第5話:テリウス砦攻略戦、①

 日が暮れる暮れ始めた頃、ドラゴ兵団一行はレイジェナードの正面の市街地大通りを鎧姿のまま歩いていた。宿を探すためだ、このまま進めば宿街に出る。無数に並ぶ家は兵士たちを歓迎するように照らす。

 兵士たちの波の中、デイビッドは俯きながら歩く、並走するハイミルナンやヨーストは戦の事を話し合っていた。

 デイビッドは自分のロングソードを握る震えた手を見た。

 戦っていた時はきっとアドレナリンでも出ていたんだろう。だからきっと、あんなに人を、殺して、なのに、安心して________。

「お前の名前は、確かデイビッドだったな。」

 いきなり横から話しかけられたものだから、デイビッドは思わず変な声を出した。

「宿を見つけるまで話そう。

 "黒の悪魔"…幼馴染のフルネームを教えてくれ

 そのかわり私は何でも答えてやる。」

「メネ・リージェンです」

「ふむ…"メネ・リージェン"…お前は?」

 デイビッドは団長のギフトを見て思ったことがあった。舞い散る炎、剣に纏う同じソレはあの炎の騎士を彷彿とさせていたようで___。

「兜に羽の装飾のついた騎士を知っていますか?」

「?…いや知らないが…。」

「その、団長とは少し違うんですけど炎が頭からつまさきまでギフトのせいなのか燃えてるんです。」

「……………知らないが」

 団長は濁すように言う。

 デイビッドは少しその様子を怪しく感じたが

 気のせいだろうと無視した。

 デイビッドはそんなことよりも人を殺してしまった時のあの安心感から逃れる事でいっぱいだった。

 何かデイビッドから感じたのか団長はこちらを少し見かねたように、

「あそこの宿は一度来たことがある。

 そこにすると良い。今日は休んで、明日に備えておくように。」

 団長は六階ほどの宿屋に指をさした。

 ありがとうございますと返すと、団長は離れていった。

 デイビッドはこのメネ探しに手段を選べるほど優しくはなかった。

 かと言って感情を捨て切れるわけでもない。

 ただ自分の信じる道を掴んで進み続ける以外無いのだ。

 デイビッドは首を振り、団長の勧めた宿屋に入って行った。




 〜〜〜


 アメリナはドアを開ける、小さな物置ほどしか無い部屋の中には小さな円卓、それを囲むように三人の軍服姿の男がそれぞれ木製の大型の椅子三つに座っていて、一つ空席の椅子があった。

 一番左のうっすら青髭をはやす、やや老け顔の男がこちらを向いた。

「なんだ、お前にしちゃぁ遅いじゃぁないか、ドラゴ兵団団長、アメリナ・ドラゴン・サリーさんよっ。」

「…すいません、大隊長殿。

 サリーで結構です。」

 大隊長と呼ばれた男は「了解」と返すとアメリナはあいていた席についた。

 一番右の茶髪の19歳ほどに見える小柄の童顔の男は、他アメリナ含め三人の顔を見ると、アメリナを見ながら口を開く。

「アメリナどんな何で遅れたと?

 なんか理由があっんやろう?」

 やや高い声でそう言った。

 アメリナはよく聞き取れなかったのか顔を顰める、他の2人は「はぁ」ため息を息ぴったりについた。

「遅れた理由を聞きたいそうだ。

 ジャックはいい加減標準語を覚えろ。」

「ないでロビンはそげん事ゆん?嫌じゃ、

 てせ!」

 ロビンと言われた奥の席にすわる大柄の白い軍服を着たジャックよりも2歳年上に見える白髪白瞳の男は、ジャックを睨みつけながら言う。

「めんどくさがるなよ…失礼した続けてどうぞ。」

 今度はアメリナも呆れたようにため息をつく

 だいたい何でこんな変人どもに囲まれたんだ

 そうアメリナは思ってしまう。

 首を左右に、雑念を振りはらうように。

「"払暁"と"黒の悪魔"の情報を握る人物を、見つけました。」

 それを聞いた大隊長は何か勘付いたように言った。

「ふ〜ん、ソレって新しく本隊に入れたって聞いたあの無名の雑兵3人のことぉ?」

「はい、そのうちの1人です。

 残り2人は情報の漏洩を防ぎたい他、管理しやすいようにするため、入れました。」

 そう答えたアメリナ。

これは補足に過ぎないが、情報の漏洩を防ぐ意味としては、漏洩したモノによっては士気を下げたりする事があるためである。

ライカードと違い数で劣るミレスには、士気は兵力となんら差し支えないほど重要視されていた。


そもそも、漏洩しない・させないことが一番なのだが。


ジャックは地図を卓上に広げた。

彼はさらにその中に山の絵の中に書かれた"レイジェナード"に赤の馬の駒を置き、その隣の平原の絵の上に青の馬の駒を置く。

「そげんアメリナどんに質問なんやじゃっどん、戦闘時間は1時間半程度じゃって2発放たれちょった。

 一体何があったと?」

 当時、投石器は一発放つだけでも1時間はかかると言われている。

 投石器に関する技術が未発達だからである。

 それを短期間で放ったライカード陣営は少しおかしいのだ。

「砦内まで侵入してきた雑兵の対応に追われたので、私には分かりません。」

「じゃとしたやギフターかな…じゃっどんそんか規格外なギフターぽんぽんいっわけなかし…"払暁"でんこげんやぼう無かどん…」

 それを聞いた大隊長は鼻で笑って言った。

「へぇ、それでなんか問題になるの?」

 他は思わず吃る。

 あれだけの規格外を見ておきながら、舐めたともとれるとも取れるその発言。

 そもそも大隊長と言われるこの男は黒の悪魔を一度追い詰めたほどの実力者、それにモノを言わせたように舐め腐った態度は三人からすれば相当なストレスになるだろう。

「なんないならさぁ俺もちょっと聞きたいコトあるんだけどいいかな、アメリナ団長どの?」

 団長は作り笑顔で承諾する。

「その"払暁"と"黒の悪魔"のキーパーソンの特徴と名前、教えてくんない?

 今度の作戦で見るかもしれないし。」

「作戦と、言いますと?」

 ロビンが聞き返すと真顔で答えた。

「ライカードのテリウス砦に突撃して落とす。

 そこでそのキーマンを使って確実に"黒の悪魔"をヤる、狙うならこれが最初で最後かもしれないしね。」

「なるほど、敗走で消耗したのであればレイジェナードに一番近いテリウスに黒の悪魔は補給するためにやってくるはず、と?」

「ああ、だからここで必ず、奴を死止める!」

 そう言った大隊長の眼には、獣が宿っていた。


 〜〜〜

 デイビッド達は武具を持ち草原に立っていた。何も少数ではなく、ドラゴ兵団の後ろにはあのロビンとジャック率いる騎兵隊が100騎ほど、

「手短に済ませよう、騎兵隊は迂回し側面から合流。

 我々ドラゴ兵団はテリウス砦に突撃後、私が門を破壊し、騎兵の突撃を手助けする。

 開始は10分後、各自配置待機だ。」

 ドラゴ兵団のさらにその先、本隊にはあの三人衆の姿の他に団長や本隊メンバーがいた。

 あれから少し経ち本隊へ無事ぶちこまれた三人衆。待機を聞くと、抑えきれなかったように口々に言う。

 ヨーストは言う

「俺あ、死にたくない。

 俺たちなんて倒れて踏み潰されて終わりじゃねえかよ…」

 ハイミルナンは言う

「馬鹿野郎私は絶対生き残るぞ馬鹿野郎」

 デイビッドは言う。

「やっぱりなんでこの2人まで入れたんだ?」

 まるで話が噛み合っておらず、その動揺はだれの目にも見てとれた。

 するとそのかき混ぜた絵の具の筆洗のような頭に割って入った団長の怒号。

「構え!」

 デイビッドは前回無くした斧槍の代わりのロングソードを引き抜く。

 ハイミルナンの武器は相変わらずだったが

 ヨーストの斧は少し刃こぼれが目立っていた。


 そして団長とは別の怒号が鳴り響く。

「岩だ!」

 空には大きな岩が三つ程こちらに向かって飛んできていた。

「ここはどう足掻いても射程外だぞ!」

 テリウス砦からは3kmほどはなれている。

 通常の投石器は届いてその半分だ。

「突撃イィィィィィィ!」

 突撃と団長が叫ぶ。

 みんな一斉に駆け出す。

 テリウス砦攻略戦、開戦。

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