皿の上にあるものは——

ともはっと

車の中で語る

「あんた達、退屈でしょ。おはぎでも食べる?」


 それは私の実家、富山県に帰省する車の中での出来事だった。

 独立国家として名を馳せる富山王国は、今も日本の中枢として世界を牛耳——おっと、これは私の妄想だった、忘れてくれ。


 お盆。

 一週間程度の休みがとれた私は、家族とともに久しぶりの実家への帰省することにし、おおよそ450km超えの高速の旅をしている最中。


 富山王国国民は、関東からは関越自動車道を通って帰省するか、それとも上越自動車道から新潟に入って帰省するか、どちらにしてもとあるトンネルを通っていく必要がある。逆ルート——石川方面から攻めてもいいが、ちょっと遠回りだ。もっといい道があれば教えてほしい今日この頃。


 さて。

 先ほどのトンネルの話に戻ろう。


 今車が走っているのは、関越自動車道であれば山をいたことで有名な関越トンネルがあるが、それとは別である。


 両自動車道の後に控える、北陸自動車道にある、トンネルだ。


 26本の、断続的に続くトンネル。新潟と富山の間にある山を、関越トンネルのようにいて作ったトンネルである。中には2000m超えのトンネルも8本ほどあり、ここまで長いこと走って疲れ切ったドライバーの心を折る長い長いトンネルでもある。


 そんなトンネルを、ちょうど半分過ぎた辺り。

 そこで、妻が助手席から後部座席にいる子供らに声をかけた。

 それが、先の、


  「おはぎ、食べる?」


 である。


 とはいえ、なぜ「おはぎ」なのか、という疑問もあるのだが、どうやら甘いもの好きな妻は、ここに来る道中のサービスエリアでおはぎを見つけ、美味しそうだったから買ったものの、食べるタイミングを見失ったようである。つまりは、子供らを犠牲に、自分もタイミングを見つけて食べようという魂胆であろう。


「あ、そう言えば」


 だが、そんな妻の必死なタイミング探しをあざ笑うように。


「こんな話があるんだが——」



 ——私は、ふと。

 昔、とある友人が体験した、話を思い出した。

 それを少しだけ、話してみようじゃないか。

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