今日は畜産に関わる農業の話をしようかな。

 フルーツや野菜じゃなく、飼料として使われる、穀物の事。


 飼料として代表的なのが、麦!もちろんこの世界にもありますとも!


 魔王の所為で魔草になっちゃったけどね。でも麦として加工できるし、栄養素抜群だし、栽培もシンプル!

 魔草になっても良いこと尽くしな麦様。


 しっかーし!!

 世の中そんなに甘くない。


 え、何のことかって?

 決まってるじゃない。


 いくら麦って言ったって、魔草だぜ?

 収穫が遅れると、成長しすぎて進化するんだよ!

 食人花になるんだよ!


 食われちゃうんだよ!


 (ぎゃああああ!!)


 あぁ……、言ってるそばからネグレクト気味のエリアに収穫に向かわせたバイト君が……。


 さぁさ、今日はそんなおっかなびっくりな麦様を紹介しよう。

 バイト君が助けてって叫んでる気がするけど、気のせいでしょう。



——— オールラウンダーな麦様 ———


 麦様はオールラウンダー!

 家畜の飼料や人間様の食べ物の他に、実は薬も作れてしまう。


 若葉は調合でポーションに。

 穂が実る前なら、刈ってロール状に巻いて牧草に。

 穂が実ったら収穫、脱穀、そして製粉又は精米。

 籾殻とかも飼料に出来る。


 収穫した麦様は、大半が飼料用に他の牧場に売られるけど、食べて美味しい麦は人に渡る。

 単価では安いけど、大量に売ってしまえばそこそこの収入が見込めます。

 塵も積もれば山となるってやつだね。


 春麦と冬麦を分けて育てていけば、収穫時期がちょうど半年ずれるから、年中安定した収入が見込める。

 しかも畜産動物を飼育する場合、飼料は必要不可欠。


 ということは、売上が減ることが無い!

 なので安全マージンをたっぷりとって、今年度の売上が来年度の予算を上回るように調整していけば安泰なのだ。



——— 土地 ———


 安心安全な麦様を栽培して牧場を経営したい人!

 乗り越えねばならない壁があるのをご存じですか。


 それは、牛などを飼育している牧場よりもさらに馬鹿でかい土地が必要だという事。


 え、どれくらい必要かって?


 うーん。例えば東京ドーム一個分の土地があるとしよう。そこで収穫できる量が、牛一頭の一ヶ月間の食糧だと言ったら、規模が分かるかな。

 やっぱ元モンスターだからね、食べる量がハンパない。


 だから麦畑持ってる人達は、まるっと麦牧場になってしまう。

 畜産と農業、片方やるだけでもかなりの土地を必要とするのに、さらに両方やろうとするクレイジーな人はいない。どっちか一つしかやらないってのが普通だね。


 で、牛を飼育できるくらいのお金と実力を持ってる人なら、絶対にウハウハな牛を選ぶ。

 両方できるくらいの土地持ってたら超エリート牧場だよ。


 え、じゃぁ大陸丸々一個所有していて、氷雪、砂漠、山岳、森林、草原、海の全6エリア持ってる我が牧場はどうなんだって?


 ふふん。そりゃもちろん、ハイパーエリートさ。

 麦くらい育てるスペースはあるさ。


 俺っち世界の救世主だからね、これくらいの土地持ってないとおかしいのさ。


 決して、土地くれないと王国領内にモンスター放つよキャハ♡とか言って、王様を脅して王太子に継承予定だった大陸を奪っ、ゴホン、譲って貰ったなんて事ないからね♡



——— 種まき~発芽 ———


 麦様の栽培は意外と簡単。


 畝を立てて、種をばら撒いて、土をかぶせて、水をやるだけ。

 それだけで次の日には芽が出てる。


 畝を立てるには、農筋を使うしかない。


 まずは土地を見積もって、木を切り倒していく。

 根っことか転がってるから、カマとかクワとか持って根っこを拾っていく。

 で、要らないものを全部掘り起こして除去したら、土を耕して、溝を縦に掘っていくんだよ。


 そうやって掘り起こした土を左右に分けていったら、そのうち畝が立つ。

 手作業でやろうと思えばかなり時間かかるし、体力も必要になってくる。


 え、モンスターマスターな俺っちはどうやって我が牧場の土地を整備したのかって?


 もちろん、今説明した通りさ!


 なーんて、冗談。


 もっと簡単なやり方があるのに、わざわざ手間かけるかよ。


 こうやってね、指パッチン。

 地形改造魔法ジオフォーミング!


 ゴゴゴゴゴゴ———……。


 はい、できました♪

 いやー、勇者パーティーの風水師くんに教えてもらったんだけどね、これがまた便利なんだよね。


 え、風水師でもなければ地形改造魔法ジオフォーミングを使える風水師も知らない?


 そんなの知ったこっちゃない。

 自分でなんとかしてくれ。



——— 土 ———


 さてお次は発芽から収穫までの保管や管理。

 コイツら、土が元気なら育てるのは楽。


 暑さに強ければ寒さにも強い。乾燥した山岳地帯でも、湿度の高い熱帯でもすくすく育つ。

 さすが麦様。


 それもそのハズ、地中の魔力を吸って成長してるから。魔力さえあれば、その他の環境などは関係ないってわけさ。


 そうそう、地中にも魔力があるんだよ。


 牛や豚の糞が肥料になるって前に言ったことあったよね?

 あれはね、糞の中に微量ながら魔石の欠片が混ざってるから。


 モンスターの心臓ともいえる魔石も、新陳代謝には敵わない。

 ちょっとずつ古い部分が削れて行って、減った分は摂取した食事の過分で補う。


 んで、削れた古い魔石が糞と一緒に排泄される。

 人の内臓の内側の細胞がターンオーバーしていくのと同じ原理だね。


 で、その魔石入り糞を肥料として使うことで、土に魔力を混ぜて、元気にしてあげるのだ。

 こうやって元気にした土が、作物を育てるキーコンポーネントになるのだ。


 うーむ、この循環。

 生命の輪廻。

 ポエティックで素晴らしい。


 ……ウ〇コ麦。



——— 収穫 ———


 麦様は成長サイクルのどの時点でも収穫出来る。


 注意したいのが、収穫を逃した場合。

 穂に蓄えられているエネルギーがキャパを超えると、一気に全て消費されて、食人花に進化する。

 消費されたエネルギーは魔石になって、花の体内に収まる。


 ほぼ空の状態の魔石ができる訳だから、進化したての花はエネルギーの蓄えが少なく、腹ペコ状態。

 見境いなく周りの生き物を攻撃して食っちゃう。


 普通の農民ならこの時点でアウトだね。

 だってコイツ、牛と同じランクだもん。

 つまり中級職の冒険者がパーティー組んでやっとこさ倒せるくらいの強さ。


 でもモンスターマスターな俺様的には心配ナッシング!


 お、噂をすれば何とやら。


 進化した麦が一体こっちに向かってくる。

 ホーレホレホレこっちおいでー。


 ガブリ。


 痛ェ!?



——— 飼料 ———


 危なかった。


 マイペットがホーリードラゴンさんでなかったらマジで危なかった。


 このタイミングで突然変異種アブノーマルとか、しかも麻痺毒持ちで防御貫通攻撃とか。

 全状態異常回復効果のあるホーリーブレス様々だよ。


 ゴホン、気を取り直してツアーを再開しようじゃないか。


 麦様の穂を収穫、脱穀したあとの麦や、籾殻はそのまま飼料としてあげてもいいけど、発酵させたりもする。

 日本でいうサイレージの事やね。


 牛や豚にサイレージをあげると発酵させた分喜んでくれる。

 喜んでくれるとすくすくと育ってくれる。


 これが畜産のミソなんだよねー。


 幸せに育った家畜ってブクブク太るから、霜が乗って美味いんだよねー。

 可愛く可愛く、手塩にかけて育てて、最後は……じゅるる。


 マーベラスな肉になるのだ。



——— 麦酒 ———


 さぁ最後に!


 麦と言ったら!


 麦酒!


 ビール!


 Beer!


 かくかくしかじかで発酵させて煮たりなんたりしてったら発泡酒になる!!


 いやー、一日の〆はやっぱりビールでしょう。

 キンキンに冷えたグラスにシュワァーって淹れて、グビグビっとな。


 ぶはぁ、美味い!


 え、どうやって作るのかって?

 ちっ、お楽しみ中なのに。


 錬金術師君に貰ったビール精製魔道具で作ったんだよ。


 どこで買えるのかって?

 知らないよ、自分で錬金術師探して頼んでみなさい。


 とりあえずビール飲みたかったら一杯五百ゴールドで良いよ。



——— 終わりに ———


 家畜を飼育するにあたって重要な飼料。

 その代表である麦様は大変優秀。


 栽培は簡単だし、進化させなければいつでも収穫可能。

 麦は売れるし、牧草も籾殻も飼料になるし、さらには余った麦を使ってビールも造れる。


 本当、良いこと尽くしの麦様。

 土地さえあれば誰でもできるので、余ってる土地があればお試しあれ。

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