプロの選手が勉強もできて英語も話せたらもっとカッコ良く見えて憧れるだろ。そうやってもっとバスケを好きになる子が増えてほしいんだよ」

「でもみんな兄ちゃんを見たらバスケ好きになるよ。だってカッコいいもん」

「はは、そうなるようにお前も頑張れってことだよ」

「僕が? 出来るかな」

「だからしっかり勉強しろよな」

「わかったよ」

「今日な、三年生が引退した。これから三年生は受験があるから部活は終わりなんだ」

「へえ、なんか寂しいね」

「ああ、猪又コーチ、泣いてた」

「あの厳しいって言ってたコーチ?」

「そう。厳しくてもさ、やっぱ三年間一緒に頑張ってきた仲間だもんな。三年生もみんな泣いてた」

「じゃああの監督さんも?」

「犬飼監督だろ、もうぼっろぼろだよ」

「わあ」

「本当に犬飼監督は部員ひとりひとりに寄り添ってたからな。あの人は本当に尊敬するよ」

「兄ちゃんが尊敬するってどんな人なんだろう」

「うーん。誰よりもバスケを愛していて誰よりも人間を愛している。そんな感じかな」

「なんだ、兄ちゃんと一緒じゃん」

「そうか?」

「うん。兄ちゃんの方が誰よりもバスケを愛してて誰よりも優しいよ」

「そうだといいんだけどな」

「そうだよ。僕が保証するよ」

「はは、ありがとう。お前も若葉高校に来たら犬飼監督に会えるぞ」

「うん、楽しみ」

「虎太郎のことをよろしくって言っておくからな」

「兄ちゃん、まだ早いってば」

「何でも先回りしておくさ」

「なんか恥ずかしいよ」

「恥ずかしくないさ。俺の弟だからな」

「もう、わかったよ。残りの宿題やるよ」

「やっぱりまだやってなかったんだな」

「違うよ、あと漢字だけ残ってたんだよ。もう忘れたことにしようと思ってたのに」

「ダメだぞちゃんとやらなきゃ。でももう遅いからあんまり夜更かしすんなよ」

「はぁい」

「じゃあな虎太郎。明日からまた学校も頑張れよ」

「うん。兄ちゃんも頑張ってね」

「おう。また明日な」

「お休みなさい」

「お休み」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る