爆乳☆爆尻さんとオフ会で会った話

家守

前編

第1話 その少女は爆乳☆爆尻

 8月中旬。

 空は曇っていて涼しく、夏にしては比較的過ごしやすい日のこと。

 

 俺は一人で、都内某所にある喫茶店の前まで来ていた。

 

 なぜ中に入らないのか。

 それは、ある人を待っているからだ。

 

 その人の名は爆乳ばくにゅう爆尻ばくじり

 もちろん、本名ではない。オンラインゲーム上での名前だ。

 

 

 爆乳☆爆尻。一体、どんな人物なのか。

 

 

 爆乳さんとゲーム内で知り合ったのは、約3ヶ月前のことだ。

 この3ヶ月間、ほぼ毎日のように共にゲームをして遊んでいる。

 

 しかしゲーム内で、爆乳さんはリアルのことを一切話そうとはしなかった。

 

 そして俺や他のギルドメンバーも、爆乳さんにリアルのことを聞き出そうとはしていない。

 

 よって俺は、爆乳さんが年上なのか年下なのかもわからない。

 今日会う人物がどんな容姿なのか、俺はさっぱりわからないのだ。


 伝えられていることはただ一つ。

 

 この喫茶店の前で、一人で待っていてほしい。

 一人で待っている人物を見つけたら、声を掛けるとのことだ。




 時刻は15時30分。約束の時間が訪れる。

 

 俺の緊張はピークに達し、ソワソワと落ち着かない気持ちを紛らわすように、俺は辺りを見渡した。

 

 

 そこで俺は、一人の少女と目が合った。

 

 

 少女は小柄で華奢な体つきをしていた。

 紺色のワンピースを着ており、艶やかな黒髪は鎖骨の辺りまで伸ばしてある。

 

 年齢は14、15歳あたりだろう。

 俺には高校1年の妹がいるが、その妹よりは幼く見える。

 

 そんな少女が、こちらへと近づいてくる。

 

 きっと喫茶店に入るつもりなのだろう。

 俺は少女から目を逸らし、意味もなくスマホの画面を覗き込む。

 こうしていた方が、少女が店に入りやすいと思ったからだ。

 

「あの、すいません」

「ん……?」


 どういうわけか、少女は喫茶店に入らず、俺に声を掛けてきた。

 俺はゆっくり顔を上げて、少女の方を見る。

 

「どうしたのかな?」

漆黒しっこくさん、ですよね?」

「……………………」


 漆黒さん。今この少女は、漆黒さんと言ったのか。

 

 俺のゲーム内での名前は、漆黒しっこくチョコぼう

 ギルドメンバーからは、チョコぼうだの漆黒しっこくだのと呼ばれることが多いが……。


「……漆黒さんじゃないんですか?」


 まさか。まさかとは思うが、この少女が?

 いやでも、こんなお上品そうなお嬢さんが、爆乳☆爆尻だなんて名前でゲームをするか?

 

 きっと今のは聞き間違いだ。

 そうだ、そうに決まっている。

 

「……漆黒チョコ棒さん」

「……………………」


 ……うん。フルネームで呼ばれたら、流石に認めるしかない。

 

 しかしここで、一つ大きな問題が発生する。

 俺は本当に、声に出してその名を呼んでいいのだろうか。

 

 10代少女が爆乳と声を掛けられる事案発生!

 ……だなんてことが、不審者情報に掲載されたら困る。

 

 かといって、呼ばないことには始まらない。

 俺は意を決し、ついにその名を口にした。

 

「もしかして、爆乳☆爆尻さんですか?」

「はい、爆乳☆爆尻です」


 目の前の少女は、本当に爆乳さんのようだった。

 こんにちは爆乳さん。リアルでは初めまして爆乳さん。

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