12話本部突撃、②/先祖の話/無知であると言う略奪

息をあげながらも走るデイビッド。

残り50メートル、追って来ていた小隊はついた距離の差に追うのを諦めたようだった。

本部の周りには丸太でできた壁が見え、侵入する間など無いように見える。

「壁のせいでこっちからじゃ侵入できないです!」

デイビッドは団長に叫んだ。

団長はそれの言葉を聞くと、笑みを浮かべながらクレイモアの刀身の腹に触れ興奮気味に口を開く。

「なに、木ならよく燃える、無いなら作れば良さ!。」

___瞬間、炎が舞う。


〜〜〜



ライカード帝国軍ベルグ制圧作戦本部、白髪に髭をはやした壮年の男、作戦本部長のマイク・ルールドは本部テント内で作戦地図を見ていた、そしてテント内へ1人の伝令が入る。

「我々は依然優勢、側面に回った増援らしき中隊規模の兵士達も足止めをしています。」

「そうか。この作戦は必ず成功させる、引き続き警戒・偵察を怠るな。」

どうやら定期的に前線に偵察用の伝令を送っていたらしい。

このまま継戦を続ければ勝てる。マイクはそう確信しているのだが、なぜか鳥肌が立つ。

ごまかしきれないほどの酷い悪寒がその正体なのだろう。昔からそうだ、自身に降りかかる不幸が起こる時、必ず酷い悪寒がする。その第六感にも等しい、その危機察知能力の警鐘は今回のは今までの中でも一際酷かった。

「…さて、鬼が出るか蛇が出るか。」

マイクは呟くと兜を被り、バスターソードを手に持った。

この予感は、ギフトによるものではないのだろう。これから必ず自身に起こる不幸、回避した事は無いし回避できる自信も無いし、必ず死なないと言う確証も無い。ただ、"そんな気がする"と言う予想の思い込みには、自信もあるし確証もある。

悪寒の酷さは増すばかり、寒いと言うのに冷や汗が出て来た、今までにない不幸の予感。

警備は固めた、この本部の唯一の出入り口である正面に警備は固めた。

所で、マイクには不幸の正体がわかる気がした。その正体とは___

「死か…?」

雷のような爆音が鳴る。兵士たちの断末魔が聞こえる。それと同時に不自然に空気を熱く感じた、なにが起きているのかマイクにはさっぱりだった。

テントの中へ王国兵がその原因を知らせに来る。

「例の増援が、その別働隊が、東の壁から侵入して来たようです!」

「馬鹿な…丸太でできた壁だぞ…」

マイクは驚く。先程の轟音、きっと大きな攻城兵器に近い何かなのだろう。だが、丸太を貫通させるほどの兵器を築かれずに動かせるはずがない。それに、そんな小道具や能力なんて__

「そうか、死がこれから迫る死の予感のせいで

気づかなかったな。」

「作戦本部長殿、ここは危険です!」

何かを察したマイクに、王国兵は避難を促す。

マイクは馬鹿にしたように笑みをこぼすと

ゆっくりと口を開いた。

「いや、逃れられんさ___」

___瞬間、炎が舞う。

「もう遅いからな。」

「うわぁ!」

舞う炎はテントを覆うが、マイクはテントの左壁幕をバスタードソードで切り破り、難を逃れた。

背後から悲鳴が聞こえる。振り返ると先程の王国兵は火に包まれ、断末魔を上げながら左右に転がる。

「あ"あ"あ"ア"ぁ"ぁ"ぁ"」

それも枯れるように小さくなった頃、テントの炎が揺れ動きマイクよりも二つ三つ周りほどの大きい、人影が現れる。

「…貴様は、竜の炎を知っているか___」

やや低い、女の声。マイクは炎の人影にバスタードソードを右肩に刀身を乗せるように構える。

「___かつて神をも殺した、神狩りの炎を。今はその残滓だけが引き継がれる、奇跡の炎を。」

マイクは冷や汗を垂らしながら現れた人影の正体、薄い金髪に闘牛の角ののような突起が前後逆になったカチューシャ、炎を纏うクレイモアを持つ女。現実だと言うのに、その姿に幻を願った。

マイクはその影に問う。

「…アンタは、御伽話の話でもしているのか?」

その女はその問いに、答えた。

「御伽話のような、私の先祖の話だ。」


〜〜〜


「これでこのあたりは最後かな。」

そう言いながら悲鳴を上げる王国兵の喉元に突き立てる。

まるで作業のようにこなすデイビッドの姿とその心はおかしい。初めからデイビッドはおかしかったのかもしれない。

あれだけ、奪えないと言っておきながら人の命はこうやって淡々と奪えるのは、何故であろうか。メネの言葉が、存在が果たして彼になにを教えたのだろう___


___教える前から奪い続けたデイビッドには

関係の無い事かもしれない。

デイビッドは自身の"奪う"行為に気づくことは、まだ少し先の話。

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