第16話「寝ぼけた従妹の甘え」

「美麗、着いたぞ?」


 バスが目的に着いたため、俺は腕に抱き着いて寝ている美麗を起こす。


「んっ……あと、ごふん……」


 美麗はふて寝をしただけで、それほど寝られる時間はなかった。

 そのため、美麗の寝起きが悪くなっている。


「いや、もう着いたから。ほら、起きて」

「やだぁ……」


 美麗は俺の腕に顔を押し付けながら、イヤイヤと首を左右に振る。

 かわいいのだけど、みんなの目が痛い。

 特に男子たちが、凄く嫉妬してきていた。


「あはは、本当に仲がいいんだね?」

「笑い事じゃないんだが……」


 楽しそうに見てくる村雲に対し、俺は溜息を吐く。


「いいじゃないか、彼氏の特権だろ?」

「嫉妬されることを喜ぶ人間は、そうはいないだろ」


 そう村雲に返しながら、俺は美麗の体を揺する。

 一分ほど揺らすと、美麗も諦めて目を開けた。


「ねむたい……」

「あまり寝る時間がないのに、寝るからだよ」

「翔が、いじわるするからだもん……」


 どうやら、一度寝ても機嫌は直らなかったらしい。

 まだ大富豪のことを根に持っているようだ。


「悪かったって」


 俺は頭を撫でて美麗をあやす。

 それによって更に周りの目がきつくなるが、今は美麗の機嫌を直すのが優先なため、仕方がない。


「いちゃいちゃしてる……」


 なんだか、花巻さんが両手を顔に当てながら、指の隙間から俺たちを見ていた。

 顔が赤くなっており、興味津々な様子だ。


「翔君って思ってたけど、ガードが堅いだけで、ガードをくぐった子に対しては凄く甘いよね?」

「どういう意味だ?」

「普段は冷たいくせに、お気に入りの子には凄く優しいってこと」


 言うほど冷たいだろうか?

 まぁ性格が悪いことは自覚しているが。

 あと、美麗はお気に入りじゃなくて、従妹なんだけど――さすがに、周りに生徒たちがいる状況では訂正できない。

 何より、村雲に話すと変な興味を持たれそうで困る。


「さて、そろそろ降りるか」


 後ろから順番に生徒が降りていき、ほとんどの生徒が降りたので、俺は美麗から手をどける。

 それによって美麗が不満そうに頬を膨らませたが、さすがにこのまま撫でて、整列に遅れるわけにはいかない。

 他人に迷惑をなるべくかけない、というのが俺の考えだ。


「ねぇ、翔君」


 バスから降りようとしていると、何やら村雲が声をかけてきた。


「どうした?」

「ふと気になったというか、もともと気にしていたというか――有栖川嬢と、いったいどんな接点があったんだい?」


 おそらく、俺や美麗、そして花巻さんと村雲以外の生徒が先に降りたからだろう。

 村雲はまるで、このタイミングを待っていたとでも言わんばかりに、嫌な質問をしてきた。


「村雲には関係ないだろ?」


 俺は下手に答えない。

 理由作りや、出会った時の話を作れないわけではないが、下手に作って情報を与えようものなら、逆に村雲は答えにいきついてしまう。

 もともと俺と美麗が恋人ではないと確信しているだろうし、これ以上探らさせてやる気はないのだ。


「連れないな、僕と君の仲じゃないか」

「言うほど、親しいと思ってないけどな?」


 ただよく話すってくらいで。

 それも、村雲が絡んでくるからだし。


「あはは、君くらいだよ。僕をこんなに雑に扱うのは」

「なんで嬉しそうなんだよ……?」


 楽しそうに笑う村雲を見て、俺は若干引く。

 美少女だから許されているところがあるが、正直こんな男子がいたら俺は仲良くする自信はない。


「あっ、あの、二人とも、降りないと……!」


 俺と村雲の雰囲気を険悪なものだと思ったのか、花巻さんが慌てながら促してきた。

 別に喧嘩をしていたわけではないが、アワアワとしている花巻さんを見ると、申し訳なくなってくる。


「そうだね、ありがとう。花巻さん、先に降りてくれていいから」


 俺は前を譲り、花巻さんに降りるよう促す。


「えっと、ありがとう……」


 花巻さんは落ち着かない様子で、そのまま前を歩きだす。


「ほら、村雲も」

「ふふ、ありがとう」


 村雲も先に降りていき、バス内には俺と美麗だけになった。


「美麗、もう降りるけど目は覚めたか?」

「ねむたい……」


 どうやら、今のやりとりの間も美麗は意識がはっきりとしなかったようだ。

 眠たそうに目をこすっている。


「ほら、そろそろシャキッとする」


 俺は美麗の両頬を軽く叩きながら、一緒にバスを降りるのだった。



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【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます(#^^#)


面白い、キャラがかわいいと思って頂けましたら、

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これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪

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