羽化④───数日間

 それから数日。姉と灯奈とローテーションでセミを探したが、だいたい食われているか、見つからないかだった。

 虫の死骸をたくさん目にした。七日の生命を終えたセミや、電灯に挑み続けて破れ去った羽虫が、公園にはたくさん落ちていた。

 食われている様子は耐えがたいものだった。

 真新しい死骸は自分で粉々にすりつぶした。だが、その残骸は結局アリなどが処分すると考えると、上手くはない。

 

 自分は優しくないのかな、と思った。

 悩みを姉に相談したら、「虹人は、本当に優しいよ」「大丈夫」と、笑いかけられた。

 灯奈の方には相談しようがなかったが、自分が死んだ虫を手に取って潰している様子を見ても、ニコニコ笑っているままだった。

 ときおり、


「君は、私と同じだよ」


 と言ってくる。そのたびに笑顔だった。

 その言葉の意図はよくわからなかったが、安心できるものだった。

 灯奈の笑顔は、とても神秘的だった。

 何に笑っているのだろう、と虹人は考える。

 虫の死骸が荒らされていると急にキレるガキなんて、バカだからなのかな。

 

 悩んだまま、セミの幼虫探しは続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る