第17話 工房に行こうとしたら遭遇した
採寸、夕食、入浴を終えた後アリスとサリー二人と少し雑談をして用意された自室のカウチに腰かけた途端一気に疲れが襲ってきた。
屋敷の広さ、慣れない生活環境、マナーの数々。緊張の糸が一気に切れて脱力中だ。今日一日魔石に触れていない。
「魔石に触れてない!」
正確に言えば工房の魔石に触れていない。
透明なガラス
「……」
扉を開けてすぐ私は固まった。
視線の先にはアランが自室の扉を開けようとした状態で私と同じように固まっている。
白のシャツに灰色のベスト、金色の装飾が施されたジャケットを羽織り、腰には剣が下げられている。
朝会ったときにアリスが仕事に行くと言っていたから今帰宅したばかりなのだろう。まさか出くわすとは思っていなかった。
思えば彼とは部屋が隣同士。時間帯によっては偶然出くわすのも不思議ではない。今の私は部屋から抜け出そうとしているようにしか見えないだろう。
さて、なんて言い訳しよう。脳内で言い訳を考えていると相手が先に口を開いた。
「こんな時間にどこに行くつもりだ?」
「あ、えーっと。外の空気を吸いたくて」
我ながら苦しい。女性が遅い時間に外の空気を一人で吸いに行くというのは無理があったか。視線を逸らしながらも扉を閉める勇気はない私は相手の言葉を待った。
「こんな時間に?」
眉を寄せるアランに私は頬を引きつらせながら言い訳が思いつかず扉を閉めようと一歩下がる。
「なら付き合おう。一人で外を出歩かせるわけにはいかない」
「はい!? いやいやいや! 今帰宅したばかりでお疲れでしょう。付き合わせるわけにはいきません」
工房に行こうとしていたなんて今さら言えなくなる。
遅い時間に、外出から帰ってきて疲れているだろうに付き合おうとしてくれるアランの優しさに嘘をついてしまった罪悪感が遅れて襲ってきた。
今さら工房に行こうとしてましたなんて言えない。冷酷と噂の彼。素っ気ない態度の彼。けれど、アリスや両親のフォローで印象が異なる彼。
そして今、目の前で外出に付き合おうと言って疲れているはずなのに手を差し出してくれる彼。印象が上塗りされていく。
「どうした。行かないのか?」
断れるはずがない。
「よ、よろしくお願いします」
差し出された手に自分の手を重ねれば、男性だと自覚させられるごつごつした私よりも大きな手。そのまま引き寄せられて廊下を歩く。
使用人たちもアランと共に歩いていれば微笑ましい視線を向けてくる。
「おや、お出かけですか?」
「少し外の空気を吸ってくる。すぐに戻る」
「かしこまりました」
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