魔剣召喚 エマ


 天空に轟く爆炎と爆雷、黒き雨が荒れ狂い吹きすさぶ。理が壊れ、世界をどうしょうもない怨讐が埋め尽くそうとしていた。

 瞬間、陰惨足る輝きを放つ魔の剣士が、瞬きすら許さず刹那の間隙を縫い、その災刃を穿った。


 ドスッ!



 俺の胸に深くめり込み、血潮と共に背に突き抜けた魔剣。切っ先からは血が滴り、焦がれる熱さが血脈を断ち切り、全身が黒闇の死に覆われそうになる。


「……おかえり、エマ」


 俺は禍々しき魔に堕ちた彼女を抱きしめた。


 魔剣召喚。


 皆を守るために禁忌に触れ、邪悪を滅した彼女。


 その対価に魔剣と同化し、もはや人で無くなった彼女。





「何かあればわたしを殺して」


 君が俺に真っ直ぐな瞳で言った。


 君が揺るぎない心でそう言った。


 俺が召喚する前に自らを犠牲にし、魔剣を携えた君はそう言った。


「……」


 俺は拳を握り締めたまま何も言えなかった。






 身に深く食い込んだ魔の災厄が動き出す前に、俺は叫んだ。


「魔剣葬送!」


 俺の身体を依り代に全てを無に帰す。


 死には死を。


 もう帰らない彼女の心を穏やかにする為に、


 彼女をただ殺すのではなく、俺も共に逝こう。


 歯ぎしりし、累加してゆく万感足る想いが去来する。




 子供の頃から一緒に過ごした君。


「役に立つって、それが居場所になるのかな」


「自分が世界の脇役だって知ってるよ」


「笑顔でいたらみんなも笑顔になれる気がするの」


「優しさは出し惜しみしないほうがいいよね」


「泣いちゃうのは、これから頑張るから泣いちゃうのです」


 悩んでいても、笑っていても、泣いていても、


 強い決意と、優しき意志を曲げなかった君。 


 俺はそんな笑顔に救われていた。





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