脇役剣聖、招集されるがめんどくせえ
「げ、マジかよ」
ある日。ギルハドレッド領主の屋敷でのんびり日光浴をしていたら、アルムート王国王家からの手紙が届いた。
内容は「七大剣聖を集めて会議するからとにかく来い」というヤツだ……めんどくさい。
俺は手紙を投げ、ソファの上でだらけていた。
すると、落ちた手紙を拾うヤツが現れた。
「ラス、お前……行かないつもりか?」
「げ、ギルガ。お前、森の開拓に行ったんじゃねぇのかよ」
短いクセッ毛の白髪、口元を覆う白い髭、眉間に寄ったシワ、五十歳なのに筋骨隆々の男、ギルガが手紙を拾って俺を睨む。
「行くならさっさと準備をしろ。ここから王都までは馬で二週間はかかるぞ」
「行きたくねー……」
「毎年そう言って、結局は行くだろうが。お前も一応は七大剣聖なんだ。ちゃんと役目をこなせ」
「七大剣聖なぁ……別にこんな称号、いらねえんだが」
「そう言うな。ほら、さっさと準備をしろ」
「はぁ~……」
王都、行きたくない。
七大剣聖の連中には会いたくないし、国王にも会いたくない。七大剣聖の称号とか剥奪されても別にいいとは思ってるけど……ギルガのやつに『行け』って言われたら行くしかない。サボろうとするとコイツのゲンコツが飛んでくるしな。
ギルガ。一応、昔は俺の部下だった男だ。爵位を得て領地を得てからも、ちゃんと付いて来ては領主の補佐をしてくれる。
「わかったよ。準備する……」
「そうしろ。いつも通り、留守は任せて安心して行け」
こうして俺は、アルムート王国へ向かうことになった。
◇◇◇◇◇◇
こうして馬に乗って二週間……いや~楽しかった。
キャンプしたり、小さな村に寄って飲み会に参加したり、綺麗な景色を楽しみつつのんびり進み……二週間ではなく、三週間かけて王都に到着した。
アルムート王国王都。北西南東と四つの門があり、俺は南門から入る。
相変わらず、王都の門には大勢の商人や冒険者が並んでいる。
とりあえず最後尾。商人っぽいおっさんの後ろに並ぶと、若い四人組の冒険者が俺の後ろに並んだ。
「へへ、今日はゴブリン十匹も狩ったぜ」
「宿代だけじゃない。晩飯も豪勢に行こうぜ」
「ふふ、お肉食べよっか」
「いいわね。お肉!」
微笑ましい会話だ。なんとなく笑顔になると、リーダーっぽい少年と目が合った。
「んだよおっさん、何見てやがる」
「あー、楽しそうだなぁと。若いのはいいなぁとも」
「はん。おっさん、冒険者か? そんな剣差して、ソロでゴブリン狩りでもしてんのかよ」
「いや、俺は南の領地から来たんだ。知ってるか、ギルハドレッド領地」
そう言うと、仲間の少女がぷぷっと笑う。
「ギルハドレッド領地って……すんごいド田舎じゃん。おじさん、一攫千金狙いで王都に来たの?」
「あー、そういうんじゃないな。仕事だ仕事」
「仕事ねぇ……恰好からするに、物乞いとか?」
少女がそう言うと、仲間たち四人が爆笑した。
いやはや若い……エネルギーに満ち溢れているな。冒険者ってことは全員『スキル』持ちなんだろうけど。
俺は苦笑いして誤魔化すと、少年少女は俺に興味を失ったのか分け前の話をする。
そして、正門前の入国チェックで俺の番になった。
「ようこそアルムート王国へ。身分証の提示を頼む」
「はいよ。えーと……これでいいか?」
俺が見せたのは、アルムート王国王家がくれた、王家の紋章である獅子が刻まれたメダル。メダルには古代文字で『六』と刻まれていた。
それを見せると、兵士は真っ青になり俺に一礼する。
「こ、これは失礼いたしました!! な、七大剣聖『神眼』のラスティス様!!」
「ああ。で、通っていいかい?」
「はい!! あ、あの……この王印を見せれば、並ぶ必要はなかったのですが」
「え!! あ~……そういやそうだった。毎回忘れるんだよなぁ」
と、少年少女たちが俺を見て唖然としていた。
「な、七大剣聖……? お、おっさんが?」
「あー、まぁ、そんな感じだ。ははは、じゃあな」
ポカンとする四人に手を振り、俺は王都へ入った。
すごい喧騒だ。多くの住人、冒険者、商人たちがすれ違い、路上で露店を開いたり、見えるところにある飲食店はどこも賑わっている。空気を吸うと、肉の匂いや甘いパン、果実や香辛料などの匂いが混ざった香りがする。
「ん~、王都の香りは久しぶりだ」
田舎のギルハドレッド領地は森の香り、王都は雑多な香りがする。
これはこれで悪くないが……これから向かう王城では、会いたくない連中が多い。
「あー……とりあえず、行くしかないか」
俺は重い足取りで、アルムート王城まで向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
アルムート王城で王印を見せると、すぐに別室へ案内された。
そのまま数十分しないうちに、案内の兵士が来る……向かったのは、アルムート王城・大会議室。
部屋に入ると、五人の騎士が俺を出迎えた。
「遅いわよ、ラスティス」
「あー……悪い」
そう言ったのは、七大剣聖序列五位のアナスタシア。見てくれはとんでもない美人で巨乳だが、俺を見る目は氷のように冷たい。
「まーいいじゃねぇか。遅刻したワケじゃねぇし」
俺を庇ったように言うのは、序列四位のラストワン。軽薄そうな感じだが、俺を擁護するために言ったんじゃなく、犬猿の仲であるアナスタシアをからかうためだ。
案の定、アナスタシアはラストワンを睨む。
「私が言いたいのは、七大剣聖とあろう者が遅刻なんて許せない、ということよ」
「お堅いねぇ。その胸は柔らかそうなのになぁ?」
「……あなた、死にたいのかしら」
「おー怖い。死ぬ前にぜひ揉ませて欲しいねぇ」
険悪な雰囲気……すると、咳ばらいをする老人、ではなく。
「やめんか。全く、若いモン同士喧嘩するでない」
おお、序列六位のエドワド爺さんが仲裁した。
ようやく俺は座り、対面に座っていた少年……じゃなくて、序列三位のロシエルに挨拶する。
「よう、久しぶりだな、ロシエル」
「…………」
「あー……背、延びたか?」
「…………」
完全無視。というか、俺を半目で見てすぐ目を反らした。
ま、こんなもんか……序列七位の最下位剣聖なんて、どうでもいいよなぁ。
そして俺は、黙り込んでいる青年……ランスロットを見た。
「ランスロット。団長は?」
「……間もなく、来る」
ランスロット。
イケメンで、七大剣聖で団長に次いで強い剣聖だ。すました顔してるけど、何を考えているのかねぇ。
だが、ランスロットは俺を見て……少しだけ、憎々しそうにしているのを俺は見た。
そうなんだよ……俺、ランスロットに嫌われてるんだよなぁ。
すると、ドアが開き、ボーマンダ団長が入って来た。
俺たち七大剣聖のトップにして序列一位。当然だが、その戦闘力は計り知れない。見た目は四十代前半の、マッチョなイケメンおじさんなんだけどな。
「皆、集まったようだな。ではこれより、七大剣聖による、一年会議を始めることにする」
椅子にどっかり座り、ボーマンダ団長は重々しく開始の合図を出した。
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