第41話 第二部 吸血鬼はどこにでもいる 序章


 中学最後の夏休みだから、冒険みたいなことをしたいって、最初に言い出したのは誰だったろう。

 

 透琉とうる祥真しょうまか、あるいは佳月かづきか。

 きっかけは古い映画。

 少年が死体を探しに行くってヤツ。


「死体とかは、俺マジ無理」


 透琉は髪を後ろに流しながら言う。 

 いくら校則が緩いウチの学校でも、肩よりも長い透琉の髪は反則じゃね?


「いや、ないから。日本で放置された死体とか」


 僕は苦笑する。

 でも、死体から抜け出たモノは、いるかもね。


「昆虫のいっぱいいそうなトコが良いな」


 僕は昆虫好きだ。

 昆虫全般、節足や環形にも詳しい。

 あんまり、女子ウケは良くない趣味だけど……。


「じゃあ、どっかの山の麓でキャンプ」


 祥真はアウトドアが好きな奴。

 ていうか、川原でのバーベキューが好きなのだ。


「不思議な封印とか解いて、異世界行っちゃったりして」


 一まわり体がデカい佳月は、ムードメーカー。

 短髪で日焼けしている、元野球少年だ。


 四人とも同じ中高一貫生。

 現在中三だけど、一貫だから受験の心配はない。

 だからこそ、中学時代の最後の夏を、目一杯楽しみたい。


 でも、自慢じゃないけどみんな非リア。男四人でバカやって、夏の想い出を作りたかった。女子がいたら、それはそれで嬉しいけど。


「まずは場所を決めよう」


 リーダー格の透琉が言い出した。

 彼女いないグループだけど、透琉のことを好きな女子は結構いる。

 オーガニック派の透琉は、さらさらの髪と整った顔立ちしていて、ちょっと羨ましい。


「北海道! 涼しそう」

「交通費、高くつくよ」


 佳月の提案は、遠いので却下。


「海は?」

「あ、俺パス」


 泳げない祥真が首を振る。


「そうだな、あのさ、ちょっとした心霊スポットみたいなところ、どう?」


 コワイ系話の好きな透琉が悪戯っぽく笑う。

 僕も結構コワイの好きだから、つい話に乗る。


「動物の首系?」


 佳月がちょっとキョどりながら言う。そう言えば、最近コワイ映画見たとか言ってたっけ。


「限界集落みたいな?」


 都会で生活している僕たちは、「ナントカ村」のタイトルには弱い。


「限界、じゃないけど、最近、割と近い県でコワイ噂を見た気がする」


 僕が言うと、透琉は食いついてくる。


「へえ、何それ、何処の話?」

「S県の山地。麓の村に出る、吸血少女だって」


「「おお!」」


 祥真も佳月も目が輝く。

 少女ってとこがキモだな、きっと。


 吸血少女の噂はこんな感じだ。

 中学に通っている少女は、仲の良かった友だちから、無視されるようになった。

 所謂イジメの第一歩。


 学校に行きたくないけど、行かないと親が心配する。

 少女は毎日家を出て、学校へは行かずに近くの神社や森で過ごしていた。


 ある日の夜。彼女は、月の光を頼りにトボトボと歩いていた。


「どうしたの?」


 少女に声をかけて来たのは、とんでもなく綺麗な女性だった。

 少女はイジメが辛いと泣いた。だから夜遅くまで、友だちに会わないようにしているのだと。


 話を聞いた女性は言う。


「わたしの仲間におなりなさい。嫌な相手なら、消してしまえば良いのよ」


 以後、少女の姿は消えた。家からも。学校からも。

 ただ、彼女をイジメていた者たちは、高熱を出したり、顔中に赤い斑点が浮き出たりして、次々と死んでいった。

 死んだ者たちの首筋には、赤い点が二つ……。


 今も、月の光の下で、少女は遊んでいるという。

 本当の友だちを見つけたくて……。



「ナニソレコワイ」

「可愛いコなら許す」


 祥真と佳月の漫才に、吹き出しそうになりながら、透琉が言った。


「ソコにしようぜ!」


 結局リーダーなんだよね、透琉が。


「じゃあ決まり。噂の場所近くで、キャンプしたり山歩きしたり」

「釣りできるかな」

「肝試しやろう」


 男四人は盛り上がり、計画を立て始めた。

 早く夏休みになあれ!



「えっ! 中学生だけで泊まるって、出来ないんだ」


 僕たちは「少年の家」とか「青年の家」みたいなトコに泊まって、翌日からキャンプ場へ移動する予定でいた。

 でも、引率者が必要とかで、それじゃあ僕たちだけの冒険にならない。


「手を出さないで見守ってくれる、誰かを見つけないと」


 親や親戚じゃない人が良い。

 だって必ず余計なことを言ってくるから。

 中学生なのでお金はないから、ボランティアでやってくれる人、いないかな。


「そうだ! ボランティアしてくれる人、募集してみようよ。大学生とか」


 透琉はそういうと、地元向けのSNSで募集をかけた。


「大学生って、自分たちが遊ぶので忙しいんじゃないか?」


 佳月はそう言い、祥真も頷いた。


 数日後、一人だけ連絡して来た人がいた。


「ボランティアで構わないって! やった!」


 大学生じゃない大人の男性だった。

 その人は変わった条件を付けていた。


「何々……。『君たちが冒険している間は、昆虫採集させてくれ』だって」

「良いんじゃない。こっちも自由に出来るし」


「なんて人?」


「加藤、さん」



 梅雨が明け、通知表貰って夏休みが来た。

 僕たちはそれぞれ、衣類やお菓子、自分用の薬などを買って、旅の準備をした。


「どこか行くのか?」


 珍しく家に居る父さんが、僕の荷物を見て訊いてきた。

 父さんは農業関係の仕事をしていて、夏は休みが少ない。

 小さい頃は父さんと一緒に、夏休みは昆虫採集に行ってたから、きっと虫好きになったんだろう。まあ、父さんは害虫対策が専門だけど。


「うん。友だちとね。ちょっと泊ってくる」

「気をつけてな」

「はあい」


  こうして僕の、いや僕たちの夏が動き始めた。

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