第7話 私vs達くん

 そんなわけで、私は達くんと対戦することになった。

 むむむむ……素早さが低いのが、どう影響を及ぼすんだろう……。それに、


 ――ジョブズには教えない。ジョブズへの切り札だから。


 なんてセリフも気になる。初戦は勝利で飾りたいぞ……。

 私と達くんのバトルが始まった。

 私のドラゴンくんと達くんのフクロウが、闘技場の前で向かい合っている。

 さて、第1ターン。

 コマンドを選ぶわけだけど――


・通常攻撃

・防御

・スキル


 スキルに関しては『破滅の爆裂砲』と『絶望の咆哮』の2種類だ。

 爆裂砲はため時間が長いんだよねえ……とりあえず、通常攻撃でもしてみようかな。ドラゴンくんの勇姿をついに見ることができ――


『眠眠夜鳥:眠りの風を発動した! 眠りの風が黒暴竜を襲う!』


 え?

 ああ、フクロウのほうが素早いから先に攻撃したのか。で、あ、ああああああ!?

 ドラゴンくん、眠ってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?

 むっちゃスヤスヤで眠っているぅぅぅぅぅぅ!?

 そのまま、第一ターンは終了した。これで終わりいいいいい!?


「ふふふ、思ったとおりだ。眠りの風はタイヤのウサギみたいに足が速いやつが相手だと微妙だけど、先制攻撃が取れる相手なら強い!」


 第2ターン。


『眠眠夜鳥:風の矢を発動した! 風の衝撃波が黒暴竜を襲う!』


 どがーん!

 無防備なままに私のドラゴンくんは攻撃を食らった。あああ……どど、どうしよう! ドラゴンくんは目覚めたけど、これでターンエンド。

 ええと、これ……ひょっとして、次も眠りの風をくらって睡眠状態になって殴られて……そのまま体力ゼロまで削られちゃうの?

 真っ青になっている私と同じく、達くんも真っ青になっていた。


「ええええ、そんなああああ、うそおおおおお!」


 え、どうしたの?


「ジョブズの体力、あんまり減ってない!?」


「え?」


 あ、本当だ。1割も減ってないかな。凛ちゃんのときとはダメージ量が違う。確か、凛ちゃんのウサギは吹っ飛んでいたけど、ドラゴンくん、なんかした? みたいな感じで体を起こしていたし……。

 体力がすごくあるからね。その辺の違いはあるのかな……あははははは。


「だけど、ずっと眠らせ続ければ勝てる!」


 それはそうですけど!?

 そんなわけで、達くんの攻撃は再び『眠りの風』で、私はヤケクソになって『防御』を選んでみた。


 何かが変わるか――

 寝たあああああああ!


 見事に眠るだけでした。あーあ……。その次のターン、達くんの攻撃を受けてドラゴンくんが目を覚ます全く同じ展開。

 ううううん……これはダメだなあ……。


「よしよし、このまま押し切れば勝てる!」


 どうにかならないかなあ、と祈りつつ、私は通常攻撃をセットする。

 お願い!


『眠眠夜鳥:眠りの風を発動した! 眠りの風が黒暴竜を襲う! 黒暴竜は回避した!』


 え?

 よっこらせ、という感じの動きでドラゴンくんがキラキラと輝く青い風をかわす。


『黒暴竜:通常攻撃で襲いかかる!』


 ぶぅんと振るった太い尻尾がフクロウの脇腹を打ち、フクロウくんは大きく吹っ飛ぶ。

 ガツっと、体力が3割くらい減った。


「えええええええええええ!?」


 頭を抱えている達くん、そして、凛ちゃんは腹を抱えて笑っている。


「強ぇぇぇぇぇぇぇ! 達のやつが2発分を1発でひっくり返しやがった!」


 う、ううん……ステータスの力がすごいからねえ……。

 よしよし……悪くはないぞ。眠りの風と言っても100%当たるわけじゃあないんだ。だったら、こちらにも勝ち目はある!

 6ターン目――


『眠眠夜鳥:眠りの風を発動した! 眠りの風が黒暴竜を襲う!』


 ドラゴンくんはスヤスヤ〜とお眠りになった。

 ああああああああ!?

 7ターン目に再び攻撃を食らってHPを削られる。


「当たりを引き続ければ、勝てる……!」


 達くんの目はまだ死んでいない!

 8ターン目、再び達くんは眠りの風を放ってきた。


『眠眠夜鳥:眠りの風を発動した! 眠りの風が黒暴竜を襲う!』


 お願い、かわして――!

 かわせない。

 ドラゴンくんの巨体がぐらりと揺れて、でも、倒れることはなかった。

 どうして!?


『黒暴竜は眠りの風に抵抗した!』


「……!? 無効化された!? ひょっとして耐性ができてしまうのか!?」


「そういうのがあるんだ!?」


 何度も喰らっちゃったからねえ……。

 こっちにとっては助かる話だ! 

 すかさず、ドラゴンくんの反撃が始まった。


『黒暴竜:絶望の咆哮を発動した! 魂すらも凍てつかせる恐怖が胸にのしかかる!』


 ギィヨエエエエエエエエエエエ!

 みたいな変な声を発している。

 フクロウはそれを受けて、目をクルクルと回して、フラフラしている。


「げ、こっちが動けなくなった!?」


 9ターン目。今度はこっちのチャンス! 通常攻撃を選択して――


「りんご! せっかくだから、破壊ビーム打ってくれよ!」


 凛ちゃんがそんなことを言った。

 それって『破滅の爆裂砲』のことだよね? 溜めがいるのが気になるけど……でも、逆に言うと、相手が動けない今がチャンスでもあり……そして、私も見てみたい!

 ええい、やっちゃえ!


『黒暴竜:破滅の爆裂砲を発動! 口元に全てを滅ぼす力が集まっていく! なんとかして止めるんだ!』


 もちろん、フクロウくんは動けない。

 10ターン目――

『黒暴竜:破滅の爆裂砲をチャージ中!』


 それだけでまだ打てない。

 一方、フクロウがはっと我に帰り、首をプルプルと振っている。


「よし、目を覚ました!」


 これってやばいんじゃないの!?

 11ターン目、先制攻撃は、もちろん、達くんのフクロウ!


『眠眠夜鳥:風の矢を発動した! 風の衝撃波が黒暴竜を襲う!』


 風の衝撃波がドラゴンくんを襲う。

 やばい、これは解除かな……?

 ごん!

 風の一撃でドラゴンくんの体がよろめく。だけど、よろめいただけだった。倒れることはなく、その口元に輝く青黒い輝きも消えていない。


「ええ、マジか!? どうやったら崩せるんだ?」


 一発の威力が弱すぎたのか――

 あるいは総ダメージ量が足りないのか――

 単なる確率の問題なのか――

 何かしら理由はあるのだろうけど、今の段階だと理由はわからない。わかっていることは、私の爆裂砲がチャージできたということ!


『黒暴竜:破滅の爆裂砲のチャージが完了した! 全てを滅ぼす力が今こそ解き放たれる!』


「いっけえええええええ!」


 ちなみに、叫んだのは私じゃなくて凛ちゃん。大興奮でノリノリだねえ……。

 ドラゴンくんが口を大きく開けて、破壊エネルギーを吐き出す。それは一直線に、まさにアニメで見るビーム攻撃のような感じでフクロウに直撃した。

 7割くらい残っていた体力が――

 ああ!? 一瞬でゼロになった!?


「耐えられないかあああ……」


 達くんはぐったりとした様子で両肩を落とした。

 すごい威力で吹っ飛ばしてごめんね……対戦だとHP全快で復活できるみたいだから、許してね?


『勝者、ジョブズ! おめでとう!』


 勝っちゃった……。


「はあ、あんなに強いなんて……タイヤとの戦いのときより絶望した……スーパーレアだよ、さすが」


「うっはー、羨ましいわー。あんなに強いだなんて。いいなあ」


「あはははははははは……」


 なんというか、確かにパワーはすごい……。他の2人がちょこちょこ戦っているのが申し訳なるくらい、一瞬で片をつけるというか……。

 2人に申し訳ないくらい、とんでもない性能だなあ……。

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