第6話

『キミ…不登校?』


…え?


「え、いや、ちゃんと学校行ってるよ?」


『学校行く時間じゃない?』


「え」


『いやぁ、時計見てよ!八時十分!キミの学校どこかわからないけどさ!』


「嘘だ…」


『キミのスケジュール表みたらびっくり!おかしいなぁ、七時四十五分出発で八時に到着になってるよねー、というか、スケジュール表とか、イマドキの子って作るんだ。すごいねぇ』


「…」


『つ、ま、り?』


「…学校…間に合わない!」


『そう!早く準備しろっ!』


「…急に…今さら…いいや、遅刻していこう」


別に、まだ高校生になってから遅刻したことないし。

いいよね…?


『…意外と冷静だね…なんだ……』


ボソボソとなにかを呟いて黙る。

本当にこれは、…なんなんだろうか…

何を考えてるのかわかんないし、謎行動起こすし…


まあ、急がないといけないことに変わりないね。うん。


めちゃくちゃな髪を手で整えて制服を着て…

優雅に朝御飯は食べられないからとりあえずパンを口に詰め込んでバックを持って行ってきます!


あぁ、駄目だ、精神状態が悪すぎて逆に…明るくなってる…


いつもはだらーっと歩いているから時間がかかる通学路も走っているからかすぐに、景色が変わって、学校の近くの曲がり角までやってきた。


少女漫画なら、イケメンと可愛い女の子がぶつかるんだろうなぁ、とか、考えながら曲がり角までついた。


その時、目の前に見知った顔が接近してきた。


「あがっっ!」

「わ!…だ、大丈夫ですか?…って」


変な悲鳴。

ちなみに、変な悲鳴をあげて倒れたのがぼくだ。


「…虹叶くんだ。おはよう、大丈夫?」


髪の毛が一部黒く染まったイケメンが手を差しのべてくる。


「…水月みづきくん…」


そこには、クラスメイトの水月くんが立っていた。

髪の毛が一部黒く染まっているのは、ぼくの能力のせいだ。接触しただけですぐこうなる。

でも、本人は綺麗な紺色の髪の毛の持ち主。


彼も能力を持っているらしい。

教えてくれなかったけれど。


急展開にびっくり。


『…ん?あれー?ぶつかった?』


…え、まだついてきてたの?


『おー、イケメソじゃん、イケメソ!』


イケメソってなに?


「…虹叶くん…?どうしたの…?」


水月くんがぼくの手を引っ張る。


「なにかあった?大丈夫?」


不思議そうにぼくの顔を覗き込む。

あー、イケメンだなぁ…

…あれ?…水月くん、誰かにてる?

出会って数ヶ月だけど…初めてこんなこと思ったかもしれない。


「…本当に平気?怪我してない?」


ぼけーっとしたままのぼくに気をかけてくれる


「特に痛みとかはないよ!ごめんねぶつかっちゃって」


いつもの感じに。

前の馬鹿みたいな声で言葉をかえす。

高校生でこのキャラって、大分きつかったんだろうな。


「ううん、そんな僕が前を見てなかっただけだからさ…血とか出てない?絆創膏あるよ?」


水月くんがバッグから絆創膏を取り出してぼくに差し出した。

紳士…

ありがたく受け取った。


そういえば、彼、今日は普段着だ。


「ねえ、水月くん、今日学校いかないの?」


水月くんは、少し驚いた顔をして、それから真顔で言った。


「今日、僕、用事があって学校行けないんだ。

…一人で大丈夫?」


水月くんが聞いてくる。

水月くんと仲良くなるまで、ぼく、ほぼずっと一人だったからか、…転校生だった水月くんに心配されるなんてね。


「大丈夫だよ、その用事…?頑張ってね」


「ありがとう、じゃあね。」


そういうと水月くんは反対方向へ歩いていってしまった。


どうしたんだろうか?

水月くんが休んでたことなんてまだないのに。

絶対に休まないって言ってたのに…

ちょっと寂しい…


『ねえ!なにボケーっとしてるの?』


「うわっはぁあ!気配消さないでッ!」


信じられないくらいキモい声がでた。

通行人がぼくをみてビクッとした。


よし、死んでこよっと。

ちょうどいい高さの木とかないかなぁー


『なに良からぬことをなんがえてる顔してるの?』


アレ、バレテルッ!


『はやく進みなよ、遅れてるからっていさぎよく遅れないで』


そういいながら背中を押してくる。


ほとんど感触がない。

冷たくも暖かくもない…


なんだか不思議な感じ…


『…ほら進んで、蹴るよ』


暴力反対…

というか、蹴られても、もしかしたら痛くないかも。


そう思いながらさっさと足を進める。

歩道の端によって、できるだけ大股で歩く。


ぼくが道を歩くたび、周りの物の色素が少しずつ抜けるようにくすんでいく。


ぼくのみる景色はいつも、くすんで、淡くて、モノクロで。


きみがいないと、鮮やかで、色のある世界なんて、見ることができない。


きみが、二人で一つっていってたの、そんな意味だったのかなぁ?

でも、違うかなあ?

ぼくの都合のいい、夢だったかな?


そんなこと考えてるうちに、学校につく。


大きな校舎、綺麗な庭、美しく整えられた外観。


もちろん校内もとてつもなく綺麗だ。

庭の一角、色とりどりの花。

きみの髪の色と同じ、いや、きみの髪のほうが十分綺麗だけど。とても綺麗な花たちが咲いている。


申し訳ないなぁ、ここをぼくが通ったら、この花たちの色も…

くすんでしまうんだろう。


『…キミの能力って制御できないの?』


「できない。…って、精霊様が」


『へぇ、…精霊様?なにそれ?』


「…精霊様っていうのは…」

 

極めて重要な者。って教えられた。


この土地の人間に初めて能力を与えた、神様のような存在…で、白銀の髪に、赤い目を持った…男性?の姿をしてる。なんで知ってるか、って言うと、会ったことあるから。ものすごーくイケメン。水月くんとは、また違うタイプの。

なんだか凄い予言を的中させたり、能力の便利な要素を引き出したり、ここら一体の土地に結界…?みたいのをはって悪者から守ったり…


簡単にいうと


「…まぁ、ここら辺の土地の絶対的存在…神様みたいな…?」


『へぇ、厨二病みたいだ』


「そんなこと言ってるとなにされるか分かんないよ…」


ちなみに、精霊様は、この学校の理事長を育て上げた人でもあるらしい。

理事長は、なんとなく水月くんに似ている。

親族だとかなんだとか。


『まぁ、それはおいといて、なんか予防策とか無いの?というか、その精霊様は教えてくれなかったの?』


「いや…?」


教えてくれはしたけど…


「曖昧でよく、分かんなかった」


『えー、…じゃあしょうがないねえ』


ふよふよ浮きながら困ったようなポーズをする。

…子供じゃなかったら、多分殴ってるんだろうな。

なんかうざい。


『…話のネタ無くなったから進んで~』


そう言いながらまた、感触がほぼ無い手でぼくの背中を押してくる。

感触はほぼ無いくせに、力はこもってるから、つまづきそうになる。

どういう存在なんだろう、本当にこの子供は。


…早く家に帰りたいなぁ

他の自殺方法調べなきゃ

成功する予定だったんだけど


「…もう今さらか」


『なにが?』


「…!?、な、なんでもない……」


ぼけーっとしてたら、声にでてたみたい。


『そっか。』


怪しい目で睨んでくる。

糸目だから分かんないけど。


『…ねぇ、はやく校舎内入ってよ、中、見たい見たい!』


校門を通り過ぎてすぐの、正面玄関。

靴をしまって、学年色の赤い上履きをらこうとする。…ぼくのせいで黒くなっているけど。汚れがあまり目立たないくらいしかいいところがない。



クラスがある三階まで階段で大股で上っていく。




…三階まで…



つらい…


きつい…


「はぁ……ぜぇ…」

『バテてるよ…はやくない?』


三階…


つい…たっ!


達成感!

ふー!


…入学式の日、黒糸においてかれたっけ

あの時、ガチ泣きしそうになったなぁ…


懐かしいなぁー


そこから数週間たって、クラスに馴染みかけてきた時に、無視されるようになったんだっけな。

…黒糸が死神に殺されて数日、ぼくは、誰にも無視されなくなった。


黒糸がきっと主犯格のようなものだったんだ。幼なじみで、理解者だったと思っていた、でも、それは


ぼくの勘違い。だった。


でもそれは、ぼくが悪い。


どこが悪かったのかは分からない。分からないけど、でも、別に、だからって、嫌いにならなかった。

怖いなぁ、辛いな、とは思ったし、死にたいとも思った。


なんだか、変な方向に、思考が曲がっていく。

でも、これはきっと本心なんだ。


でも、好きなのには変わりない。

恋とか、そういう、甘酸っぱいものじゃない、好き、だったんだろうなぁ。


好き、じゃなくて、ぼくの盲目な好意だったのかも。沢山、想ってた。


もうそれも、今さらだ。

死ななきゃ、きみに会えなくなっちゃった。

あーあ…


死にたい。と、こうも、死を求めたのは、ぼくが弱いから…?

なに、考えてるんだろ?

…三階?…ちょうどいいや

死ねるんじゃないかな?この高さなら。

マンションとかだったら、五階くらいの高さだし。


でもどうせ、阻止されてしまうかも…しれないけどなぁ。


『…ねぇ』


「……なに?」


『また、良からぬことを考えてるんじゃない?キミ。』


「…」


『それに、随分、物騒だよね。』


「…駄目?」


『…君さ、単純じゃないかい?なんですぐ、その場の感情に…飲まれてしまう?』


どういうこと?

その場の感情って?


いつでもどこでも、どんなときでも、死にたいのに。


『…君は多分、もう…はぁ、もういいや。残念だけど諦めて。僕がいる限り死ねないから』


糸目だけれど、すごい睨んでいるのがわかる。

正直怖い。とてつもなく恐ろしい。

でも、


「試してみる価値はありそうだけど?」


三階の教室前の廊下、人が簡単に飛び降りられそうなくらい大きい窓をおもいきり開ける。


自分が普通より小柄で良かったと思った。

足をかけて踏み込もうとする。


…なんだか今は、怖くないや


『…あーもう、駄目だってば!』


子供の叫び声

……それでも、おもいっきり飛べば、いけ…




「なにしてるんすか!虹叶くん!」





…?


『あれ?ボク出番なし?』


…ぼくのクラスの前の廊下。

色素の薄い灰色の髪に✕印の特徴的なヘアピンをつけた、中性的な少女がそこに立っていた。

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