第8話 眠気の覚まし方

「ねっっっっっっむ」

「言うな安保、余計に眠くな…ふあぁ…」

「澤山さんだって欠伸してるじゃ…ふぁ~…っ、ごほっ!げほっ!ほ、ほこりが、ぅえほっ!くちに!!」


 昼下がり、馬路を除く3人は、眠気に抗いながらもポチポチと作業を続けていた。

 

 欠伸をかみしめ、コーヒーを飲み、パソコンを睨み続けていたが、どうも限界が来たらしい澤山が、ぐっと腕を伸ばす。


「っあ゛~~、ダメだ、ねみぃ…なんか眠気覚ます方法ないもんかねぇ」

「澤山サンのお気に入りのレッド〇ルはダメなんスか、翼授かっちゃいましょーよ」

「あー、最近飲みすぎてるからエナドリ系は無し。ゴミ袋がレッ〇ブルの空き缶だけで一杯になってるのを見て、正気に返った」

「やば、ウケますね」

「安保さん、ウケちゃだめですよ…」


 グダグダと話しているうちに、3人のタイピング音が途切れ途切れになっていく。

 そしてとうとう完全に集中力が切れ、

「「「うーーーーん」」」

 3人は、一旦眠気覚ましの方法について考えることにした。


「一番手、安保が提案しまーす。眠気覚ましにはやっぱ大きな音ですよね。ちょっと近所の楽器屋でシンバル買って」

「却下」

「澤山サンのポケットマネーで購入を」

「余計に却下だバカ!!」


 安保の発案に速攻でNGを突き付けた澤山は、ため息をつきながら手の甲を見せる。

「金かけなくても、やりようはあるだろ。眠気覚ましのツボを押すとか…ほら、例えば、手の甲の親指と人差し指の付け根の間にある、「合谷ごうこく」ってツボ、こことかそうだったはずだぞ」

「へぇー、澤山サン物知りー」

「いてて、確かに痛くてちょっと目が覚める気がします!」

 だろ?と、澤山は少し得意げな顔をする。


 だがしかし、せっかくの眠気覚ましのツボも、3人がスッキリと仕事に戻るにはあと一歩足りなかった。

 

 何か良い手はないかと再度考え込んでいると、

「あっ! いいこと思いつきました!」

 と、土師が言い、何故か安保と澤山を椅子に座らせた。


「なになに、どーしたの土師くん?」

「ちょっと待て土師、やらかすなら先に言ってくれ?」

「やらかしませんよ! 昔肩こりがつらい時に、母が腕をこう、斜め上にゆっくり引っ張ってくれて…ストレッチみたいで気持ちよかったんです! もしかしたら、血流がよくなって眠気も覚めるかもですよ! やってみましょうよ!」

 そう言い、二人の間に立った土師が、安保の右手と澤山の左手を持ち、ぐーっと斜めに持ち上げた。


「うおおお…確かに自分でやるより伸びてる感じが…」

「あ゛ー、これいいな……いてて、ちょっと高く上げすぎだ土師、おっさんにその角度はキツイ」

「す、すいません澤山さん、いま調整を――あっ」

 慌てて腕の位置を下げようとした土師は、慌てすぎて自身の足を滑らせ、


「「あっ」」




「――お疲れ様です。ただいま戻りまし…た?」

 事務所に戻った馬路が目にしたのは、


「いでででででで!!離せ土師いいぃぃぃ!!」

「えーーん!!すいません澤山さんこれどうやって解いたらいいんですか!!?」

「とりあえず腕から力を抜けえええええ!!」」

 澤山に腕挫十字固うでひしぎじゅうじがためを決めている土師と、


「……目は覚めました」

 ひっくり返って目をぱちくりさせている安保の姿だった。



「えっ、私のいない間に何が起きたんですか…?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る