第一話 異世界は嫌いだ

 「あー、泣きそ……」

 あまりの絶望具合に意味もなく一人自己紹介をした俺は、膝を落としてそう言葉を口にした。

 目頭が熱くて本当に泣きそうな気持ちだ、というか周囲に人がいなければ普通に号泣してたね。それほどまでに今、自身の身に起きた出来事は最悪な事であった。

 アぁああ、最悪最悪、マジで、あー、クソッ……

 溢れるほどの悪態が零れ一通り叫んだところで頭は、一気に冷静になる。激情に揺れる心を冷却される、即座に思考が切り替わる。

 はぁ……――切り替えるか。

 絶望顔から一転、スッといつものポーカフェイス気味な表情をする。

 これ以上無駄に絶望しても意味はない。ここまでに至る大半の努力は無駄になってしまったかもしれないが、なってしまった以上は仕方ないことだ。また一から詰み直しだが、そこへ至るまでの経験が無意味になったわけじゃない、前向きに行こう。

 こういう時こそ冷静に……現状からの立て直しに尽力しよう。

 「はぁ、運が悪いのはいつものことか……全く厄介な人生だよ」

 今までの努力が無意味になったという前提を切り捨て、思考を現状の解析に切り替えた。

 周囲を見渡すと俺と同じ服を着た人間……同じ高校のクラスメートがいた。どうやらこの召喚は俺一人を呼び出すものではなく、集団召喚のようだ。確かに召喚された際、大きな陣が教室全体に展開されていた気がする。

 いやぁ~、これで俺一人だけだったら、あのクソ女神のミスを疑うところだったよ。

 一瞬、女神の手違いで転生先を間違えて今、軌道修正をしたのかとも思ったが、そうであれば周囲の人間まで召喚させる意味はないため、その線はなさそうだ……多分。

 一安心したところで俺は、クラスメイトたちより少し離れたところにいる人間達に目を向けた。

 そこにいたのは明らかに現代の服装ではない、古風な服装をした者がいた。中世ヨーロッパの貴族を思わせる服の奴、甲冑を身に纏った見てわかる騎士。周囲にはそういった服装の人間が多くいる。

 なるほど……今回は二番目と同系統の世界ってわけか。

 目視情報+テンプレ的にも、ここはよくある異世界モノの世界観であると予想がつく。

 周囲の人間の格好からして、そういう雰囲気はあるよな……はぁ、世界観変わり過ぎじゃね? 現代日本の風景から中世ヨーロッパ風に変わるなよ。頭バグるバグる。 

 あまりにも大きく変化した目の前の風景に動揺を隠せない。そのせいで思わず、夢を見てるんじゃないか? なんて都合のいい妄想を考えてしまった。

 はぁ、なわけねぇよな。召喚された瞬間、憶えてるし。

 現状把握を終えた俺は次に召喚される少し前のことを思い出した。

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