刀と魔法と幼女と!

雪の降る冬

第1話プロローグ

『自分が自分であると証明するためには自分の存在を完全に定義できなければならない。だからこそ人間は自分すら信頼できない。』


 これはかの有名な心理学者エバート・F・ロードが残した名言である。私はこの言葉が嫌いだ。まるで世界中の人々が自分を定義できないと言っているようでひどく悲しい言葉に聞こえるから。


 でも、最後の一言『人間は自分すら信用できない』その一言にはなぜか共感できた。私は私が嫌いだからかもしれない。心の私と向き合った時、私は発狂してしまうだろう。



 


 私は走っていた。焦って周りが見えなくなるほど走っていた。理由はもちろん、学校に遅刻しそうだから。


「やばいやばい!?遅刻が確定しちゃう!!」


 今朝は6時に起きたはずだった。高校初日だから遅刻しないように頑張って起きたのに、気が付けば寝ていた。朝ご飯を食べている途中なぜか寝落ちしてしまったのだ。


 遅刻まであと2分。ここから全力で走っても10分はかかる。どうやったって間に合うはずがない。でも可能性はある。学校までの道のりを変更して一直線に切り裂けばいい。走りながら切り裂けば5分の一にできる。


「アイラ!」


 私は彼女の名前を呼んだ。小さくてちっぱいでペッタンコで可愛らしい幼女の名前を呼んだ。すると、私の隣に光が集まり幼女の形へ変化する。


「お呼びでしょうかご主人様?」

「うん。遅刻しそうだから、力を貸して!?」

「畏まりました。しかしよろしいのですか?許可が下りていない状態で私たちを使うのは禁止されているのではなかったのですか?」

「遅刻するからいいの!だからお願い!?」

「畏まりました。」


 すると幼女の形が変形して一つの刀となった。


「怒られるかもしれないけど、登校初日に遅刻は今後の生活に響いちゃう。これは仕方がないことなんだよ。」


 走りながら刀を鞘から勢いよく抜く。その風圧は目の前のものを切り裂くのではなく、私を運ぶ力となる。どう言う原理かは知らない。でも、幼女が変形した刀は空間を切る。そこにあった空間を確実に切り取り、私との間をゼロ距離にする。だから、使い方によっては私を遠くに引き寄せるために使ったりできるのだ。


「はぁっ!はっ!はっ!」


 とにかく腕を振るった。切れるだけ切り刻んで私が走るよりも早く前へ進む。建物の存在する空間すら切り取って進むことで学校まで一直線に進める。


「やばっ!チャイムが!?」


 予想より早くにチャイムが鳴った。私の体内時計は正確だと思っていたけど、一分遅いようだ。しかし、校門までは後数メートル。ちょうど校門を絞めている先生がいたけど、そこも空間を切り取って無理中へと入った。


「君!?大丈夫!?」

「だ、大丈夫です…。」


 滑り込むように入ったので頭から地面に着地した。ちょっとだけすりむいてしまったけど大丈夫。


「名前を聞いてもいい?一応不審者かどうか確認するために。」

「ボク、一ノ瀬青葉です!新入生としてやってきました!」

「新入生?もしかして、入学式に?」

「はいそうです!」


 私は気前よく敬礼して見せた。しかし、目の前はあっけらかんとして私を見る。


「君、入学式なら30分前に終わったよ?」

「えっ…。」


 私は急いで鞄を探る。その中に入っていた一つの封筒を取り出し、中に入っていた紙を見せた。


「そんなはずはありません。ここにホームルームの時間割りが書いてあります。」

「そうだね。始まりの時間は今になってるね。」

「そうです。なので入学式が終わっているはずがないです。」

「それは違うかな。その封筒、もう一枚入ってるでしょ?」


 そういわれて封筒に手を突っ込む。すると、私の知らないもう一枚の手紙があった。


「これは何ですか?」

「今日のスケジュール表です。ほら見て、30分前に入学式、その後にホームルームになってる。」

「そう、ですね…」


 顔がみるみる青くなるのが分かった。遅刻を確定させないために禁止事項を破ってまで急いできたのに、すでに遅刻が確定していた。


「そういえば君、……」


 私の肩が震える。そういえばこの人の前で刀を使ったのを見られてたんだ。このままだと怒られちゃう。何とか話をそらさないと!


「と、とにかく、教室を教えてもらえますか?」

「あ、ん~~ま、いっか。……付いて来なよ。体育館にまだ残ってるかもしれないから教えてあげる。」


 何とか話をそらせた。でも、今の間は何だったんだろう?何か考え込んでたみたいだけど、気にしなくてもいいのかな?それに、教室を案内してもらおうと思ったのに体育館に案内すると言い出すし、残ってるって何が?一年生だけ体育館で待たされて何かあるのだろうか?


 疑問を持ちながらも後ろを歩いていく。目の前にある校舎の横を通り抜け、裏側にやってくる。けれどまた校舎があり、建物5つ分を通り抜けると今度は花園が広がっていた。色とりどりの花が咲き誇り、きれいな場所。アーチを通り花園を抜けると、また大きな建物がいくつも並んでる。それらを通り抜けると目の前の人は立ち止まった。


「ここが体育館。覚えておいてね。」

「えっ?」


 そこには天井が崩壊し、窓や扉・壁と言ったありとあらゆる物が壊された建物が広がっていた。私は入学式があった場所に案内してもらっていたはずなんだけど、いつの間にか何かの争いでもあった場所に案内された。


「中に入るよ。」

「中に、入るんですか?」

「そうだよ。君もこの学校に入学するんだよね?それともやめとく?」

「いえ、中に入ります。」


 私はこの学校の中に入る必要がある。今更やめられない。覚悟を決めて先に入っていく人の後を追う。半壊した体育館らしき場所はそれでもかなり頑丈そうに立っていた。中に入ってもきしめく音は無く、穴が開いてたり扉や窓といった場所以外に亀裂が入っていいたりといった事も無かった。


「すごいでしょ。君はこんな事ができる学校に入るんだよ。」

「すごい、ですね。怖いぐらいすごいです。」


 褒めているのか褒めているのか怖がっているのか自分でも分からないけど、ぽろっと言葉がこぼれた。本当に何があったんだろうか。何があれば、こんなことになるんだろう?敵襲にでもあったのかな?


「あ、まだ居たよ。」


 その人の声を聴いて体育館の中心に寝そべっている人を見る。その人には見覚えがあって、うっかりと大きな声で叫んでしまった。


「ロリペッタンの人だ!!」

「誰がロリペッタンだ!!!」


 大声で口を滑らした事に対して強い口調で返答が来た。寝そべっていた幼女は起き上がると何も着ていない体で堂々と歩いてくる。


「あんた何してるんですか。服を着てください。」

「うるさい。そんなのはどうでもいい。その前に私を愚弄したそいつを処刑する。」


 その言葉は私と彼女が初めて会った時にも聞いた言葉だった。でも、その前に、服を着なくても大丈夫だと思ってるこの幼女は大丈夫かな?と心配してみたり、裸を見れてうれしいと思ってみたり。





「試験番号1008番一ノ瀬青葉です。趣味は走る事です!」


 面接官に向かって挨拶をする。すると面接官は立ち上がり付いて来いと手で合図を出した。私はその人の後ろに付いて行き、とある場所に案内された。その部屋は真っ黒で何も見えなかったけど、カチッという音と共に部屋の明かりが灯った。


 あたりを見渡してみると、部屋の中心にテーブルがありその上に怪しげな瓶が置いてあるだけ。さっきまでいた面接官は消えて私一人取り残された。


「これって、誘拐だったり?」


 率直な感想を述べてみた。だってこんな場所に一人取り残されて、これが高校の入学試験と言われても誰だって納得できるはずはない。


「誘拐なわけ無いでしょ。」


 しかし、私の感想を否定する声が響く。誰もいないはずの私の後ろから声がした。勢いよく振り向くとそこには姿がなく、改めて前を向くと幼女がいた。


「ロリペッタンだ!?」

「誰がロリペッタンだ!!」


 またしてもうっかり口を滑らしてしまう。悪気はなかったんだけど、今日の私は思った言葉がすぐに出てしまうらしい。


「お前、入学試験を受けに来たんだよな?なのに、そんな態度をとっていいのか?」

「すみません!うっかり口を滑らしてしまいました。」

「そうかそうか。お前処刑な。」

「正直に答えたのになんで!?」


 嘘をついたら怒られると思ったのに逆効果みたいだった。どうしても入学しないといけないのにこのままではだめだ。


「なんでもするのでどうか入学させてください!今のままでは生きていけないのでどうかよろしくお願いしますぅ!!」


 土下座をしながら頭を下げた。今の私は一文無し。家もなければ寝泊まりする場所もない。中学校のほうのお金は完全に払い終わっているので卒業までは寝泊まりさしてもらえるけど、卒業した後は生活できなくて野足れ死んでしまう。


「なんでもね。ということは、卒業まで忠実な実験体モルモットになってくれるのか?」

実験体モルモットですか?」

「嫌なの?」

「いえ、実験体モルモットでも何でも成るので生活する場所を提供してください。この学校に入ればただで寮に入れてくれてお金も支給されると聞きました!どうか私にその恵みを!」


 土下座をして叫ぶ私を彼女は呆れたような目で見る。しかし、どんな目で見られようともこのままでは終われない。私の明日がかかってるんだ。


「そう言われても、可哀そうだから合格、とは言えない。条件がクリアされない限り駄目だわ。」

「条件ですか?それは何ですか!?」

「テーブルの上。あそこに瓶があるのがわかる?」


 テーブルの上の便に目を向ける。怪しいと思っていた便だけど、入学のするための条件とやらに必要なものなのかな?


「あの瓶にはとある薬が入ってる。それを飲んで効果が表れれば入学を認めてあげる。」

「分かりました!」


 置いてある瓶を取ってその中に入っていた薬を全て飲み込んだ。


「あなた馬鹿じゃないの!?そんなに飲み込んだら――――」

「何とも、無い…?」

「えっ?」


 幼女はひどく驚いた顔をしている。この薬の効果とやらが表れ無くて驚いているのだろうか?


「本当に何も無いの?」

「はい。」

「それはおかしい。一つでも飲めばすぐに表れるはずだし、それにあの量。絶対効果が表れないなんておかしい。」


 と言われても何も起きていないので私にはどうとも言え…


「っ!?」


 急に胸が熱くなる。心臓の脈拍がどんどんと加速していき呼吸がし辛くなる。酸素を取り込めず、でも血液の循環は加速する。体中酸素のめぐりが悪くなり立っているのが辛くなる。


「効果が表れたようね。それにしても、あんなに取り込めばかなり辛いでしょ。普通2錠飲んで我慢できる程度の物を何倍の量も取り込めば仕方ないわ。死ぬかもしれないけどそれは自業自得。でも、もし生きてたら、あなたを絶対入学させるわ。」


 彼女は悪女のように微笑む。でも、そんなのを気にしている余裕はない。苦しい胸を押さえつけて無理やり鼓動を抑える。加速している循環を、逆に息を止めることで流れを抑える。


 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。


 どれだけ我慢しようとしても、その気持ちが変化しない。体中の管という管が今に破裂しそうで、穴という穴から血が飛び出しそうで気持ち悪い。汗によってびっしょりと服が濡れてそれらも気持ち悪い。でも、そんな事すらこの苦しみに勝てない。


「やっ、やばっ、いっ……。」

「もう限界?なら、入学は無理ね。」


 それは困る。それは困るけど、この痛みに耐えられない。もう無理だ。破裂する。


 私はこの痛みに耐えきれず放出した。2つの命を産み落とした。


「はあっ、はあっ、はあっ…。」


 体中からドッと力が抜ける。死んでしまったような感覚に襲われたけど死んでいない。私は何とか生きていた。


「あら驚いた。耐えたわね。」

「何とか。」


 落ち着いていく鼓動の余韻に浸りながら私は立ち上がった。


「それで、何か変わったことある?」

「……?」

「何も無い?と言う事は失敗?なら、前言撤回で不合格。」

「ちょ、ちょっと待って下さい!?耐えたら絶対に入学さしてくれるんじゃなかったんですか!?」

「だって、何も起こらなかった。それなら実験失敗だからいらない。大量に薬を摂取したから私の期待通りになると思ったのに何もなかった。だから私にしてみればいらなくなった。むしろがっかりしたわ。」


 呆れたようなポーズをとって言われた。私にとっては大事な事なのにこうもあっさり言われてら困る。こうなったら嘘でも何か言わなきゃ。さっき体に異変後起きたことで幼女が反応しそうなこと。しんどかったとか苦しかったとかの事じゃない。薬を摂って体に変化が起きた事。そう、例えば命が生まれたような感覚。


「あ!?そ、そうだ!?」

「な、何?近くで大声を出されても困るわ。」

「すみません。でも、一つだけ変化があったんです!こう、出産をするような?命を生み出すような感じがあったんです!実際に生まれたのかは分からないけど、これまでの実験で同じようなこと起きましたか!?」


 私はジェスチャーをしながらなるべく分かりやすく説明した。


「……無いわ。というか、命が生まれるって、あなた大丈夫?」

「まるで変人みたいに言わないでください!?とにかく、何か実験の成功的な感じにはなりませんか!?」

「そういわれても……いえ、もしかしたら、成功したのかもしれないわ。実験とは常に新たな事象が起こる。失敗か成功かはそれを調べるまで分からない。いいわ、最後の実験をするわ。」


 彼女はまた悪女のように笑う。でも、それはどこか年相応の女の子のような子で可愛らしくもあった。


「命が生まれたと言うけれど、それはどんなものなのかしら?」

「そう言われても、私も初めての感覚で何とも言えないです。」


 悲しい事に何も分からない。ただ生まれたという感覚だけしか分からない。


「なら、何を生んだのかあなたが考えなさい。そして思い浮かべてここに呼び出すの。」

「呼び、出す?」

「ええ。呼び出すの。それが出来ればあなたは即合格。今回の言葉は何があっても取り消さない。正真正銘の合格。」


 それなら何としてでも呼び出さないと!この結果で私の明日が決まるんだ!


 目の前の幼女は自分で考えて思い浮かべろと言った。それはつまり、自分の好きなようにその命の形を想像すればいいのだろうか?


 いいや、違う気がする。私がすべき事はそんな事では無い気がする。私の生んだ命は私であって私でない私。それを思い浮かべるべきである気がする。現実の形をかたどった私じゃない私の在り方、私の生き方、私の強さ、私の弱さ、そして、私がどうありたいか。その心を映し出すべきである気がする。


 徐々に浮かんでくる思いを形にしていく。手、足、腕、胴体、胸、頭。全ての部位(パーツ)を思い描き組み合わせて、その命は一つの生命体ひととしてその場に現れる。そして、最後に大事な大事な名前付ける。新たな命には必ず名前が付けられるのだから、それにも付けてあげないといけない。そう、彼女は哀も楽も兼ね備えた優しい子。誰もを笑顔にする子。なら、一人目は哀と楽から文字を取ってアイラ!


「あなたはアイラ!そう、アイラ!私の前に姿を現して!」


 私の声に反応するように彼女は私の前に現れた。


「よ、幼女来たぁ!!!」


 私の前には小さくてちっぱいでペッタンコで可愛らしい女の子がいた。


「これは中々……面白いわね。」


 こっちの幼女も反応がよろしそうだ。これなら合格真っしぐらかなぁ!


「ど、どうでしょうか!?」

「失敗ね。」

「嘘ぉー!?」


 なんで!?かなり反応がよろしそうだったのに!?あんなに楽しそうな反応を見せてたのに失敗だなんて!?


「最後まで話を聞きなさい。あなたは今失敗した。それには変わりない。だって、この薬はあなたが理想とするあなたに一番合った武器を召喚するための薬だから。よって、武器を召喚しなかったあなたは失敗。」

「それなら…」

「だから、最後まで話を聞きなさい。失敗は失敗。でも、普通失敗なら何も召喚できない。痛い思いをして終わりの話なのよ。でも、あなたは違う。そこに一人の少女を生み出した。つまり、異常現象イレギュラーを引き起こした。それは研究者にとって解き明かさないといけない謎。これからもしっかり調べさしてもらうわよ。」

「それってつまり、……合格って、事ですか!!」

「そうよ。あなたは即入学決定よ。今後この学校で私の実験体モルモットとしてこき使ってあげる。」


 やったぁー!?おじいちゃん見てた!?私ね、明日を生きていけるよ!?寝る場所見つけたよ!?


「あの、ご主人様。不躾ですが、私は何をすればよろしいのでしょうか?」


 入学が即決定した私は目の前の幼女の事を完全に忘れていた。こんなに可愛らしいお人形のような幼女を忘れてしまっていたのである。


「あ、えーっと、う~~ん。ロリペッタンさん、どうすればいいんですか?」

「どうもこうもないわ。直ぐにしまってしまいなさい。」

「えー、せっかく呼び出したんだから何かしてもらおうよ!?」


 呼び出しておいて直ぐにさよならは悪い気がする。


「なら、質問をしてしましょう。そこのあなた。」

「はい、なんでしょうかロリペッタン様?」

「ちょっと、あなた…」


 私は隣のロリペッタンさんに肩をつかまれた。その手はかなり力と圧がかかっていた。


「ねえ、呼び出したこの子に何を教え込んだの?」

「な、何も教え込んでないです!?」

「そう。なら、なんであんな呼び方をされたのかしら?」

「し、知りません!?」

「何かご不快な思いをさせてしまったでしょうか?ご主人様と同じ呼び方をしただけなのですが…。」


 また肩に力と圧がかかる。彼女が言うには私の呼び方をまねただけなので罪があるのは私かもしれないけど私に罪はないよ!?


「し、質問をするんでしたよね?先に終わらした方がいいんじゃ、ないかな?」

「そうね。あなたの処遇は後にして先に聞きましょう。アイラ、あなたは何ができるの?ご主人と呼んでいるこの子に何ができるの?」


 絶対年下の幼女にこいつ呼ばわり。何とも悲しいことだけど、ここで何か言えば絶対何か言われるので言わなかった。


「私はご主人様の写し鏡の片割れであり、道具です。ですので、ご主人様が願うことをただ遂行するだけです。」

「待って、アイラは道具じゃないよね?その見た目で道具とか言われるのはちょっと私には荷が重いよ。それに、写し鏡ならばボク自身であるって事でしょ?それならなおさら道具扱いできないし、何ならご主人様呼ばわりもさせられないよ。」

「いえ、写し鏡とはいえ、あなたから生まれた道具に変わりありません。必然的に主従関係は決まっており、それを守る義務があります。」


 アイラは頑なに主従関係を意識していて、直してはくれないらしい。でも、こんなかわいい子にご主人様と言われるのは気持ちいので許しちゃう。


「話を続けるけど、願いを遂行するといったけれど、それはどうやってどのように行うのか具体的に教えて。」

「それはもちろん、道具である私は道具としてご主人様に使われるだけです。」

「道具、道具って、そんな抽象的なことを言われてもねぇ…」

「抽象的ではありません。ありのままを言っています。信じれないのであれば手本をお見せします。ご主人様、私をお使いください。」


 アイラはジャンプして一回転した。すると体が縮み、一本の刀に変身した。その光景を目の当たりにして驚きのあまり口が開いたままになってしまった。


「どうでしょうか?私が道具である証明ができたでしょうか?」

「これはいったい…」

「な、何これ!?アイラが刀に!?」


 いったいどうしてこんなことができるのか分からないけど、こんな事ができるアイラはカッコ可愛い子と言う事だけは分かった。ロリペッタンさんも私に起こっている事は分からないらしく、酷くご乱心のようだった。探求心をそそられて今にも食いつかれそうだったけど、今日はここまでという事に終わった。


 これが、ロリペッタンさんとの出会いだった。





 ロリペッタンさんが着替え終わるのを待ち、話を再開してもらった。ただ、もう少し裸を見ていたなと思っていたり、いなかったり。


「登校初日から一ノ瀬は遅刻してたみたいだけど、何かあったの?」

「いえ、純粋に寝坊です!てへぺろっ☆」

「はぁ、うざいわね。倉世くらせこいつの首を跳ねてくれない?」

「嫌ですよ。大事な生徒に手を上げませんよ?それより、お二人は仲良さそうですけど、親戚ですか?」

「こんなのが親戚ならとっくに殺してるわ。」

「会うのは二回目です。入試の時と今日だけです。それよりも、ボクが大事な生徒ってことは、担任の先生なんですか?」

「そうだよ。僕は倉世くらせ相似そうじ。君の担任でこの学校の一年生担当の教師だよ。」


 突然のネタバレに驚きつつもそれなりのあいさつをする。まさか、校門であった先生が担任だったとは思わなかった。


「話を続けるんですけど、どうしてそんなに仲がいいんですか?」

「別によくないわ。こいつがダルがらみするだけよ。」

「そんな事無いですよ。ロリペッタンさんはツンデレですね。」


 そう言ってみたものの睨まれてしまったのでこれ以上嫌われないためにお口をチャック。


「それよりホームルームは始まってると思うんだけど何してるの?」

「いや、あんたが『特待生は別途で待たせてから自分のもとに連れて来い』って言ったから連れてきたんですよ。」

「入学式が終わった後に連れてこられても困るわよ。さっさとその子連れて教室に戻りなさい。」

「いいんですか?この子だけ特別扱いはよくないのでは?」

「特別扱いしてないわ。入試の時点でこの子は一足先に苦難を乗り越えたそれだけよ。」

「……分かりました。どちらにしろ、あんたの決めたことなので抗議が行われても自分で責任取ってくれれば問題ありません。」


 私が居なかった入学式ではいったい何があったのか本当に気になる。ロリペッタンさんもそれぐらい教えてくれてもいいのに。


「最後に一ついいですか?」

「何よ?」

「俺も理事長の事ロリペッタンって呼んでいいですか?」

「言いと思ったのなら殺すわよ?その子にも呼ばないように言ってるんだから。」

「ボクも駄目だったんですか?でも、ロリペッタン以外の名前知らないんですけど。」

「あなたね、ロリペッタンが名前だと思っていた時点で驚きだわ。…この子の入学やっぱり取り消そうかしら。」

「それはダメです!?ボク生きていけなくなります!?」


 結局、何とか折り合いをつけて名前まで聞き出すことができた。ロリペッタンさんは『葉狩場はかりば天秤てんり』というらしい。そして、この学園の学園長らしいんです。つまり学園のトップで一番偉くて、学園においてすべての権限を持っている人です。

……私今までの言動謝罪した方がいいかな!?ロリペッタンさん、ロリペッタンさん言ってたけどかなり不敬罪だよね!?あれだけ殺すとか処刑とか入学取り消しとか言われてきたけど、一歩間違えば本当にそうなっていたみたい、アハッ☆


「倉世先生、ボクってかなり失礼な人間だと思われてますよね!?」


 教室に案内されている途中、思い切って聞いてみた。


「間違いなくそうだね。」


 倉世先生は首を縦に振ってくれた。私の思っていた通りのようだ。なんて悲しい事なんだろう。


「仕方ないじゃないですか!?学園長って知らなかったんですよ!?中学後半一文無しの状態で、当時の担任からここなら生きていけるって教えてもらっただけで、どういった学校か知らないまま受けたんですから。それにあの見た目ですよ。初対面で名前も年齢も名乗られなかったら、誰も気づきませんって。」

「そこまでちゃんと知っておかないとだめだよ?どういった学校かは知っておかないと、特にこの学校は珍しいんだから。」


倉世先生にも注意されてしまった。思い返せば一部を除いて私が悪いので仕方ない。


「この学校がどういうところか担任の先生から少しでも聞かなかったの?」

「タダで寮生活が出て、授業をしてればお金がもらえるって言われました!」

「間違ってはないんだけど、本質的な部分は知らないみたいだね。それならみんなの前でも説明するからその時はちゃんと聞くようにね。」


 倉世先生は立ち止り横にある教室の扉を開いた。その中へと入っていくので私もついていった。教室の中には生徒が30人ほどいてそれぞれ数人で輪になって話し合いをしていた。私がいない間にクラスでは複数のグループに分かれているようだ。しかも席はきれいに埋まっていて、後ろの一列誰もいない状態。つまり、ボッチスタートになりそうな雰囲気です。


「みんな席に座ってね。ホームルーム始めるよ!」


 倉世先生の声掛けに従ってみんな席に座る。私も端を通って後ろの席に一人寂しく座った。ホームルームの初めは先生の自己紹介でかなりざっくりと説明された。


「僕の名前は倉世くらせ相似そうじ。君たちの学園初めの担任で君たちの先輩にあたるかな。この学園の卒業生は大体この学園の研究機関に所属するんだ。僕の場合は去年まではそうだったんだけど、今年の生徒は鍛えがいのある生徒が多いからって学園長から頼まれたんだよね。君たちが卒業するまでビシバシ鍛えるから覚悟しておいてね!」


 先生の話が終わると拍手が起こる。担任なのは事前に聞いていたけど、ここの卒業生だったのは初耳だったので素直に驚いてしまった。でも、ロリペッタンさんもと言い葉狩場学園長との会話ではかなり砕けた感じで駄弁っていたのでその中の良さの理由が分かった気がした。


「それじゃあ次はみんなの自己紹介をしてもらうよ。前の席の右から行こうか!」


 倉世先生の指示で次々と自己紹介がされていく。一人、二人、三人と順調に進んでいき最後は一番後ろの私が担いました。異様なまなざしを向けられていた気がしたけど、当たり障りのないフレンドリーな挨拶をしてみた。


「ボクは一ノ瀬青葉です!中学の担任の先生に勧められてこの学園に来ました!学園にあまり詳しくないので教えてくれる友達を募集中です!ぜひ声をかけてください!」


 私が話した感じではとてもフレンドリーに言えていたはず。みんなも拍手をしてくれたので好印象だ!完璧な自己紹介だったんじゃないかな?


「これでみんなの自己紹介は終わったね。なら次は、学園の事を一切分からない人もいるので復習もかねて学園についての説明をしようと思います。この学園は簡単に言えば軍人育成機関にあたるかな。実際の所は人間の人体実験をするだけなんだけど、人体実験を受ければ強力な肉体と強力な専用の武器が手に入るから表向きには軍人育成機関ってなってるんだ。」


 つまり、違法である人体実験を合法的に行うために名目は軍人育成機関として行っているということだね。だからロリペッタンさんは実験体モルモットって言ってたんだ。納得、納得……て、ならないよ!?お金が手に入るって聞いてきたけど、実はかなりやばい学園に来ちゃったかな!?


「君たちは入試で怪しげな薬を飲まされて辛い思いをしたと思う。あの薬はBB-IJ99という薬で学園長が開発した肉体改造と魂を武器に変換するための薬だ。しかし適性が無い者は反応しないという難点があってね、ここにいる君たちは適性があった者でその中でも入学式の第二の適性検査を潜り抜けた者だ。中には入学式に出ず、この場に来た人もいるけどね。」


 倉世先生と目が合う。先生はにこやかに笑っていて少し恥ずかしい。でも、入学式にも適性検査とやらがあったのは初耳だ。あの体育館の崩壊はそれによるものだったり?


「入学式で体験したと思うけど、すでに強靭な肉体を持っている。でも、それは未完成だ。君たち専用の武器『心魂ソウルイーター』もまた成長途中だ。この学園の目的は新たな人類を作ることだ。そのためにも君達にはここですくすく育ってほしい。」


 先生が話し終わると拍手が起こる。ここに居る私以外のみんなは入学目的もあって考え深いことが多かったように見える。でも、今の話を全く知らなかった私からしたら、先生が言っていたことがいまいち分からなかった。


『強靭な肉体』とか、『心魂』とか当然の知識としてしゃべっていたけど、当然何の事やらなので理解できない。そんなことを知らない私は先生の話が一切分からなかったので、放課後ちゃんと聞きに行こうと心に決めた。


「ホームルームで話さないといけないことは終わったから、一旦休憩だね。今日は一時間だけ授業があるから、……大体20分後かな?それまでに席に着くように。この後の休憩は、友達づくりの時間にあてたらいいと思うよ。」


 次の授業準備のためか倉世先生は教室を出て行ってしまった。倉世先生の言葉を使えば、この時間は友達作りがメイン。知り合いがいない学園を楽しく過ごすためには友達が必須。


 あたりを見渡して話しかけられそうな人を探してみる。


 案の定というか、分かっていたというか、教室内ではすでにグループが出来ていた。教室に入ってきた時に形成されていたグループで固まって話を始めていた。結果、一番後ろで一人になっている私はボッチ確定。とほほ……。


 机でうつ伏せになる。こうなった以上ボッチを受け止めて、せめて息苦しくないように生活しよう。そのために今からできることを考えないと。例えば昼休憩ボッチ飯をするための場所を探すとか。

 

 なんならロリペッタンさんの所に行ってお昼ご飯を食べようかな?なんだかんだ優しいし。……そういえば、昼食は購買で買い食いとかではないんだっけ?学園の説明が書いてある紙に食堂について書かれていた気がする。ビュッフェ形式だったかな?


 それなら必ボッチ飯も確定か。うーん、泣けてきた。テイクアウトできないかな。ロリペッタンさんと食べるって言い訳したら許してくれないかな?


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