第15話 そっちが表向きなんだ!?

 使用人に呼ばれて応接間にサリーと共に向かうとすでにジェームス様とケイティ様、アリスがいた。


 応接間は鮮やかな絨毯が敷かれ、暖炉、三人掛けのソファにパーソナルチェアが組み合わせて設置しており、カクテルテーブルやランプテーブルが置かれていた。


 テーブルには焼き菓子が並べており、ティーカップが並べてある。


 私たちが入ったタイミングでカップに紅茶が注がれていく。


「いらっしゃい。さあ、座って」


 テンションの高いアリスに促されて私たちはソファに腰かけた。正面にジェームス夫妻とアリス。私の隣にサリーが座る。


 さすがに侯爵家の当主と話したことはない。何を話せばいいのか分からず、かといって勝手に紅茶を飲む勇気もない。


 スカートの上で握りこぶしを作った手に力が入る。


「お茶、どうぞ。エリナーの淹れる紅茶はすごく美味しいのよ」


 アリスに褒められて少し照れたような表情を見せるエリナーは私たちとあまり年齢は変わらないように見える。


 勧められて紅茶に口を付けると思ったよりも喉は渇いていたようで紅茶で喉が潤っていく。


「美味しい」


「ね。すごく美味しいの。二人にも味わってもらえて嬉しいわ」


 笑顔を見せるアリスを両親が温かな眼差しで見ている。


「君たち二人には感謝している。アリスと出会ってくれて、救い、友達になってくれたこと改めて礼を言う。この子は君たちと出会う前は心を閉ざし、いつしか笑顔が消えてしまっていた。恥ずかしい話だが、忙しさのあまりこの子の不調にも、その原因にも気付けなかった」


「心を閉ざしていたこの子にどう接していいか分からなくて。親失格ね」


「そんなこと!」


「アランだけはこの子のことをずっと気にかけていたんだ」


 身内には優しいタイプなのだろうか。少しずつアランに関する情報が蓄積されていく。


「もう! 私の話はいいから本題に入ってください!」


「そうだったね。カレナ、突然の我が息子アランとの婚約話に驚いただろう」


「はい。理由はアリスから伺いましたが貴族でもない、ましてや魔力持ちウェネーフィカでもない私と侯爵家のアラン様が婚約とは今でも信じられません」


「はははっ、ルーシー殿の言った通りだな。君とアランとの婚約話は嘘ではない。さらに言えば、政略的なものと聞いているだろうがそっちが表向きなんだ」


「あら、あなたそれは伝えてもいいのかしら? 知ったらアランが怒るのではなくて?」


「知らないというのもフェアではないだろう。知った上で彼女には今度を決めてほしい」


「あの、先ほどから話が見えないのですが。政略結婚ではないのでしょうか」


 ジェームス様たちの話に困惑する。政略結婚が表向きとはどういうことだろう。


 ジェームス様が言うにはアリスが明るさを取り戻してすぐ私たちのことをウォード家は調べたらしい。


 調べているうちにアンスロポス側の軍人たちが学園に出入りして魔石を軍事利用する動きが活発化していることを知った。


 私がルーシーと師弟関係にあることも調べて接触し、軍事利用への危惧を説明すると師匠から私をロズイドルフ領で囲った方が安全だと言われたらしく、その方法としてウォード家の嫡男であるアランと婚約させることにした。


 けれど一つ問題があった。


 それはアランにはすでにいくつもの令嬢たちからの婚約話が持ち上がっていたが、すべて断っていたことだ。


 ジェームス様たちはアランが女性嫌いなのかと悩んだが、婚約話を持ち掛けてみた。

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