1-3.君は権利を行使すればいい
「不服でもあるのか」
「い、いえ」
「力も使えんお前をここまで育ててきた。その恩を返すと思えば気楽だろう」
「……はい」
うつむきながら、ささやいた。
けれど――と疑問に思う。
出来損ないであり、御三家から忌み嫌われている自分を、なぜ高名な
横目で
(当然だわ。わたしを押し付けてしまうのだもの)
「これは
「それに、
「そこで白羽の矢が立ったのが、お前だ。意味はわかるな」
二人の言葉に、
(
あやかしたちは気位が高いという。人を食うもの、
例え
父は、暗に死ねと言っている。
そのことに寂しさも、悲しさも、浮かび上がってはこなかった。
「仰せつかります」
「よろしい。
「……承知した」
おもてを上げた
もしかすれば、思い人がいたのかもしれない。心許した女性が、自分以外に存在するのかもしれない。
(ごめんなさい、
申し訳ないと思う気持ちを胸に秘め、再び
「承認、確かに。あとは二人で決めるべし。これから大切な
「期日になったらとっとと家を出ろ。お前に長く猶予はやらん」
言うが早いか、
「お父さま」
聞こえているかはわからない。だが、
「今まで、ありがとうございました」
返答など当たり前のようになく、ガクアジサイは茶色に変貌した。
あとに残るは妙な緊張感だ。
「……
「ふつつかな身ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「君は」
頭を下げようと思ったとき、ぼそりと
「なんでしょうか?」
「……いや。その、まつろわぬものたちは、そんなに怖くはないと思う」
意外な言葉に、
「そうなのですね。気を遣わせてしまって申し訳ありません、
答えれば、
大きく、がっしりとしている体。宵の入りに似た藍色の瞳。銀色の三つ編みは腰まである。話す声は若干太いも、透明感を漂わせる不思議な音色だ。
「俺は、義務を果たす。君は権利を行使すればいい」
「権利?」
「
はっきりと言われ、
だが、義務と権利。政略結婚の上で互いを繋ぎ止めるのは、確かにその二つしかないだろう。
それでも、出来損ないの自分を尊重してくれる
「ありがとうございます。皆さまにご迷惑をかけるような真似は、しませんから」
「身支度に、どれくらい時間がかかるだろうか」
「荷物はそんなにありませんので。三日ほどいただければ」
「わかった。三日後、
うなずいた
ふすまを開け、外に出た彼が一つ、こぼす。
「……
「えっ?」
思わず聞き返すも、目の前で障子は閉じられた。
残された
「どうして……こがねのことを」
疑問を口にしても、広い客間に自分の声だけが、消えていく。
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