第1話:初陣、①

あれから僕は軍に志願しに行き"ドラゴ兵団"と言う隊に訓練生として入れられ、3週間ほどの訓練ののちに正式に隊員となった。

班の編入はまだだったが、好きに組んでも組まなくても構わないそうだ。

今はドラゴ兵団に命じられた勤務でレイジェナードと言う兵糧などを備える首都の近郊にある砦の防衛のために駐屯し、王国がレイジェナードに攻め入らないかを監視する役目も担っている。

さらに前線への補給などにも大いに奴だっていた。

レイジェナードは山に囲まれた立地で、都市に繋がるのは谷の間の砦のみ。唯一の入り口の砦は"レイジェナードの頭蓋"と呼ばれる程に、レイジェナードにとっては重要であったのだ。

「よろしく、デイビッド。」

「うん、よろしく。」

砦の外壁の上に立つ僕達は言葉を交わした。

中途半端に伸びた紺に近い黒色の髪と蒼の瞳の長身、お互いに身にまとう鎧と手に持つ戦斧、その青年は僕に手を差し伸べた。

握手だ。

僕は快くそれを受け取り、ハルバードを持っていない方の手を握る。

 彼の名前は、ヨースト・アルバン、同じ兵団の、新しくできた仲間であり、同じ隊員。

大切にして行こう。

それはともかく、なぜ僕が兵士をしているかと言うと、"炎騎士の事を王国の捕虜が知っているかもしれないから"である。

人を探せる程金も時間も無ければ平和でもない。

結論、現地で調べるのが一番と思ったからだ。

 僕は彼と一緒に外壁を歩いて回る。

味方のドラゴ兵はだけでも砦の壁の上に

2000人はゆうに越すほどの大軍だ。

砦の壁の塀には梯子をかけられた時に落とせるように斧や、かえし棒、石などが無空に並べられていた。

そしてその塀から見える景色は美しい草原。

砦に向かって緩やかに盛り上がっていて、

「たしか俺たちが守るように言われてたところは___

「北北西側の壁だよ」

うろ覚えの彼にそう指摘する。

「へ?ホクホクセイ側?どっち?」

「正門の左側の端」

おう、ありがとう、とヨーストは僕に返す。

横並びに歩きながら、彼は僕に問う。

「デイビッド、どうして方角がわかるんだ?」

「ん?ああ、太陽を基準にして考えるとわかるんだ。ほら太陽は東から西に落ちるから西が右に来る方が南、その反対が東ってわけ。」

「はえー、また一つ賢くなったわ。」

「あはは…」

どこかでよく聞くフレーズでしゃべる彼に思わず苦笑する。

「親に教えてもらってたんだ。田舎で大きい畑でよく遊んでたからさ、たまに迷う時があったからね。」

「へぇ、お前農家だったのか…意外〜。」

そう話しているうちに北北西側の壁に着いた。

着いてみるとここも人でいっぱいだ。

2人で塀にもたれて座ろうとした時___

「ちょっと!遅くないの?!もし王国の奴らせめてきたらどうするのよ!」

「「え?」」

そう話しかけてきた。高い声だなと思ったその兵士はパルチザンを杖のようにコツコツと音を鳴らしながらこちらに近寄って兜を外す。

中からは少し垂れ下がった位置に結ばれたポニーテルの長い、赤毛に黒毛が混じった髪が垂れ下がる。

兜ではわからなかったが小顔で顔立ちは整っている。何より、特徴的な灰色の瞳。

その人は僕たち2人の事を鋭く刺している。

「えっとすみません」

「俺も…」

「謝るならこれ以上は言はないわ…

あ、自己紹介が遅れたわね。

私はハイミルナン・J・ロイド。

あんたら2人と同じここの守りを命じられた兵士よ」

「よろしく」

「よろしくな!ハイミナン!」

ええと彼女は返し、ヨーストにかえし棒を持たせた。

「はへ?」

「返し係お願い、わたし筋力ないし、長身なあなたの方が向いてると思うから」

「お、おお、まかせろ…」

何やら突然のことで腑に落ちないようだ。

そんなヨーストを横目にハイミルナンはこちらに近寄る。

「あなたは斧をお願い、わたしは石をやるから___

「クソっ」

デイビッドは突然彼女を押し倒した。

「何すんのよ!」

「見てください!矢です!」

「!」

倒れる2人の横には、地面にささっている

矢が。

デイビッドが押し倒してなければ危なかっただろう。

「来るぞ!奴らだ!」

そう響きわたる声が響きわたる2人は起き上がると、落としたパルチザンやハルバードを手に持ち塀へと駆け出す。

「平原なのに!、隠れる場所なんてないのに!」

そう彼女はつぶやいた。

「なんだ…あれ!」

ヨーストが空を指差す。

空には黒い何かが僕たちに迫る。

「矢か!伏せろォ!」

ヨーストがそう呟くと一斉に皆塀へともたれかかり、頭を守るように手甲を空へ掲げる。

ハイミルナンはパルチザンを地面に置き、両手で同様の動作をした。兜がないからだ。

そして降りかかる矢は塀や地面に刺さるが

掲げられた手甲や鎧に受け流され、なんとか3人は無事だ。

「アアアァぁッ!」

「痛いィ!」

どこからともなくそんな悲鳴や断末魔達を聞く。

僕は塀から平原を除く。

王国の大軍、

本来ならトレードマークのワシが描かれた旗があるのだが、掲げられた側は土埃で覆われている。

さらに兵士たちもなんだか土で薄汚れていた。

僕は

「奴ら土を被って金属の反射を抑えて、その上で伏せて傾斜の死角に隠れてたんだ!、クソがッ」

そう呟き、中腰で屈み石を持った。

砦からも負けじと矢が飛んでいる、が先程の王国の矢の量の半分にも満たない。

「高低差があっても厳しいわね…!」

「デイビッド、どれくらいまで来てる?」

ヨーストにそう聞かれてた。

僕はすかさず

「あと5秒前くらいまで突撃してきてる!」

そう叫ぶ。

「クソ!出番だな!」

悪態をヨーストはつきながら立ち上がる。

それと同じくハイミルナンも立ち上がった。

「からっ」と乾いた音が外塀からいくつか聞こえた。

梯子がかけられたのだ。

「よし!落とすぞ!」

僕は梯子を登る兵士に向かって石を落とす。

「アガッ」

落とされた石は梯子を登る兵士の頭に当たり、ヘルメットは凹む

短く声をあげると、敵兵士は人のさざめく波へと落ちて埋もれていく。

「デイビッド!どけぇっ」

「!、うん!」

ヨーストがかえし棒を持ちこちらに駆け寄る。

デイビッドと位置を入れ替わると、かえし棒で梯子の手すりに引っ掛け、塀の縁を使い、てこのように梯子を少し上げ、前に思いっきり押した。

「落ちてくる!」

「わぁぁぁあっ」

「離れろ!」

壁の下の敵兵の海からそんな声が聞こえた。

「上手く行ったぜ…」

「いいね、かえし棒」

「だろ?」

そんな事を短くヨーストと僕は話す。

2人は石を持って敵の海へと落とし始める。


 〜〜〜


アメリナ・ドラゴン・サリー

兵団"ドラゴ兵団"の団長である。

腰まで伸びたかなり長い髪、淡い黄色に闘牛の角を前後反対にしたようなカチューシャ、女性にしては大きな体、ヨーストよりも二回りほど大きい。

彼女は砦の中の作戦室で側近、マイク・D・サムエル、ヒゲの生えた剣を携える白髪の男。

彼に戦について尋ねる。

「サムエル、状況は?」

「現在、敵兵が梯子を壁にかけるなどして入城しようとしています。

現在の壁上の戦力ではあと7時間半が限界かと…」

「ほう…」

(予想時間よりもかなり早い進軍だったが、あと2時間もあれば増援は来る。

かと行っても相手は正面から強襲を仕掛けれる様な連中…

一先ずは増援までが勝負か…)

「破城槌の発見報告は?」

「今のところ無いです。」

(やはりか、無理をして進軍を早めた分、負担になるものは切り捨てたか)

「で、あれば。

砦内の戦力の半分を正門前に集めておくように。

万が一、壁上への侵入をゆるしてしまった場合、予備の戦力として役立つ。

私は壁上に上り、指揮を取る。」

「承知致しました。」

マイクは了承の言葉を返すと作戦室から退室し、部屋にはアメリナのみが残された。

彼女は自身の手を見る。

すると手のひらから少し浮いたあたりで

「ぼうッ」と小さな音と共に小さな火が起こる。

「今回は"ギフター"はいないか。」

彼女は手の上の火を握りしめると振り返り

続けて退室した。


 〜〜〜


「はあ、はあ、はあ、クソォ…」

「ぜんっぜん減らないじゃないの…」

「なんでこんな多いんだよバカヤロォっ」

3人はウンザリしたように声を上げる。

石をあれから30分ほど3人は落とし続けたり、梯子をかえし棒で倒したり、これらを繰り返し続けているが、敵兵は一向に減る様子を見せない。

「お腹すいて来_____________ 」

僕がそんな事を言おうとした。

したのだが平原のあるものを見て思わず言葉が詰まる。

「また…矢だ!」

「!、まさか味方ごと射殺す気なの?」

3人は今持つ石を落としたり、かえし棒や斧を地面に置き誰よりも先に塀の側で伏せた。

「矢だ!伏せろ!」

火花が見えた、悲鳴が聞こえた。

敵が味方かわからない、両方なのだろうか。

一度目の矢の掃射では目を瞑っていたが、二度目では目を閉じる余裕など全くなかった。

手甲に擦れた矢は火花をあげて、弾かれ、ころころと周りに落ちていく。

(よし!上手く行った!)

なんとか無傷で乗り越えたことに思わず歓喜する。

矢が降り注ぎ終わると、すぐさま立ち上がり

僕たちは目前まで迫る敵の斥候達に石を落とした。

ふと周りに目をやる。

左右にはせっせと石を落としている2人の姿

奥の北北東の壁を見ると、敵と味方が斬り合っていた。

先程の掃射できっと侵入を許してしまったのだろう。

「やばい!登られた、ちょっと行ってくる!」

「!、ちょ、待っ!?」

「おい、まてデイビッド!」

僕は走り出した。


 ●


人を慢心させるのは簡単だ。

成功体験を幾つか味あわせる。

すると人は慢心し、なんでも成功すると思い込み始める。

極めて極端な例だが、死地に等しい戦場ではそれは顕著な例である。


〜〜〜


味方と鍔迫り合う敵兵に斧槍を突き出す。

空いていた横腹に深く突き刺さる___




______訳ではなかった。

鎧に守られた体にハルバードの穂先が滑る。

「あぁっ!」

「キイイイイ」と嫌な音を立てながら滑り落ちた。

刺した位置が悪かった。

第一、横腹は鎧で守られていて、円形だった。

槍などの刺突武器は苦手とする形、滑るのだ。

きっともう少し上の鎧の無い脇腹か、喉元であればもっといい結果が望めただろう。

体制が崩れ、手を地面につく僕を敵兵は許さない。

振り上げられたロングソード。

どうする、どうすればいい、避けれない。

防ぐのが間に合わない。


「死ぬ」


その時、横から突き出たのは、ひしがたに近い槍の穂先_____パルチザン!

ハイミルナンだ、急いで兜をつけたのだろう。

初めて会った時に兜に収納されていた髪ははみ出している。

彼女は僕に手を差し出した。

「ありがとう!」

「いいわ、これで貸し借りナシね。」

僕は彼女の手を借り、立ち上がる。

すると案の定すぐさま敵兵が襲いかかって来た。

顔に迫る槍を紙一重でかわし、反対に顔へ穂先を押し付ける。

脳まで達した敵は力無く斃れる。

「よし!」

続け様にもう1人。

戦斧を思いっきり振り上げている。

刺したままだった穂先を傾け、体を落とし横に薙いだ。

ハルバードの斧刃が敵の防具を付けていない膝へ食い込み、そのまま切断する。

そのまま尻餅をつくように沈んだ敵の喉元に穂先をお見舞いする。

「ホラッ!」落ちた戦斧を持ち上げ、投げナイフの様に投げ、塀にちょうど登った兵士に向かって投げつける。

投げた斧は兵士の顔面に食い込み、再び壁の下へ消える。

「グアアァッ!」

後ろからも悲鳴が聞こえる。

ハイミルナンが倒したのだろうか、戦いとは無関係な推察を頭の中でちらつかせた。

一度、周りを見渡すと、王国兵の無惨な死体や友軍の死体、それ以外は全て生きている戦友や傭兵達の姿。

「…!やったわよ、デイビッド!」

「…やった!勝った、勝ったぞおおお!」

思わず勝鬨を上げる。

いや上げていい!敵は引いていく、これ以上やり合う必要もない。



"勝った"と思ってしまったのが運の尽き、だったのかもしれない。

皆んなが勝鬨を上げる最中、風を切る音が、こちらをめがけてやって来る。

「え」

我ながら情けない声だ。

気づいた時には空中に放り出されていた。

足場であった城壁も、矢の掃射の時にはおおいに貢献した塀でさえも帝国兵士・友軍と共に空に打ち上げられていた。

最後に見たのは、草原の向こうに小さく見える投石器の姿だった。

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