部外者の暇潰し
「やることがないな……。」
脚をデスクの上にのせて退屈そうにしているのは小鳥遊であった。
彼女の配下達は黙々と作業をしている。
「向こうは何をしているんだか……。」
彼女の脳裏には、現在北海道にいる坂田の顔が浮かび上がる。
それを振り払うかのように舌打ちをして首を振る。
「結局本部に残っている奴らの方が少ないな。どうなっているんだか。」
小鳥遊の掠れた声に含まれた憤怒の感情が一室の空気を重くさせる。
配下達も彼女の機嫌を損なわせぬよう、作業を続ける。
「こっちもなんか面白い事が起きてほしいんだが……。ボスの不在中に事件起こしてリスク背負うのもよくないしなぁ……。」。
彼女は苛立ちを誤魔化すように所持していた錠剤をのみ込む。
そんな時だった。
「ん……?」
部屋のドアが叩かれる。
「入れ。」
小鳥遊の入室許可により、扉が開かれる。
入室してきたのは、意外な人物だった。
「小鳥遊さんきたよー!」
「……こっちに来るなんて珍しいな。仕事か?」
太陽のような明るい声を発するのは笑顔を浮かべた桐野であった。
そんな彼女を見て小鳥遊は自然と笑みを浮かべる。
「うーん……まぁ仕事っていったら仕事になるのかな?」
小鳥遊は首を傾げる桐野の背後に見慣れない人物がいることに気づく。
「その後ろにいる奴の件か?」
「そ!さすがは小鳥遊さん。話が早いね。」
お見事といった様子で拍手をした桐野は背後にいた人物の手を握り、続ける。
「じゃーん!これが私の配下である”一番”です!」
「—————一番です。小鳥遊様、よろしくお願いいたします。」
一番はそういって小鳥遊の前で跪く。
そんな彼女を物珍しそうな目で見る小鳥遊。
「へぇ……。ここまで自我がある駒は珍しいな。」
「そうなんですよ。大体の配下はロボットみたいになっちゃうのに、一番は自我がきちんとあるんだよね。」
そういって一番の方を叩く桐野。
「で、今日は配下の紹介をしに来ただけ?まさかそんなことないよね。」
「う……そんなわけないじゃないですか!ねぇ、一番?」
「『暇だから小鳥遊様に構ってもらおうと』こちらに向かっている際に桐野様は話されておりました。」
一番の言葉を聞いた桐野は驚きの表情を浮かべる。
「ちょっ!?なんでばらしちゃうの!?」
「私は真実を言っただけですが、何か問題がありましたでしょうか?」
「あるよ!ありありだよ!」
「それに桐野様は『小鳥遊様は暇人———』と……。」
「ストップストップ!!これ以上はダメ!」
桐野は慌てながら一番の口元を抑える。
しかし時すでに遅し、一番の言葉は小鳥遊の耳に残っていた。
「なるほどね。桐野にとって私は暇を潰すだけの存在ってわけね。」
「小鳥遊さんまで冗談言わないでくださいよ!本当に悪かったですからぁ!!」
桐野は泣きつくように小鳥遊に抱き着いた。
小鳥遊はそれを邪魔だというように振り払う。
「はぁ、冗談だよ。実際私も大人しくするように言われていて暇だし。」
「小鳥遊さん……!」
桐野は小鳥遊に希望の眼差しを向ける。
彼女のきらきらとした眼差しに若干顔が引きつる小鳥遊。
話を逸らすように、一番に話しかける。
「で……一番だっけ?桐野の駒として何か思うことはる?」
「そうですね……。」
一番は考える。
そして数分後に出た答えは
「——————私は桐野様を命の恩人だと思っております。不満など一切ございません。」
「ふぅん……。嘘はついていないようだね。」
「一番……!いい事言ってくれるじゃないか!」
先ほどまで小鳥遊に抱き着いていた桐野は一番に代わるように抱き着く。
「桐野様。重たいです。」
「ひどい!?女性に重たいなんて言うなんて……。」
「まぁ、私も女性ですし……。同性同士は別に良いと思っています。」
「それは私も同意だ。」
「小鳥遊さんまで!?」
悲しみの表情を浮かべる桐野を横目に、小鳥遊は一番に向けて一点に見つめる。
それは者定めをするような、鋭い目名指しであった。
しかし、すぐに目を離す。
「うん。特に怪しい点はない。スパイっていうわけでもなさそうだな。」
「まだ一番のことを怪しんでいたんですか?」
「まぁ、こんなにも自我を持つ駒なんて初めて見たし。」
「確かに、よく桐野様には珍しいタイプとは言われます。」
一番の言葉に桐野はうんうんと頷く。
「まぁ、私の命令には忠実に従ってくれていますし、反逆の意思も全く感じられないんですよ。だから私決めたんです。」
「決めたって……何を?」
桐野の次の言葉を察する一番。
発言を止めようとするがそれが間に合うことはなかった。。
「ボスが戻られましたら会わせてみようと思います!」
「桐野様————————。」
まずい。
桐野は気分屋ということもあり、重大なことも軽いノリで提案するが、今回の件は、小鳥遊からすればただの配下がボスに会うということは考えなければいけないことだと感じるだろう。
この時点で小鳥遊さんに拒否されればエンプレスのボスに会うせっかくの機会がなくなってしまう可能性がある。
なるべく誰にも知られずに桐野の独断で連れられた口述が一番的には最も都合が良かった。
「まぁ、いいんじゃない?ボスに新たな発見として報告できるし。」
「ね!面白そうだし!」
一番の考えとは裏腹に、小鳥遊は特に反対する様子もなく、むしろ肯定的な意見と捉えていた。
「じゃあ、決まりだね。」
「貴重な機会をいただき大変幸福に思います。」
桐野以外の幹部に認められたならボスに会える可能性がぐっと高まった。
一番は内心拳を振り上げていた。
————————————————————
「で、何しようか。せっかく桐野さんのアジトに来たんだし何かして遊ぼうよ。」
「人のアジトを遊び場に使うな。」
桐野の言葉に否定的な言葉を放つ小鳥遊だったが、彼女は自然と笑みを浮かべていた。
その時だった。
「うん?電話だ。」
突如小鳥遊の携帯電話から着信が鳴り響く。
携帯電話の画面を見た彼女は浮かない顔を浮かべていた。
「もしもし……。」
ドスのきいた声。
普段掠れている彼女の声と相まって、一気に部屋の雰囲気が悪くなる。
————————————————————
「ああ。わかった。すぐに準備をする。」
5分ほど続いた通話は終わり、小鳥遊は携帯電話を仕舞う。
「誰からの電話だった?」
「平田。」
桐野の問いに間髪無く答える小鳥遊。
「……え?」
意外な人物の名前が出て、思わず声が出る。
「遊びたいところだったが、急用ができた。今から私たちはとある場所に向かう。」
「とある場所とは……?」
桐野と一番は首を傾げる。
そして————————————。
「——————空港だよ。」
掠れた彼女の声は、はっきりとこの場にいる全員の耳に聞こえていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます