第39話 俺ではダメなのか?
「カレナ!」
ドアが開く音と同時にアランの声が聞こえた。痛みによる幻聴かな。彼に出会う前ならたぶん師匠やサリーのはずなんだけど、なんでだろう。
今は彼の声が幻聴として聞こえるくらい心の奥底で求めていたのかな。
いつまで経っても魔獣からの攻撃は当たらず、代わりに魔獣の悲鳴と近づく足音。それは私の傍で止まると今度は知っている手の温もりが肩に触れた。
貴族たちの中で不安だった私を安心させる大きくて温かな手はアラン以外知らない。
期待を持ちながらそっと目を開けると彼が見下ろしていた。胸に熱いものが込み上げてきて目頭が熱くなる。涙を堪えながら私はなんとか声を絞り出した。
「アラン様、なんでここに?」
「嫁を一人で残すわけにはいかないだろう。……こんなことならあの時無理やりにでも馬に乗せるんだった」
悔しそうな、泣きそうな声でこぼしたアランに私は胸の奥が痛んだ。魔石目当てに一人で突っ込んで彼に泣きそうな顔をさせている。
「ごめんなさい」
返事の代わりにアランは私を強く抱きしめた。今はそれどころじゃないのに私はそれがなぜか泣きそうになるくらい嬉しくて彼の背に腕を回した。
床を強く打つ音が聞こえてすぐに私はアランから身体を離す。そうだ、今はヘイエイを倒さなければ。ヘイエイが放った魔獣三体はアランが倒したみたいでヘイエイの魔力はほとんど残っていないのか、魔獣を出す気配はない。
低く唸り、尾を床に強く打ちつけている。時折額の人工魔石を前脚で
でもどうやって? 残弾数は三。団長が剣で付けた傷を狙うには三発では足りない。銃弾の代わりになる魔力があれば別だけど。
「ア、アラン様! まずはヘイエイ……魔石獣の幼体を止めましょう」
「逃げる、ではなく止めるか。君らしいな。だがどうやって?」
「移動しながら話します」
ヘイエイが前傾姿勢を取ったのを見て私は体当たりがくると予想してアランと共にそれを避けた。
ヘイエイが壁に身体いや、額を打ちつけてよろめいている間に私はヘイエイの額に付いている人工魔石を破壊することが一番の解決策ではないかと話した。
「ただ、残りの弾は三発分しか残っていないんです。剣は団長がさきほど斬りつけて僅かに傷がついただけです。魔力があればアフェレーシスの応用を使って銃弾から魔力弾に変えられそうなんですけど……」
「それは俺ではダメなのか?」
「それ、と言うと?」
「アフェレーシスの方だ。魔力なら俺のを使えないのか? 幸い魔石獣の幼体は魔力を吸収できる状態じゃないみたいだし、あっちに魔力を奪われる心配はない」
「はい!? え、いや、あの……」
アランの申し出に戸惑いを隠しきれず口ごもる。うっかり口走ってアフェレーシスの応用でとか言ってしまったけれど、治療以外で魔力を吸収するのは昔の荒れていた時期に手あたり次第にやっていたことで、今やれと言われても出来るわけではない。
理性的な意味で。
「急を要するんだろう? 出来ない理由でもあるのか?」
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