第19話 素でいる方がいい

「そうか。よかった」


 安堵した表情を見せる彼になぜか私もつられて安堵する。


「それにアリスが色々と教えてくれましたから。聞けば聞くほど印象は変わっていきました」


「アリスが」


 穏やかな声音に兄妹は本当に仲が良いのだと分かる。一人っ子の私には少し羨ましい。


「あの子を変えたのは君たちだよ」


 疑問符を浮かべる私にアランは歩きながら話し始めた。アリスが出会った時に語ってくれた自分の力のことを思い出す。


 自信が持てず次第に暗く、心を閉ざしていたアリスはしばらくアランとも最低限しか口をきかなかったらしい。


 それが、私たちと出会って自信をつけたアリスは本来の明るい性格を取り戻してアランとも昔のように接することができたんだと語る彼の声音は穏やかだ。


「改めて礼を言う。妹を救ってくれてありがとう」


「いえ、元はアリスの治療ついでに得られる魔石目当てだったのでこうお礼を言われるとむずがゆいと言いますか、居心地が悪いんですけど」


「だけど君たちはアリスと友達になってくれた。それは打算ではないだろう」


「それはそうですね。純粋にアリスとは友達になりたいと思いました。いや、めっちゃ美少女じゃないですか。目の保養ですよ!」


 ポカンとしている彼に私は今し方口走ってしまった余計なことを思い出して慌てて口を紡いでみたが、手遅れだ。


 侯爵家だからと丁寧な口調を心掛けていたはずなのに素で話してしまった。


 冷汗が流れる。今からでも丁寧な口調に戻すべきか。頬を引きつらせながら相手の反応を待つ私にアランはふっと笑う。


「君の素がそっちなのだろう。俺の前では無理はしなくていい」


「あ、ありがとうございます。ではお言葉に甘えて。というか、アラン様も一人称変わってますね。そちらが素ですか?」


「あ、ああ。コホン。気付かなかった。何故だろうな、君と話していると素を見せられる」


「ふ、あはは。ごめんなさい。アラン様が急に身近に感じてしまって。私は素でいる方が好きですよ」


「そ、そうか。……コホン、もう遅い。散歩は終わりにしてそろそろ戻ろう。あまり遅いとアリスたちが呼びに来そうだ」


 アランに再び手を引かれて私は屋敷へと戻った。


 たった数分だけれど、彼の印象はだいぶ変わった。今度は工房で魔石語りをする私に付き合ってくれたら、なんて。


「今度、仕事が落ち着いたら君の工房を訪れてもいいだろうか?」


「え?」


「ダメか?」


「いえいえいえ、そんなことは! 今度ぜひ来てください!」


 びっくりした。工房に遊びに来てくれたらと思っていた矢先に彼の方から提案してくれるとは思わなかったから間の抜けた声を上げてしまった。


 恥ずかしいやら、魔石に関して興味を示してくれたことが嬉しいのか分からない。


 けれど、今日何度目かの鼓動の高鳴りと頬の熱を感じながら彼の隣を歩いた。

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