第7話テリウス砦攻略戦、③

アメリナは塔の手すりや塀の無い螺旋階段を全速力で駆け上る。

ラウンドシールドとロングソードを持った帝国兵はこちらに盾を投げた。

アメリナという巨体の特殊なカチューシャをした女が巨大な剣を持って全速力で自身の下へ向かって来れば、思わず盾を投げてもおかしくはないのかもしれない。

「乙女に酷な事をしてくれるな!」

貴様のような女を乙女と呼びたくない。

アメリナは投げつけられた盾を左手で受け取り、手に装着すると投げた張本人をラウンドシールドのストレートをお見舞いした。

「うげあっ!」

王国兵は殴られた勢いで真後ろに正面が変わる。アメリナは王国兵の後頭部を掴むと顔面を

塔の壁になすりつけながら再度全速力で上へ登る。

「あががががごがががががががががががががががががががががががががががががなががががががががががががががががががががが_____」

もちろん、壁に顔をなすりつけられているのだから、顔の皮が削れて行くので文字通り、魂の叫びを上げる。

この女は乙女と言うには少し野蛮すぎる。

少し登ると王国兵が2人待ち構えており、戦斧と槍をそれぞれ持っていた。

アメリナは2人にその顔の削れた王国兵を投げ、右手のクレイモアで左から右へ薙いだ。

「うああああああああ」

落ちた王国兵の1人が叫び声を上げたが3秒ほど経つと潰れる音や弾ける音と共に消えた。

落ちて行った王国兵の背後にさらに4人待ち構えていた。

ハルバード、ツーハンドソードを持つ兵士が2人、短弓を持つ兵士が横並びに2人。

放たれた矢が2本、アメリナへ向かう。

アメリナはクレイモアの腹と左手甲でそれらを弾き落として、近づく。

ツーハンドソードを持った右に居る兵士がアメリナに右から左の一文字薙ぎを仕掛け、ハルバードの王国兵は"かえし"を使い足を狙ってアメリナの転倒を狙っていた。

アメリナは高く飛び、後ろの弓取2人をクレイモアの腹で押しつぶすように圧殺した。

着地すると左手で剣の腹の先を持ち振り返ると

ハルバード兵の斧槍が迫った。

アメリナはハルバードの柄にクレイモアの腹を当てて、斧刃をギリギリ顔の前で止める。

ツーハンドソードの王国兵はアメリナの脇にツーハンドソードを叩き込もうと剣を振り上げていた。

アメリナはハルバード兵の腰にあったショートソードを抜き取り、ハルバード兵の喉を刺し、

左に蹴り倒してツーハンドソードの強烈な一撃を回避する。

できた隙が生まれた残りの王国兵に兜割を叩き込むと、脳天から股間まで両断に成功する。

アメリナは振り返り、上を見た。

次々と王国兵たちがアメリナに向かって来ていた。

「終わったら酒場にでも行こう。」

アメリナは呟いた。


〜〜〜


「うーん、連発しても紐が耐えれようになったはいいけど、突撃されるとあんまり意味ないのかなぁ…あんまり兵力削げなかったなぁ…おっと!」

頭を抱えていたメネ。

ふと傾塔のテラスから広場を見下げる。

黒い剣士とブロートソードを持つ帝国兵が斬り合いをしている。

お互いに一歩も譲らない様にメネは目を吸い寄せられるようだった。

「ありゃ、サムライさん負けちゃうかもしれないねぇ…」

メネにはどうやらサムライ…黒の剣士がやや劣勢に見えたようだ。

メネはわざとらしく手を胸の前で合わせた。

「それはそれとして、デイビッドはどこかなぁ…」

メネは傾塔のテラスからもう一度見回す。

するとある帝国兵に目がついた。

兜から少しはみ出たストロベリーブロンドの髪、エメラルドカラーの瞳、帝国兵と鍔迫り合いをしているようだ。

「あ!、デイビッド見つけ_____」

そう叫ぼうとした時、破壊された門から騎兵が

雄叫びを上げながら70騎ほど突入して来た。

騎兵達は王国兵達に馬上からの斬撃や刺突を加えて行く。

すると流れるように馬から飛び降りて行った。

「やばいね、騎兵隊。」

メネは黒い兜を地面から持ち上げ、装着した。

展望台のテラスから身を引いた。



〜〜〜


「はぁ、はぁ、はぁ、やっとぉ、屋上か、はぁ、はぁ_____」

アメリナは傷だらけで城壁へ繋がる塔のドアを開けた。

広がるのは美しい平原の景色と、青空それを遮るような塀。

横を向くと、あの光線の発信者__銀の鎧の騎士がそこに立って、光線によって一部が抉られ、帝国兵や王国兵の死体で汚れた草原を眺めていた。

どうやら女らしい、身長は160センチほどに見える。銀色の長髪、顔立ちはかなり整っているが、鼻についた横一文字の傷が玉に瑕だ。

腰のベルトの辺りには短剣と矢筒が下げら、その中には矢が10本ほど入っていた。

その手には銀で派手に装飾された弓が、握られていた。

「美しい草原ですね。汚すには、少し勿体なさすぎましたかもしれません。」

女の弓取はこちらを見る事なくそう言った。

「トルミアの執行騎士が、なぜここに居る、なぜ他所の戦争に首を突っ込んだ!」

アメリナは執行騎士と呼んだ女の言葉を無視して、問いかけた。

トルミアはライカード帝国の上に位置する国で

正式な国名は"神聖トルミア国"、宗教国家である。

トルミアは入信している宗教上の理由で武力を所有してはならない国だった。

国家同士の有事に対応できるように武力の代わりとして設立されたのが執行騎士。自衛を目的とした自衛以上の力と、強力なギフトを持つと言われる7つの騎士、その強大な力は他国でもなを馳せた。

武力として数えられることは無いが、他国の戦争に関与する事が禁じられていた、はずだった。

「皇権の…そちらの言葉だと、教皇でしたね。

教皇の命により参りました。わたくし執行騎士の"一矢のアン"、と申します。」

一矢のアンと名乗る女の弓取はそう芝居がかったように言った。

するとこちらに正面を向けて、矢を筒から取り出し、引き絞りこちらに構えた。

「さあ、やりましょう。」

アメリナはそれに応えるようにクレイモアを上段に構えた。

アンは矢をアメリナのつま先めがけて放った。

アメリナは矢を右に回転するように避ける、ふと矢に目をやると、城壁の地面の岩に鏃が深く突き刺さり、矢羽根の少し手前まで貫通していた。もしつま先に刺さっていればアメリナの足は地面に文字通り釘付けになっていただろう。

その勢いのままクレイモアで右から左へ大きく薙いだ。だがアンは上体を水平に後ろに倒し、逆とんぼ返りのように飛び、それをギリギリで回避した。着地すると同時に矢筒から矢を三本抜き、アメリナに放つ。

放たれた矢は斜めにアメリナに飛んでいく。

矢に体を平行に合わせて、クレイモアの腹で受け流す。あまりにも矢の威力が高いからか、とてつもない火花が一瞬上がった。

アメリナは怯む事なく体勢を整え、構えた。

「…やはりあなたみたいなのには、少し部が悪いですね、矢が尽きてしまいますよ。

それではごきげんよう。」

「なっ!…」

そういうとアンは城壁の塀に飛び登る。

「おい待て、貴様!」

アメリナの問いに応える事なく、女は言った。

「陛下の命は"死せぬ程度に奮闘するがよい"なので。」

アンはそう呟くと、両手を広げて頭から落ちていった。地面から城壁までの高さは役15メートル、鎧を着て生き残れる高さでは無い。

アメリナは急いで塀から下を見た。

アンの姿はすでに無く、ただ争う二つの種類の兵士たちがいた。

「クソ、逃した!」

そう言い地団駄を踏む。

アメリナにはわかっていた。一矢のアンが生きている事が、執行騎士の脅威が。"あの程度"で死ぬのはありえない。そう直感が、本能が感じている。

アメリナは踵を返しゆっくりと来た道を戻って行った。

「まあいいか、異分子は消えた事だ、陽動作戦を開始するか…」


〜〜〜



「オラァ!」

大隊長は右手で握るブロートソードで黒い剣士に兜割を斬り込むが、黒い剣士はそれを右半身で逸らし、躱す。

そのまま黒い剣士は顎へそのまま切り上げた。

大隊長は左後ろへ体を傾けるように躱そうとするが、その片刃の剣は大隊長の右顎を掠め切る。

大隊長は大きく下がるとブロートソードを剣士に向けながら、左手で右顎を抑える。

「"刀"ってやつだろぉ?ソレ。

噂じゃ鎧ごと切り落とすって聞いたんだが本当そうだなぁ、顎の骨まで切れてやがる。」

本来人の骨と言うのは固く、並みの剣では切り落とせない。クレイモアや槌などで砕き切ったり叩き潰すのが最も有効なのだが、この黒い剣士の持つ"刀"と呼ばれる薄っぺらい片刃の剣は

その暗黙の了解とも言える常識を無視して斬り捨てるほどの切れ味を持っている。

黒い剣士は大隊長の頭より少し上を見つめて口を開く。

「雇い主ガ、逃げてしまいましタ。」

異邦の訛りが入った、ぎこちない言葉。

城壁を剥きながら言ったのだろうか、どう言う意味かはよくわからない。

大隊長は剣士の一声を遮りかけながら、猪のように剣士に飛びかかった。

剣士は不意打ちにも等しいその攻撃を左に小さく飛びながら躱した。

大隊長はそのまま突き抜けるように大きく体勢が崩れた。

「喋っている途中だと言うのニ、恥知らずな戦士でスネ。」

剣士はそう吐き捨てた。

「お前はァ…お前はァ、そうやってよそ見するのカァ!、お前は俺だけを見てればいいんだよッ!」

なんとロマンチックな意味の言葉なのだろう、きっと白馬に乗った殿方の言葉なのだろう…!

だが現実は甘く無い、その言葉を吐いたのは

青髭を生やした老け顔の野蛮な一般大隊長だ。

黒の剣士はその言葉を聞くと、顔を大袈裟に

"訳がわからない"とでもいいたげに首を振る。

「呆れましタ、ただの獣だとワ。」

黒の剣士は突如剣を鞘に収め、諦めたように砦の館内へ歩いて行った。大隊長はその言葉と光景を見るとブロートソードをあらぬ方向に投げる。

「クソが、俺の何がいけねぇってんだ!」

大隊長には、わからなかった。

投げたブロートソードは王国兵のうなじへ突き刺さった、即死だ。

大隊長は門の城壁の上を見ると、突入時の銀の弓取もアメリナもいなかった。

「…始める気みたいだな。」

大隊長は暗い顔で呟いた。



〜〜〜


デイビッドはサーベルを持つ王国兵と鍔迫り合いをしていた。王国兵はサーベルを使い、デイビッドのロングソードを抑えるように左に流しデイビッドは前に躓き、四つん這いにこけた。

王国兵はデイビッドにサーベルを刺そうと逆手に持ち振りかぶる。王国兵は太陽を背にし、王国兵が暗く瞳に映る。

それと同時に王国兵よりも巨大な人影が、その身丈よりもすこし小さい剣を振り上げていた。それに気づいた王国兵はすぐさま振り返り、逆手のサーベルの腹で受け、右に流す。

衝撃が強いせいかサーベルにヒビが入る。

その影は左手でサーベル兵の頭に左手を伸ばし掴む。王国兵は掴んだ手をサーベルの柄頭や握りしめた拳で叩いて必死に抵抗するが、突如として影の手の平が燃え上がった。

肉が焼ける音と鼻をつんざく鉄に似た血の匂いと共に王国兵は手をだらんと垂れ人形のように脱力した。

太陽の光に靡く金色の髪。角が生えたようなシルエット、団長だった。

団長はデイビッドに手を貸した。

デイビッドは手を握り立ち上がった。

「ありがとうございます!」

「礼はいい、新しいのが館内から出てくるぞ」

団長は砦の館内を見ると中から増援であろう王国兵が出てきた。

そして遅れて出てきたのは黒の鎧、ミラノ式の黒兜と指揮官の印となる赤の毛冠。

左手にはツヴァイヘンダーが握られている。

「…、メネ!」

デイビッドは呟く。

今度こそは、迷わない。必ずメネを止める

「やあ、デイビッド。」

両手を広げ、

「来たな、黒の悪魔!」

アメリナはメネを睨みつけた。

デイビッドはロングソードを抜き、メネに構えた。

「止めようよ、こんな事。」

無理だとわかっている説得。

戦争と言う統治者同士の個人の欲のぶつかり合いでは済まされない、連帯責任の欲望。

奪われれば奪い返すしか取り戻す方法を受け入れない、律を介す事を拒んだ欲の闘争。

初めからわかっていた、だからデイビッドは剣を向けた上で、その言葉を吐いた。

「ふふ、デイビッドもわかってるでしょー?

"私とあなたの問題"じゃない事ぉー!

奪われたら奪い返すしかないのよ。」

メネはバカにしたように言った。

『奪われたら奪い返すしか無い』暴論にも、聞こえるが、律を介さぬ戦場と言う踊り場ではそれは正論だった。罵倒も叩くも殴るも蹴るも斬るも刺すも潰すも殺すも犯すも盗むも奪うもこの欲の踊り場では当たり前で、誰も咎めることは出来ない。

「もちろん応じる気はない、か。」

アメリナは呟くとデイビッドに手を伸ばす。

「え?」

力強くデイビッドの頭を掴み、クレイモアの柄で殴った。「あがっ」とデイビッドは声を上げて気絶する。

「おいお前、何して_____________」

「動くな、私が少しでも怪しいと思ったらコイツの頭を焼く。

さあ、お前は奪うどうするか?」

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