第10話 魔石の効力

 魔力持ちウェネーフィカは定期的に魔力を使って循環を良くしなければ魔力の滞りが起こり魔力暴走を起こす。


 アリスは自信のなさから自分で魔力を抑えつけ、使用してこなかった。


 それもあの滞り具合を見るに長い期間使っていない。


 魔力持ちウェネーフィカにたまにいるのだが、自分の持つ魔力属性を理解しておらず使うことをためらってしまう。


 自分の魔力について知り、正しく使うようになるためにこの学園へ入学する者も少なくない。アリスは学んでいる最中だったのだろう。


「つまり、自分の魔力に自信が持てなかったから今まで使わなかった、と」


「はい。お恥ずかしい話ですが、幼いころから魔力を使って何かをするなんて出来なくて。ウォード家の恥だと陰口が聞こえてくることもありました。実際何も出来なくて」


「使い方の問題でしょ。あとは自分の魔力の特性を知らなかった。今から教えるから自信持って。何度でも言うよ、貴女の魔力から作られた魔石は最高だから自信持って」


 俯きかけたアリスが顔を上げる。


 涙が滲んでいた影響もあって瞳がキラキラと輝いて見える。


 希望を見出したような、期待に膨らむ瞳を向けられた私は咳払いを一つした。


「レモンイエロー色の魔力は光属性でね、光属性の中でも再生と復活を司るのがこの色なんだよね。アリスが使えなかったんじゃなくて使う機会に恵まれなかっただけじゃない? 戦闘で怪我を負うとかしないと再生なんてなかなかないだろうし」


「そっか。魔力持ち《ウェネーフィカ》しかも、ウォード家の令嬢だったら戦闘とは無縁そうだし、誰かが大怪我を負う場面に出くわす機会なさそうだしね」


「たしかに。でも、特性を聞いても私には使い方が」


「それはこれから学園で学んで。私たちは普通の人間アンスロポスだから体内に流れる魔力の使い方までは分からない」


 見て分かるくらいアリスが落ち込んだ。


 彼女の潜在能力は高いのだから、使い方を学び、魔力の制御を自分の物にすればかなり上位の魔力使いになるのは間違いない。


 さすが侯爵家の令嬢。


 でも、まずは本人に自信をつけさせるのが先か。


 私は手にしていた魔石をアリスへ見せた。


「再生を司るのか分からなくて自信がないのなら今から見せるからよく見てて」


「よく見ててって、あんた何する気?」


 私は近くにあったナイフを手にした。


 察しのいい学友の制止を無視して私はためらいもなくナイフで自分の指を軽く切ると鮮血が弧を描いて宙を舞った。


 青ざめる二人を制して私は手にしていた魔石の力を発動させた。


 淡く輝く石はすぐに私の傷を癒す。ナイフで切れたはずの指は何事もなかったように修復された。


「ほらね。やっぱり再生を司る魔力でしょ」

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