白狐さんの初めてのゲームセンター

「ほら着いたぞ。ここだ。」

 駅前の一角にあるこの駅ビルのほぼ全てのフロアがゲームセンターになっているこの建物は、閉店時間まで多くの大人や学生などで賑わうスポットだ。

 実際食費は別で親が出してくれるため、休日などに友達とここで対戦ゲームで対戦するなどということもよくあることだ。


 「うわぁ……すごい人ですね!この人数は初詣とかじゃないと、普段見られないような量ですね……!」

 心菜は建物の中に居る沢山の人を見て驚きつつも中が気になっているようでビルの入り口の方へと向かうが、自動ドアの前で心菜は歩みを止める。

 「哲也さん、どうしましょう……。奥が見えるのに進めません!これと似たような物があったお店では近づくだけで開いたのに!」

 このビルは珍しく赤外線センサーで自動で開くドアでは無く、ボタンを押すことで開く半自動ドアなのだ。

 「このドアはこうやってここを押して開けるんだ。」

 俺はボタンを押してドアを開けると心菜はおぉと声を出す。


 早速店内に入ると、沢山のクレーンゲームが置いてある空間が目の前に広がる。

 「そういえば心菜はどんなのが欲しいんだ?俺の部屋に置いてあったようなやつか?」

 「あれはカッコよかったのでできれば欲しいです!哲也さんともお揃いになりますし!」

 お揃いという言葉に少しビクッとしたが、白狐と人間の感覚は違うと思って気にしないことにした。


 俺は心菜と一緒に部屋に飾ってあったフィギュアの置いてあった台の場所へと向かう。

 しかし、そこにあったのは品切れになりましたという張り紙だった。

 「あれ……?この箱何も入ってませんね?」

 心菜は、品切れになったクレーンゲームの中身を背伸びして覗いている。


 「この張り紙、つまりこの箱の中身はもう無いってことですか?」

 心菜は少し涙目で俺の方を向いてくる。

 「落ち着けって、別の似たようなやつを探そう。な?」

 そういうと心菜は少し落ち着いたようで、一人で先に進み始めたので俺は少し離れた場所から追いかける。

 心菜はそれぞれの台をじっと見てはまた次の台を見るということを繰り返していき、とある台の前で止まった。


 「ん?これは動物のぬいぐるみの台だけど……。」

 そう言った後で俺は心菜の目線の向いている方向を見て、すぐにどういうことか分かった。

 「これが桃伽様と重なって見えたんだな。」

 心菜が向いている方向にあったのは狐の形をしたぬいぐるみなのだが、見た目がものすごく桃伽にそっくりなのだ。

 「そうなんですよ!これやってみますね!」

 そう言って心菜は機械に1000円札を入れようとする。


 「ちょ、ちょっと待て!そのお札のままじゃできないぞ?コインに両替しないと!」

 俺は心菜を両替機の前に連れて行き、両替をさせる。

 心菜は出てくる沢山のコインに目を輝かせながらまた台の前へと戻り、コインを入れる。

 心菜は俺に操作を教わりながら何回も狐のぬいぐるみを取ろうと奮闘していた。

 しかし、そもそも取りにくくされている台なのもあり、心菜は結局最初の1000円で取ることはできなかったようでもう一度両替機の方へと向かって行き、また台の前でぬいぐるみと格闘をし始めた。


 そして、何度も挑戦をした心菜の残りのお金は100円玉たったの一枚になっていた。

 俺は一瞬心菜の下を離れてからまた同じところへ戻ると、台の前でショックを受けている心菜の姿が目に入った。

 台の方へ目をやると商品出口のすぐ横にぬいぐるみは落ちていた。

 俺は心菜の横に行き、コイン投入口に100円を入れる。


 「哲也さん、何を……?」

 「このぬいぐるみをお前の代わりに取ってやるだけだ。それ以外のなんでもないぞ。」

 商品出口のすぐ横とはいえども、クレーンの掴む力が思ったよりも弱かったので100円一枚で取ることはできなかった。

 俺はすぐにさっき崩した1000円のうち一枚をコイン投入口へと入れる。

 結局800円ほど使ってなんとか心菜の狙いであった狐のぬいぐるみをゲットすることができた。


 「なんで私が狙ってた物だったのにわざわざお金を崩してまで取ってくれたんですか?」

 心菜は帰りがけに、俺が渡した狐のぬいぐるみを抱きしめながら聞いてきた。

 「そりゃあ、心菜に喜んで欲しかったからだよ。あと1週間しか人間としていられないんだし、俺としてはやりたいことをやらせてあげたいんだ。」

 これは俺が心の底からしてあげたいと思っていることだ。

 「そんな……ありがとうございます。嬉しいです。」

 心菜は俺に頭を下げてお礼をしてきた。

 「そんな頭まで下げなくてもいいんだよ……。帰ったらお礼の仕方とかも教えないとだな。」

 俺は本気でそう思って心菜に行ったのだが、心菜は変だという自覚がないようだった。

 「お礼はもう今できてるじゃないですか!ちょっと、なんでそんなに笑ってるんですか!?」

 心菜が桃伽にしっかりと学習できたというのを見せに行くまであと6日。

 心菜にはもう少し色々と人との交流の仕方について教える必要があるようだ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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